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Artist

GUACO

Title

GUAQUISSSIMO!


giaquisssimo!
Japanese Title グアキッシモ!
Date 1988 /1989
Label ボンバ BOM2021(JP)
CD Release 1991
Rating ★★★
Availability


Review

 ワールド・ミュージック最盛期の1990年に、『マドゥーロ』(ボンバBOM2007(JP))が国内発売されるや、いきなりその年の「ミュージック・マガジン」ベスト・アルバム〜ラテン音楽部門で第4位に選出され、91年発売の『グアキッシモ!』と92年発売の『カリブ魂』(ビクターVICP-5161(JP))が同部門で2年連続第1位を獲得するという快挙をなし遂げたベネズエラ出身のグループ。同時期、グァーコと並んで高い評価を受けていたのがマルティニークのカリとコロンビアのビノミオ・デ・オロで、かれらについてはまったく異論がないが、こと、グァーコにかんしてはどうにも納得いかなかった。

 ドメスティックな要素を適度に残しながら、ズーク、レゲエ、ラップ、ハウスのような新しめの外来音楽がブレンドされ、そこにシンセとか打ちこみなどの最新テクノロジーが施されてさえあれば、立派なワールド・ミュージックとして成立しちゃうみたいな当時の風潮にぴったりハマったのがグァーコの音楽だったように思う。ワールド・ミュージック・ブームは猛烈な勢いで世界中のポピュラー音楽を食い尽くし、カリブ世界で最後に残された処女地がベネズエラであり、コロンビアだった。グァーコやビノミオが、ブーム末期にあらわれたのにはこのような事情があった。

 あの時代はたしかに浮かれすぎていた。バブルの余韻で「インターナショナルであること」が必要以上に称賛されていた。グァーコの恥ずかしくなるぐらいの陽気さと安易なまでのシンセ依存体質はそんな浮かれ気分を映し出した鏡であった。ブラジルのバイーアから登場したジェローニモの『素敵なランバーダ』(オルター・ポップBSPCD-403(JP))や、シンガポールのディック・リーが傑作『マッド・チャイナマン』(WEA WMC5-25(JP))のあと、久保田麻琴と共同制作した『エイジア・メイジア』(WEA WMC5-169(JP))にも共通したムードを感じる。

 グァーコの音楽には、根底にベネズエラ西部マラカイボ湖畔のスリア地方に伝わる伝統音楽ガイタがあるといわれるが、当時のわたしの耳にはそれ以上にサルサの要素がつよく感じられた。とくに、プエルト・リコ・サルサ界からヒルベルト・サンタ・ローサをゲスト・ヴォーカルに招いた『カリブ魂』にいたっては、「これじゃベネズエラ風味の都会派サルサじゃねえか!」って感じで、15分もすればリモコン・スイッチに手がかかっているシロモノ。

 むしろ、ほぼ同時期に手に入れたマラカイボ15(MARACAIBO15)というグループのベスト盤"LO MEJOR EN 15 ANOS"(FOCA CDF-10345(Venezuela))のほうにガイタの伝統がつよく感じられ愛聴したものだ。だが、このグループについての情報がまったく得られないうえ、ベネズエラ盤は入手が容易でないことをかんがみ、ここではやむをえずグァーコで我慢することとした。

 ところで、スリア地方の伝統音楽ガイタには、3/4拍子と6/8拍子が同時進行するスペイン系のリズムであるガイタ・スリアーナと、2/4拍子で刻まれるアフリカ系のガイタ・デ・タンボーラ、通称タンボレーラの2形式があるという。スリアの守護聖母チキンキラの祝日である11月18日をピークに年末の3か月に集中して演奏される季節音楽なのだそうだ。日本でもいくつか思い当たるサマー・シーズンやクリスマスにしか出てこない歌手やグループと同じような位置づけにあるのがグァーコなのだ(いいすぎかな)。

 60年代半ばに学生バンドとして結成されたグァーコは、はじめはガイタ・スリアーナを中心に演奏していたそうだが、70年代にはいるとホーン・セクションを加えて、よりダンサブルなタンボレーラもレパートリーとするようになり、80年代にはガイタとサルサを核に、メレンゲ、レゲエ、ファンクなど、さまざまな音楽要素を取り込んだ現在のスタイルを確立するに至った。

 現在のグァーコは、ボーカル、キーボード、パーカッション、ホーン・セクションの総勢17人に及ぶ大所帯。伝統的なガイタに欠かせないタンボーラという太鼓、チャラスカという鉄製のグィロは大活躍するが、ベネズエラ独自のギターであるクアトロ(プエルト・リコのクアトロとは別物)や、フーロという摩擦ドラムの音色があまり聞こえて来ないのはさみしいかぎり。

 『マドゥーロ』の解説で、評論家の海老原政彦さんがグァコが奏でるガイタ・スリアーナにプエルト・リコ山間部のスペイン系農民の音楽ヒバロを思い出したとあったが、気ぜわしい突っ込むようなリズムのノリといい、胸を締めつけられるような哀愁といい、たしかに両者には共通点が多い。そして、アフロっぽいダンス音楽が人気を博するにつれて、これらスペイン色のつよい音楽や楽器編成がどこか野暮ったく感じられ、隅っこへと追いやられていったところもよく似ている。

 でも、わたしにはこの「野暮ったさ」こそが魅力に映る。88年の"... DEJANDO HUELLA"と89年の"BETANIA"を音源とする日本独自編集による本盤は、派手なタンボレーラ〜サルサが全面に展開され、そうした要素は隠し味としてのみ生かされているにすぎない。

 アルバムの出来でいえば、前年録音の『マドゥーロ』と大差ないが、ベネズエラとトリニダードとの文化的なつながりを思わせるロード・メロディのカリプソ曲'MAMA LOOK A BOO-BOO'(『リアル・カリプソ入門』オーディブックAB02(JP) 収録)をリメイクした'BUBU GUACO'があることから本盤に軍配を揚げたい。ハリー・ベラフォンテや浜村美智子のカヴァーとも聴きくらべてみるのもおもしろい。

 グァーコは地元では「ガイタの破壊者」といわれているそうで、わたしみたいにガイタ・スリアーナを満喫したい向きはやはりマラカイボ15を聴くべきだろう。キーボード、シンセ、ホーンズなどは入っておらず、ガイタの標準的な楽器編成であるクアトロ、タンボーラ、チャラスカ、フーロ、マラカスを主体としたハチロク中心のノリに、スペイン調のやや哀感を帯びたヴォーカルがかぶさる。グァーコのように「インターナショナル」とか「汎カリブ的」な傾向はあまり見られないが、サルサなどからの影響も感じられ、たんなる伝統主義者に終わっていないところがいい。


(2.16.03)



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by Tatsushi Tsukahara