ミステリームーヴのために その9 シュレッドの特徴とテクニック
ミステリームーヴを30年していると、色々なことが分かってきます。上達を安易にしてくれるボート、深く潜ることができるボート、ロングダウンタイムが期待できるボート。どんな道具でも最新のものが一番良い、と思いがちですが、潜らせるテクニックにもトレンドがあり、それが自分にあわなければ最新のボートで潜っていてもストレスになります。
今回の「ミステリームーヴのために その9」以降は、ボートの特徴とテクニックについて紹介していきます。
シュレッドの特徴とテクニック
シュレッドのディメンションは全長289cm、幅61cm、バウとスターンデッキがコンケーブしていること、バウのフットパンプが平らな形をしていることによって、受圧面積が広く、水中でデッキに水を受けやすくなっています。一方でシームラインがロッカーのため、水中でスピンする際にバウとスターンのトップが水面に出やすくなったり、水中の底流に乗って川底へ行く際にトップが浮き上がろうとしてしまいます。この前後のロッカーは水面でサーフィンをする際にはとても有効なのですが、水中でサーフィンをする動きを使って潜る際には非常に邪魔な存在です。
このため、シュレッドを乗りこなすには水中でサイドサーフィンをするイメージでサイドのエッジを使い、サイドエッジのエッジングによって浮き上がることなく川底へ向かうテクニックをマスターしてください。
また、フットパンプが平らなことや、コーミングがボートの外に出ていることから、水中での切れが悪く動きがスローになります。水中でスピンができなかったり、水中でボイル等の水壁にあたり止まってしまうことがあります。シュレッドやマエストロのようなデッキが広く平らなボートの潜り方のコツは、その広いデッキを利用してそこに水を受けること、水中で上から押さえられる流れを絶えずデッキに受ける姿勢を作ること、になります。シームラインで潜らせようとする際には、ボートの切れの悪さが逆にシームラインの良い位置に留まれることになるため、ボートのゆっくりとした動きにあわせうまくデッキに水を受けるようにコントロールしてください。
しかし、シュレッドのようなオールドスクールなボートは幅があるためサイドエッジが食われて上流沈状態となってしまうことが多く、初級者向きではありません。ボートを自由自在に動かすことができるテクニックがあるならば、その広いデッキの面積があなたをさらなる深みへ、ロングダウンタイムへと導いてくれます。
シュレッドを乗る際には、静水で少なくとも5cmは沈んだ状態となっているボリュームのボートを選択してください。私はシュレッドをギリギリまでフロートチョップしましたが、それでも浮船となっているため、ジムさんに写真を見せたところ、「オー、クルージングボート」とのご指摘を受けました。
浮船でも潜ることは可能ですが、水中の安定感は全く違います。私は河原で石を拾いボートに乗せてその問題を解消していますが、皆さんはシュレッドを手に入れたら迷わずミステリーチョップに仕上げてください。
ミステリームーヴのために その10 カゼの特徴とテクニック
スクォートを発明し、世界中に愛好家を広げたジム・スナイダーさんは毎年日本に来てくれます。そんな親日家のジムさんが日本にちなんだ名前をボートにつけてくれました。風です。渡り鳥は風を受けて大空を長時間舞いますが、このボートも水中で流れを受け、川を優雅に舞います。「ミステリームーヴのために その10」テーマはカゼです。
カゼ特徴とテクニック
カゼのディメンションは全長266cm、幅56cm、バウデッキはコンケーブ、スターンデッキはコンベックスしており、バウのフットパンプはかなり立ち上がっています。そして特徴的なドロップバウ!すべてはミステリームーヴのために設計されています。
ドロップバウはシュレッドと真逆の考え方で、水面へ浮かそうとするのではなく、水中で前から流れを受けた際にさらに水中へ潜るよう設計されています。また、スターンデッキのコンベックスは水中で水を受けやすくするという考えではなく、スピンすることによってさらに深く潜ることができるよう設計されており、この2つの特徴はカゼから初めて採用されています。
乗り子はこの特徴を生かすため、水中で動き続ける必要があります。水中で動き続け、ボートに水が当たっている間、カゼは最高の仕事をしてくれます。
また、ボートがスリムなためシームラインで潜らせやすく、水中でのボートの姿勢づくりも安易です。
苦手な動きとして、漕ぎあがりにスピードがないためエディラインで合わせるミステリームーヴが難しいといったことや、受圧面積が小さいため潜った後の最後の粘りがなくダウンタイムが伸びない、などがあります。
全長266cm、幅56cmのボートは他にスリップがありますが、この大きさの自分にあったボート(静水で10cm沈んだボート)であればミステリームーヴがしやすく、水中でボートは安定しているため、カゼやスリップは初級者にもおすすめできるボートです。
カゼは非常に考えられて作られたボートです。これを乗り子が正しく理解し、コントロールすることによって最高のパフォーマンスが発揮されます。誰でもが安易にミステリームーヴを行うことができ、レギュラーチャークやバックカット、後ろ向きでシームラインに入っても潜らせることができる、また、テクニックの幅を広げることが短時間で可能な、スクォート史上、最も優れたボートであることは疑いの余地はありません。
ミステリームーヴのために その11 石積みは日本の文化
日本の今までのシンクスポットで最も素晴らしいポイントは、やはり気田川のぼろバスでしょう。現在は流れが変わり復活の兆しは全くありませんが、ぼろバスは砂や10cm程度の砂利が川に中州を作り、その下流の合流波で潜ることができた場所でした。日本のシンクスポットは水量が豊富にある中流域の場所が多く、よってシンクスポットは玉砂利等によって形成される場合がほとんどです。
私のホームゲレンデである豊川のあかべこも同様です。ただ、部分的に岩盤があり、これが中州が消滅しない1つの理由となっています。数々の増水を繰り返し、合流波は多少の変化をするものの、長年にわたり潜り続けることができるスポットを提供してくれる豊川は水質、ロケーションともに最高で、是非日本や海外のミステリーゾンビに来ていただきたい場所です。
それでも、このあかべこで水量が少ない場合は潜らせることが困難になります。では、どうすれば潜ることができるのでしょうか。海外ではスプレースカートを外し、ボートに水を溜めて潜らせるところに回答を見出したようですが、日本はちょっと違います。日本の川の特徴を生かし、川の玉砂利を動かして自分達で川の流れを作る、なんてことをしています。
写真はあかべこを上流から撮影しています。中州で左右に分かれた流れが合流する場所ですが、右本流がまっすぐ行くと合流波が弱くなるため、石で流れを堰き止め左に向かうようにしています。また、左に向かう流れは3つ作り、左本流に幅広く当たるようにし、かつ、左本流の下に潜りこむように底流を作っています。さらに左奥の大きなプールは反転流となり本流に入り込んでいるため、そこに向かうよう底流を作り左岸壁際でさらなるダウンタイムを狙っています。
スクォートボートが進化するように、良いスポットがないのなら自分達で進化させてしまえっていう考えです。フリースキーヤーがバックカントリーで地形を使ってトリックするのに飽き足らず、自分たちでキッカーを作ってしまえ、そんな感覚に近いでしょうか。
弱い流れであれば、シュレッドやコアなどのデッキの面積が大きいボートにしなければなりませんが、良いコンディションのゲレンデであれば、マエストロやカゼのようなショートボートでも深く、長い時間潜らせることができます。ショートボートは水中での移動がとても楽で、それだけ酸素を消費することが少なく、余裕をもってボートをコントロールすることができます。
この石積みは、するとしないで大違いです。昔は自然があるがままの状態で潜らせることが楽しかったのですが、増水の度に流れが変わるのであれば、いっそ自分たちで流れを変えても同じでは?といった考えに基づき、最初は微調整程度の工事でしたが今は本格的な河川土木工事の域に達してしまっています。
ミステリームーヴのために その12 コアの特徴とテクニック
最近、マエストロやシュレッド等オールドスクールなボートばかりを好んで乗っていましたが、それには理由がありました。ボートのデッキに水を受ける面積があり水中でのフラットスピン性能があるもの、この点においてマエストロはオールドスクールでありながら水中では非常に良い仕事をしてくれました。しかしこの2つのボートはコーミングがジムリムでないため水中での動きが悪く、これが欠点となっていました。今回紹介するコアはこれらの欠点を補い、最強のミステリーマシンとして世に送り出されました。
コアの特徴とテクニック
コアのディメンションは全長289cm、幅56cm、バウとスターンのハルがコンケーブしていることによって、ボートのボリュームを極限まで落としています。ほかに特徴として、シームラインがフラットであること、エッジがシャープであること、フットパンプは横からの流れを受けた際に抵抗にならないようエッジからゆるやかに立ち上がっていること、コーミングはジムリムⅡが採用されていること等により、水中での動きがスムーズで、わずかなエッジ操作によって水中に潜らせることが可能な、乗り子に非常に従順なボートに仕上がっています。
最近のボートと違い全長が長いため、水中でのフラットスピンのスピードはカゼやスリップにはかないませんが、ボートに水を受ける面積が広いため、ロングダウンタイムが期待できます。これは減水した川でミステリームーヴを行う際に顕著に表れます。
もしあなたがコンペティターではなく、かつロングダウンタイムを望んでいるなら、迷わず長いボートを選択してください。股下が28インチから32インチのボートで選択できる一番長いボートは、コアかシュレッドになり、ともにボートの全長289cm、9フィート6インチとなります。筆者は身長167cm、体重56kgですが、コアもシュレッドもフットパンプと座る位置はジャストサイズでセッティングが可能です。残念なのは体重が少ないため、コアであってもボート内に石を入れないとボートが静水で沈んだ状態にならないことぐらいです。
また、唯一の欠点として、スターンのハルの形状がコンケーブしているため、水中でボイル等の流れを受け流さず集中させることになり、下からの強いボイルの押し上げによってボートの挙動が不安定になってしまう場合があります。その際にはボートのエッジングによって流れを受け流すが、あるいはフラットスピンしてバウ側のハルを当てるか、色々試してみてそのゲレンデにあった解決策を探してください。コアはそれができる、水中でとても動かしやすいボートに仕上がっています。
コアはショートボートのような軽快さはありませんが、ミステリームーヴ好きな者にとって最高の相棒になることでしょう。コアは、以前から提案しているスクォートボートの本来の楽しみ方「水の流れを受け、受け流す。不規則な流れをとらえてその動きの中で水と一体となる。このための動きが「ムーヴ」である。」を具現化できる、まさにSquirt BoatingのKing Of the Realmです。
ミステリームーヴのために その13 流心を外すな
梅雨が明けて待望の夏がやってきました。スクォートボーティングには絶好の季節です。一方で問題なのは、渇水によるパワー不足でボートを潜らせることが困難な状況となることです。パワーのない川でどうしたら潜らせることができるのでしょうか。
ポイントは川の流れを感じること
川が渇水したり、増水によって川の形が変わりシームラインが綺麗にできなかったりすることは、長い間スクォートボーティングをしていると必ず出てくる状況です。そんな時にでも潜らせることができれば、スクォートボーティングを一年中楽しむことができます。「ミステリームーヴのために その11 石積みは日本の文化」では川の形を変えることによって潜らせるテクニックを解説しましたが、その13では乗り子のテクニックについて解説します。
これは渇水したあかべこです。石工職人によりシームラインを辛うじて作っていますが、流れにパワーがなくシームラインも小さくなっています。
写真のような川の状態ですと、潜らせることができる水中のスィートスポットは幅が50センチ程度と小さいため、水中でボートに水を受ける幅が非常に小さく、少しでも流心を外してしまうとボートは簡単に浮上してしまいます。また、底流への流れも弱く周期的にやってくるため、その流れを読む力も要求されます。
一般的に左右どちらかの流れが強い場合、シームライン下流で強い流れの反対側にボイルが形成されます。例えば写真のあかべこを見ますと、左岸の流れは一見して緩やかですが水に厚みがあるため流れは強く、右岸の石工職人が作った流れは早く見えますが水に厚みがないためパワーがなく、結果、シームライン下流右岸のプールにボイルが形成されます。つまりシームラインで潜らせると左岸の流れに押され、右岸プールのボイルへとボートが押され浮上してしまい、ロングダウンタイムを狙えない状況となります。
この写真はシームラインを右岸側から撮影したものです。川は左側から右側へ流れており、左側に気泡が見え川底に達しています。水中でボートに乗っている間に気泡を観察することによって、潜っている場所がどのような流れになっているか理解することができます。この気泡をよく見ると、表層から川底に向かう底流を見つけることができますので、そこにボートを置くことによって、ロングダウンタイムを狙うことができます。なお、右側には気泡がありませんので流れは目に見えず、したがって川底に行く流れを身体で感じるしかありません。ボートに乗ってくる水や身体に当たる水の勢いや方向によって、ボートの向きや角度調整、エッジングを行い、ボートに流れを受ける姿勢を作ります。
水中での縦への動きに対応するにはこれで良いのですが、横への動き、「シームラインで潜らせると左岸の流れに押され、右岸プールのボイルへとボートが押され浮上してしまう」問題を解決するには、左岸から右岸に押される前に右岸に行かないよう、水中のシームラインで右側のボイル壁を押す等の動きが要求されます。下から上に漕ぐのではなく、ハンドパドルを肩付近から頭の位置に上げ、水を押し返すようなイメージです。パントマイムの「見えない壁」パフォーマンスを見たことがあると思いますが、それに近い動きになります。これによって絶えず流心を外さないようボートをシームラインに留まらせてください。
スクォートボーティングは非常に奥の深いスポーツです。いつになったら極めることができるのでしょうか。「潜れるに不思議の潜れるあり、潜れないに不思議の潜れないなし」。永遠の課題です。
ミステリームーヴのために その14 ワールドの特徴とテクニック
スクォート界に革命を起こしたボート、ワールドを紹介します。
プロジェットが手に入るようになってから、スクォートボーティングは全世界で身近なものになりました。その後、マエストロ、シュレッドなどが製作されカートウィールやスクリュー系のムーヴ、ミステリームーヴなどが安易に行うことが可能となりました。ミステリームーヴとはボートを水中に潜らせるムーヴですが、ミステリームーヴが安易に行うことができるようになると、水中で色々な場所にボートを移動させたいという欲求が生まれてきます。シュレッドなどコーミングが外に出ているボートは、「水中でコーミングに流れを受けてしまいスムーズなムーヴを行うことができない」、といった声が聞かれるようになりました。
今回紹介するワールドはこの問題を解決した、センセーショナルなボートでした。
ワールドの特徴とテクニック
ワールドのディメンションは全長272cm、幅57cm、ハルはラウンド、デッキはコンケーブしています。また、コクピットのコーミングが外に出ておらず、スプレースカートをボートに埋め込むタイプになりました。現在のスクォートボートは全てこのタイプとなっており、ジムリムはワールドから初めて採用されています。
ほかに特徴として、シームラインがフラットであること、エッジがシャープであること、フットパンプは横からの流れを受けた際に抵抗にならないようエッジからゆるやかに立ち上がっていること等になりますが、バウのエッジがハルのラウンドに影響され上下のバランスが悪く、バウのエッジングを少し強めにしないとスムーズに水中へ移動することができず、この点は最新のボートと違い若干の慣れが必要となります。
これは乗り子のほうで何とかなるレベルで、これに慣れてしまえば基本的にはボートの動きはスムーズで、水中でデッキに流れを受けるためのエッジングを保持することによって、水中でさらに深く長く潜ることが可能なボートに仕上がっています。
また、デッキのスターン側が低く設定されていることにより、ボートに乗り込む際に乗降りがとてもスムーズで、極限までボートを薄くしていても足を潜り込ませることができるため、体重の軽いスクォート乗りに親切な設計となっています。
私は2004年にワールドを手に入れましたが、少しボリュームがあり、KAZEを入手する際に手放しました。2024年に縁あってボリュームの少ないワールドを手に入れましたが、ローボリュームが故に全長が260cmとノーマルのワールドよりも短く、水中で多少の不安定感がありますが、ボートの動きは早く、また、ラウンドしているハルが水中での流れをスムーズに受け流してくれます。幅は57cmでデッキに水を受ける面積もあるためダウンタイムを稼ぐことが可能で、水中で色々なムーヴを試す気にさせてくれる、乗っていて楽しいボートです。
私は基本的に短いボートは好きではありませんが、たまにはショートボートも良いなと感じてしまう、バランスのとれたボートです。ジムさんの製作したボートはそれぞれに特徴があり、自分のスタイルに応じたボートを選択すれば、スクォートボーティングがますます楽しくなります。色々な川へ行き、色々なボートに乗る、遠回りしているようで実はスクォートボーティングテクニックが身につく近道なのかもしれません。