アレルの自然を操る力が暴走した後、アレルが弱っているのを知り、魔族達はルドネラ帝国の首都ルダーンに大軍を率いて襲いかかってきた。ルドネラ帝国の賢者ベラルドは魔導士の塔にいる魔導士達を総動員し、首都ルダーン全体に結界を張った。魔族達は舌打ちする。

「チッ、さすがはグラシアーナ最強の帝国。そう簡単に侵略はさせぬか。しかし勇者アレルが弱っている今がチャンスだ。アレルを我が魔族の元へ!」

強力な結界で魔族達は帝国に入れない。首都ルダーンからは帝国兵が続々と出て魔族の軍に応戦する。その中に勇者エルネスティーネ達の姿もあった。エルナ達は魔族軍の長を探しあて、勝負を挑む。

「勇者エルネスティーネ、目障りな小娘ですね。私が死を与えてあげましょう」

エルナは回復魔法や補助魔法を唱えながら弓で攻撃した。フォルスは槍、セーディーとラウールは剣。この戦いぶりを見ればセーディーよりラウールの方が強いのは一目でわかる。魔族達はなんとかエルナに攻撃しようとした。

「エルネスティーネの武器は弓。矢には限りがある。全て使い果たすのを待つのだ」

これに対しエルナはくすりと笑った。矢が少なくなってくるとエルナは呪文を唱えた。するとたくさんの矢が現れた。

「おあいにくさま。私は武器精製魔法が使えるの。矢が無くなっても魔法で補充することができるわ」
「な、なんだとっ!そんな魔法はこの大陸には存在しないはず――そうか、他の大陸か」

ルドネラ帝国は他の大陸と交流がある。エルナはユーレシア大陸の魔導士から武器精製魔法というものを教わっていたのだ。これがあれば武器を奪われても魔法で作り出すことができる。この呪文で作られた武器は一定時間で消滅するが、勝負をつけるには十分だった。魔族達はなんとかエルナを倒したかった。回復魔法の使い手は真っ先に倒すべきである。そうでなければいつまで経っても勝負がつかない。

その時、帝国に張った結界の外に子供が一人いるのに気づいた。逃げ遅れたのか、好奇心で見に来たのか。魔族達はその子供を殺そうとした。そしてエルナは子供を庇った。
魔族軍の長はエルナの隙を逃さなかった。毒の呪文を唱えてエルナの両手両足に命中させた。

「エルナ!」」
「勇者エルネスティーネ、私からあなたへのプレゼントですよ。その毒は両手両足を壊死させます。手足を切断しなければあなたは死ぬ。切断してもあなたはもう普通の人間としては生きられない」
「そんな!おまえよくもエルナを!」

怒りで冷静さを失ったフォルスは槍で魔族軍の長に襲いかかった。怒り狂ったフォルスに気を取られているうちにラウールが止めを刺す。長を倒された魔族軍は一旦引き上げた。
魔族は撃退したが、皆、真っ青になっていた。

「エルナ!」
「落ち着いて運ぶんだ!早く切断しなければ手遅れになるぞ!」
「そ、そんな…」



一方、アレルは帝国宮殿内で保護されていた。まだ身体が衰弱しているようである。セドリックはアレルのそばについていたのだが、戦況が気になった。静かになったので部屋の窓から外を見上げると、魔族軍の姿はもう無かった。帝国軍とエルナ達がうまく退けたようだ。

「もう大丈夫みたいだな。アレルくん、君の具合はどうだい?」
「俺は大丈夫だよ。それよりエルナ姉さん達は?」
「外の様子を見てくるか」

エルナの負傷は出来る限り内密にしようとしていたが、宮殿内で一気に広まってしまった。アレル達の耳に入るのもそう時間はかからなかった。

「何だって!?この大陸には壊死を治す魔法はあるのか?」
「な、何言ってるんだ、そんなものあるわけないだろう」
「!?俺をエルナ姉さんのところへ案内してくれ!」

アレルが急いで駆けつけた時、勇者エルネスティーネの一行はすっかり取り乱していた。魔族の毒の呪文により両手両足が壊死してしまったエルナ。医者が切断に取りかかろうとしているところをアレルが慌てて止める。

「待ってくれ!俺は壊死治療の呪文を使える!俺に任せてくれ!」

アレルは記憶の底から壊死治療の呪文を引き出し、エルナの両手両足を治療した。神聖で清らかな光がエルナを包んだかと思うと壊死した両手両足も元通りになった。

「す、すげえ。他の大陸にはこんな魔法もあるのか」
「エルナ姉さん、もう大丈夫だよ」
「……………私……………」

エルナは起き上がった。腕も脚も今まで通り普通に動く。魔族の毒で壊死していたしばらくの時間が嘘のようだ。フォルスもセーディーも泣き出さんばかりだった。

「良かった…!良かった…!」
「アレル君、ありがとう!」

一時はどうなることかと皆、真っ青だったが、アレルの治療により、エルナは元通りになった。
エルナの負傷とアレルの治療は宮殿内に一気に広まり、大騒ぎだった。そして魔族達もエルナの回復を知った。

「チッ。せっかく邪魔な勇者を一人片づけたと思ったのに。アレルは回復魔法の使い手としても、かなりの高等呪文まで使いこなせるのか…このグラシアーナ以外の大陸の魔法を」
「だがこれで引き下がるわけにはいかん。他の魔王、大魔王をけしかけるぞ」



アレルもセドリックも、勇者エルネスティーネ一行も、エルナのそばについていた。

「アレル君の謎も解けたし、エルナちゃんも無事だったし、これで一段落ついたかな」とセドリック。
「まだ何もわかってないよ。俺が何故赤ん坊の姿であの森に現れたのか。結局俺の正体はわからず仕舞いだ」
「だから薬か魔法で赤ん坊の姿にされたんだよ。だから君は今八歳だというのも正しくて、大人だった時の記憶が時々出てくるんだよ」
「……なんかちょっと違うような気がする……だいたいそれはあくまでも仮説じゃないか」
「だがこの仮説でみんな納得するぜ」

アレル自身は納得していなかったが、とにかく記憶の一部は戻ったのだ。もう一度女神ナフェーリアに会いに行こう。ナフェーリアはしばらくこの国に滞在していれば記憶の一部を取り戻すと言った。そしてその通りになった。これ以上記憶の手がかりが無いようであればユーレシア大陸に渡り、砂漠地帯の父親の元へ行こうと思った。
そういえばセドリックはどうするつもりなのだろう。エルナに熱中しているようだが……
そう思ってエルナの方を見ると、セドリックとフォルスが恋のバトルを繰り広げていた。互いに火花を散らしながら一生懸命エルナに話しかけている。

「エルナ、大丈夫かい?しばらく静養していた方がいいんじゃないのかい?」
「ありがと、セドリック。でももう大丈夫。アレル君の回復魔法ですっかり良くなったよ。勇者として、聖職者としてやらなきゃいけないことたくさんあるし、休んでなんかいられないわ」
「それじゃ俺がそばについていよう。今度デートしようって言ってたじゃないか」
「あっ!こらこら待てー!僕はエルナの騎士だぞ!勝手なことするなー!」
「ガキはすっこんでろ」
「何だとー!!」

セドリックとフォルスが言い争っていたその時、ものすごい勢いでこちらに走ってくる音がした。

「エルネスティーネ、無事かあああーーー!!!!!」

血相変えてやってきたその人は――





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