砂漠地帯はどんどんモンスターが凶悪化していた。戦う力がない者は危険で町の外には出られない。そんな砂漠でシャハルカーンは今日もモンスター討伐に向かった。ルヴァネスティ王国の王女、勇者アデリアスも同行している。

「それにしても砂漠は本当に暑いですわ。水の魔法でも使って涼みたいですわね」

アデリアスはあまりの暑さに水の魔法を使った。シャハルカーン達モンスター討伐隊の周りは急に涼しくなった。

「おっ、こりゃいい。お嬢ちゃん、もっとやってくれ」
「いい加減、わたくしのことはアデリアスと呼んで下さいな。子供扱いされるのは嫌ですわ」
「おう、こりゃすまねえな。ガハハハハ!」

モンスター退治をしながら砂漠地帯の様子を探るシャハルカーンとアデリアス。モンスターの狂暴化の原因は何か、魔族の仕業なのか、悪の元凶がいるのならそれを見つけて倒さなければいつまで経っても埒があかない。モンスター退治をしながらしばらく砂漠を彷徨っていたシャハルカーン達はオアシスで一旦休憩することにした。

「そういえば砂漠にはジンと呼ばれる精霊がいるそうですわね。おとぎ話で読みましたわ」
「おう、確かにいるが、探して簡単に会えるわけじゃねえぞ。俺が今まで見た奴もたまたま偶然出会っただけだからな」

アデリアスは何気なくオアシスを見回した。すると、大きな岩があり、その上にランプがある。

「まあ、あんなところにランプがありますわ。おとぎ話に出てくる魔法のランプにそっくり」
「いや、ちょっと待て、あんなところにこれ見よがしに置いてあるなんて思いっきり怪しいじゃねえかよ」

好奇心旺盛なアデリアスはランプを調べてみたいという。シャハルカーンはアデリアスと一緒にランプのところへ行った。慎重に。
ランプに近づくともくもくと煙が上がり、ジンの姿になった。

「オイラはジンだぞー」
「まあ、早速ジンに会えるなんて嬉しいですわ」
「え?本当?可愛い女の子に喜んでもらってオイラも嬉しいー」
「何だこいつは?見るからに弱っちいジンだな」
「何だとお!おっさんはあっちに行ってろよ!オイラは可愛い女の子が好きなの!むさ苦しいオヤジはお呼びじゃないんだよ!」
「何だと!コラァ!」

ジンと一通り言い争いをした後、シャハルカーンは砂漠地帯のことを聞いてみた。ジンは人間とは別に何か知っているかもしれないのである。

「今この砂漠地帯がメチャクチャになってるのはラヴァージャのせいだよ」
「ラヴァージャ?」
「うん。現在最強のジンだ。オイラ達ジンは、良いジンと悪いジンがいる。そして強いジンと弱いジンがいる。ラヴァージャは強くて悪いジン。一年前から急に現れて、他のジンを取り込んでどんどん強くなってるんだ。強くて良いジンもいたんだけど、ラヴァージャに負けちゃったんだよう」
「そいつが悪の元凶か」
「うん。ラヴァージャは破壊衝動の権化。この砂漠地帯全てにありとあらゆる災いをもたらそうとしている。ラヴァージャの魔力でモンスターはどんどん狂暴化してる。それに人々の心にも干渉してるみたいだ。ラヴァージャに魔法をかけられた人間は怒りっぽくてイライラしやすくなる。喧嘩ばかりするようになる。それだけならまだいいけど、中には暴力を振るったり、殺人衝動に駆り立てられる人間すらいる。そうしてどんどんこの砂漠はメチャクチャになっているのさ」

そのジンを仲間にし、ラヴァージャについて調べるシャハルカーン達。ジンには良いジンと悪いジンがいる。ラヴァージャは他のジンを取り込んでどんどん強くなっているそうだ。まだ残っている良いジンを集めることにした。そしてその度に情報収集も欠かさない。ジンは人間とは違うことも知っている。

「ラヴァージャはね、元は魔族によって召喚された邪悪な霊みたいだよ。邪悪な儀式によって誕生したみたいだ」
「それが一年前ねえ…」
「一年前といえばジンの一人が子供を連れて逃げ回っているのを見たことがあるよ」
「どんな子供だ?」
「ものすごいスピードだったからよく見えなかった。そのジンは海の方へ逃げて行ったよ」
「ふーむ……」

次にラヴァージャの居所について調べる。現在、広大な砂漠地帯を高速で移動しているそうだ。そして進行方向にあるものを破壊したり、モンスターを狂暴化したり、人々に魔法をかけて凶悪化させたりしているそうだ。
シャハルカーンはラハブ盗賊団を総動員してラヴァージャを捕らえ、倒そうとした。それにはアデリアスも、ジャネットも、アデリアスの父ラドヴァンも同行する。そしてまだ残っていた良いジン達も合体してラヴァージャと戦うという。
そしてラヴァージャの情報を調べ、出現地点を発見することに成功したシャハルカーン。

「――って何だありゃ?メチャクチャ速ええじゃねえか!あんなんじゃ捕まえられねえ!」

ラヴァージャは超高速移動していた。

「落ち着いて!ラヴァージャは人間やモンスターを狂暴化させる魔法を使う。その魔法はオイラ達ジンが防ぐから、あんた達はラヴァージャ本体を倒してくれ!」
「おう!わかった!」

ラヴァージャ。現在最強最悪のジン。巨大な身体と憎しみに染まった顔をしていた。

「勇者か。俺の餌食になるがいい!」

ラヴァージャは余計な御託を並べることはせず、真っ直ぐにシャハルカーン達に向かってきた。腕の立つ戦士を総動員してラヴァージャと戦う。アデリアスはこの中で唯一の魔導士だった。水のエレメンタルを召喚し、回復魔法や水の魔法で攻撃させる。そして巨大な水竜も召喚した。

「おう、アデリアス嬢ちゃん、そんなすげえこともできたのか」
「ええ。砂漠のモンスターやジンは水に弱いですわ。この水竜でラヴァージャを捕らえます」

ラヴァージャは獰猛な動きを始めた。アデリアスが召喚した水竜も喰らい尽くそうとする。最強のジンとして様々な攻撃をしてくる。武器を振るえば凶悪な破壊力。まともに喰らえば確実に死が待っている。炎を吹いてシャハルカーン達を焼き尽くそうとしてくる。アデリアスは回復役に回り始めた。水のエレメンタルも召喚し続け、戦士達の傷を癒す。

「…くっ!シャハルカーン、おまえの息子のことを知りたくないか?」
「何?」
「おまえの息子なら一年前俺の生贄として捧げられたぞ」
「あいつは生きてるはずだ!」

ラヴァージャはアレルについて何か知っている。シャハルカーンは全力でラヴァージャを斬りつけた。

「おまえはアレルの何を知っている!教えやがれ!」
「ふん!おまえの息子は俺の元からは逃げやがったよ。生意気なジンの一人が連れ去ったんだ。あの時、おまえの息子は高熱を出して弱りきっていた。あの時喰らい尽くしておけばなあ!俺は世界最強の存在になれたのに!高貴な血!神聖な血!純粋な魂!強大な魔力!いつかきっと俺はあいつを見つけ出して食ってやる!あの魔力を取り込めば世界最強の力が――」
「させるかっ!」

シャハルカーンの渾身の一撃がラヴァージャの身体に食い込んだ。それはラヴァージャの心臓部に深く突き刺さった。凶悪な絶叫が砂漠中に響き渡った。その後、ラヴァージャは跡形も無く消え去った。

「殺った………のか?」

生き残りのジン達が辺りを調べた。

「もうラヴァージャの邪悪な気配はないよ。凶暴化していたモンスターも元に戻ったし、魔法をかけられていた人々も正気に戻ったようだ」
「だが、まだ安心できねえなあ。悪の元凶が消えたっていっても、砂漠が平和になるのはこれからの人間次第だ」



悪の元凶であったラヴァージャを倒した結果、砂漠地帯の治安の悪さは一旦おさまった。シャハルカーンはラヴァージャとの会話を思い出していた。

「一年前、アレルが攫われた日、あの日、アレルは高熱で寝込んでいた。俺が外出している隙に何者かに攫われた。ラヴァージャ、あの野郎の言ってたことによると、アレルはラヴァージャの生贄の儀式にされるところだったんだな。ジンの一人が連れ去ったとか言ってたが……」
「一年前、子供を連れて逃げ回っていたジンがいたっていう目撃情報がある。あんたの息子のことかもしれないね」
「それだけじゃ確信持てねえ。俺に神託を授けた天使なら全て知ってやがるんだろうが」



その夜、神託を授けた天使は夢の世界でシャハルカーンの前に姿を現わした。

「シャハルカーン、よくぞラヴァージャを倒し、砂漠地帯に平和をもたらしてくれましたね」
「真の平和はこれからだろうが。悪の元凶を倒しただけでハッピーエンドになるほど世の中甘くねえよ。それよりアレルのことだ。約束通りあいつが今どこにいるか教えてくれ」
「シャハルカーン、アレルは特別な子供なのですよ」

天使はシャハルカーンに説明した。アレルはザファード大陸の人間だということ、ザファード人の創造神は女神シャリスティーナであること、アレルはシャリスティーナの寵愛を特別に受けていることを。

「シャハルカーン、あなたが改めてアレルの父親になろうとするのであれば、シャリスティーナ様に認められなければなりません」
「じゃあその女神さんに会わせてくれ」

シャハルカーンがそう言うと、天使は姿を消した。そして夢の世界の空間が一変した。





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