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Artist

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Title

25 VERSIONES CLASICAS DE EL MANISERO


manisero
Japanese Title 国内未発売
Date 1928-1964
Label TUMBAO TCD-801(EP)
CD Release 1997
Rating ★★★★☆
Availability ◆◆◆


Review

 1928年、キューバの女性歌手リタ・モンタネールがはじめて吹き込んで以来、数えきれないほど多くのミュージシャンがカヴァーしてきたラテン音楽のスタンダード中のスタンダード「南京豆売り(ピーナッツ・ヴェンダー)」を、スペインのトゥンバオがピック・アップした25組のアーティストたちの歌と演奏でつづった企画盤。

 モンタネールにはじまり、30年、この曲を一躍世界に知らしめることになったアントニオ・マチーンドン・アスピアス楽団の名演はもちろんのこと、トリオ・マタモロス、ルイ・アームストロング、ザビア・クガード、ミゲリート・バルデースオルケスタ・カシーノ・デ・ラ・プラーヤレクォーナ・キューバン・ボーイズ、スタン・ケントン、ペレス・プラードノラ・モラーレス、ジョニー・パチェーコ、チコ・オーファリル、ベボ・バルデース、チャーリー・パルミエリ、ボラ・デ・ニエベといった古今東西のラテン音楽、ジャズ畑の大物たちから、無名のミュージシャンまで、録音年順に収録。

 こういうことは音楽マニアならだれでも思いつくことだし、個人的にカヴァー集をカセット・テープなどに編集した経験のあるひとも少なくないだろうが、じっさいにCDで発売してしまう心意気には頭が下がる。しかも、たんに集めたというレベルではなく、しっかりツボを押さえた選曲であるところは、さすがはトゥンバオだ。

 「南京豆売り」は、モイセース・シモンズがモンタネールのために作曲したソン・プレゴンといわれる種類の音楽だが、プレゴンとは「物売り歌」のこと。
 アントニオ・マチーンが情感を込めて「マ〜ニ〜」と歌い出すところなぞ、懐かしい、のどかな情景が目に浮かぶようで、われらがあきれたぼういずが「た〜け〜、さおだけ」とパロってみたくなったのもよくわかる(「ま〜め〜」というのもある)。また、マレイシアのP.ラムリーが「サ〜テ〜(鳥の串焼)」と歌ったところからして、扱うブツは違えども物売りの呼び声には、洋の東西を問わず、相通ずるものがあるのかもしれない。

 余談だが、日本人は、よっぽどこの歌に共感するところがあったのか、ざっと思いついただけでも松平晃「小鳥売の歌」(昭和14年)、灰田勝彦「ジャワのマンゴ売り」(昭和17年)、小畑実「長崎のザボン売り」(昭和23年)、暁テル子「リオのポポ売り」(昭和25年)、同「ミネソタの卵売り」(昭和25年)、美空ひばり「ひばりの花売娘」(昭和26年)など、物売りの歌がやたらと多い。「上海」「南京」「広東」「東京」とつづいた岡晴夫の“花売娘シリーズ”も曲調はちがえど影響はあろう。これら「南京豆売り」の亜流だけでアルバムをつくったらおもしろいだろうな。
 「南京豆売り」がこれほどまでに世界中のひとびとを魅了したことの背景には、その親しみやすいメロディに加えて、アントニオ・マチーンのすこし憂いを含んだ甘い歌声とレンベルト・ララのチャーミングなトランペットがいいしれないノスタルジーを掻き立てたことがあったからではないかと思った。

 ヨーロッパ風歌曲の匂いを残すモンタネールも、すばらしいハーモニーを聞かせるトリオ・マタモロスも、ほかのどのミュージシャンもこうはいかなかった。とくに時代が下るほど、「南京豆を売る」という本来の目的を忘れて、技巧面だけが先走りしてしまっている。聴き手に「南京豆」を買いたいという気を起こさせるものでなければ、真の「南京豆売り」とはいえないと思う(笑)。

 しかし、「南京豆」が欲しくならずとも、音楽的に「これは?」と思わせる歌や演奏もあるにはある。
 ジャズの巨人ルイ・アームストロングとデューク・エリントンは、アスピアス楽団がヒットさせたのと同じ30年に早くもカヴァーしている。本盤に収録されていないエリントンのヴァージョン(『ザ・コンプリート・ブランズウィック/ヴォカリオン・レコーディングス』(MCAビクターMVCR-20028〜30)に収録)はラテン風味のカケラもない純然たるエリントン・サウンドでおもしろみがないが、ルイ・アームストロングのほうはクラベスの代わりにカスタネットを用いたハバネラ調のリズムでラテン色を演出し、サッチモ独特のダミ声でスキャットを交えながら歌われていてかなりユニーク。

 ミゲリート・バルデースが「これぞキューバ音楽!」といいたくなるようなすばらしい歌唱を披露してくれたかと思えば、ザビア・クガード楽団はハリウッドっぽい陽気で大仰なサウンドを展開してみせる。レクォーナ・キューバン・ボーイズはずいぶんと気ぜわしい「南京豆売り」に扮し、フレッチャー・ヘンダーソン楽団出身のジョン・カービーはブギウギ調の文字どおり「ピーナッツ・ヴェンダー」を披露。また、スタン・ケントンはアフロ・キューバン調ビッグ・バンド・サウンドを試み、ペレス・プラードは「南京豆」をピアノで手際よく調理してみせる。

 ほかにユニークなところではチャーリー・パルミエリをゲストに迎えてのジョニー・パチェーコの58年の演奏。パチェーコのフルートは別にどうってことないが、ギミックなハモンド・オルガンは意外性があってじつに効果的。アルバムの後半は、ラテン・ジャズ、ブーガルー、パチャンガ、チャチャチャ仕立ての演奏がつづくが、もはやラティーノたちのアイデンティティのシンボルとしての機能以外に「南京豆売り」である必然性はどこにも感じられない。アルバムの最後をかざる64年録音のボラ・デ・ニエベのピアノ弾き語りがせめてもの救い。


(8.22.02)



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by Tatsushi Tsukahara