ランドは単身魔王バルザモスの城に乗り込んだ。中は薄暗く、瘴気が漂っている。ウィリアムがいれば魔法で火を灯してくれるのだが。ランドはたいまつを取り出して進んで行った。
 漆黒の闇の中から魔物達が牙をむいて襲いかかってくる。ランドは愛剣エスカリバーンを抜き、次々と敵を倒していった。
 途中、いくつかトラップもあった。落とし穴、壁から弓、天井が落下してくるなど。ランドは危うくトラップの餌食になりそうになりながらも慎重に進んで行った。

 最上階の玉座には魔王バルザモスが悠然と構えていた。
「フフ、よく来たな。勇者ランドよ」
「セーラ姫は無事か!」
「安心しろ。丁重に扱っている。何せ大切な人質だからな。さて、ランドよ。おまえは今まで数多くの我が同胞を葬ってきた。おかげでこのサイロニア一帯の魔族の勢力は衰える一方。だがそれもここまでだ! おまえにはここで死んでもらう!」
 バルザモスは立ち上がると巨大化した。禍々しい妖気を漂わせ、呪文を唱えると二つの暗黒球を作り出した。その暗黒球はランドに向かって襲いかかってくる。ランドは愛剣エスカリバーンで斬りつけた。だが暗黒球はそう簡単には消えなかった。それどころか暗黒球自身から魔法が放たれ、ランドを攻撃してきた。ランドは慌ててかわす。暗黒球の魔法は広範囲にわたり、避けづらい。しかも二つあるのである。ランドはたくさんのダメージを受けてしまった。
「ハハッ! どうだ? それではいつまで経っても私に攻撃できまい」
「くっ…!」
 その時、暗黒球の一つが自爆した。ランドは自爆の直撃を喰らってしまい、後方に吹っ飛ばされた。そしてしばらくすると、なんと暗黒球は再生し、また魔法を使って攻撃してきた。
「どうだ。勇者ランドよ。一人ではこの私に手も足もでまい。この暗黒球は自ら独立して魔法を詠唱することができる。しかも我が力により無限に再生する。おまえに勝ち目はないのだ」
 ランドは回復魔法を使い、傷を癒すと、不利な状態にもかかわらず、敢然と立ち向かった。
 それはかなり苦しい戦いだった。二つの暗黒球からそれぞれ広範囲の魔法がくる。尚且つ魔王バルザモスからも攻撃が飛んでくるのだ。二つの暗黒球はいつ自爆するかわからず、しかも破壊しても自爆しても、いずれにせよ無限に再生する。ランドは必死にかわしながら隙を窺い、暗黒球に剣で斬りつける。
 しかし、せっかく暗黒球を破壊してもまた再生してしまう。ランドは考えた。二つの暗黒球を同時に破壊しなければならない。そして再生するまでのわずかな時間で魔王バルザモスを攻撃するのだ。それしか勝つ手段はない。
 ランドは聖剣エスカリバーンに力を込めると聖なる光を放出し、暗黒球を二つとも破壊した。そしてそのまま一気に勢いをつけて魔王バルザモスに突進する。
「ぬう…!!」
 バルザモスは初めて後手に回った。手にした杖でランドの剣を受け止める。懐まで入られたことで暗黒球を作り出すことができなくなったのだ。間断なくランドから攻撃がくるので隙を見せることができない。だがまだ勝機はある。ランドはかなりの重傷を負っているし、その重傷を一気に癒す高等回復呪文の使い手はここにはいない。
 バルザモスとランドの間で熾烈な戦いが繰り広げられた。時間が経つにつれ、双方共深手を負っていった。傷口からどくどくと血が流れて滴り落ちる。その血が床一面に広がる。
 このまま永遠に戦いが続くと思われたその時、ランドが床の血に足を滑らせた。この機を逃すバルザモスではない。すかさず攻撃し、止めを刺そうとした。だがランドはとっさに剣を突き出し、バルザモスの身体を貫いた。
「ぐああああっ!」
 ランドは体勢を立て直すと聖剣エスカリバーンから聖なる光を放出し、ありったけの力でバルザモスに向かって攻撃した。バルザモスは絶叫を上げて倒れた。
「ぐう…やるな、ランドよ。さすがはこの地に名を馳せた勇者なだけはある。たった一人でこの私を倒すとは…だが私もただでは死なん。おまえも道連れだ!」
 バルザモスは最期の力を振り絞り、城を崩壊させた。そして断末魔の叫びと共に消滅した。ランドは慌てて城のテラスに飛び出し、脱出しようとした。セーラ姫はどこにいるのだろうか。必死に探していると上空から悲鳴が聞こえた。
「ランド様ー!」
 見ると、セーラ姫は茨の檻に閉じ込められていた。その茨の檻は浮遊しており、どこかへ飛び去ろうとしている。ランドは崩壊する城の瓦礫を危険もかえりみず飛び越え、急いでセーラ姫の檻に向かった。そして剣で茨を断ち切る。その間に茨の檻はかなりの上空に浮かんでしまった。
「ランド様、助けて!」
 よく見るとセーラ姫のそばには何か得体の知れない悪魔がいた。嫌らしい笑みを浮かべ、セーラ姫ににじり寄っている。ランドが姫の近くに寄る前に悪魔はランドを突き落とそうとした。ランドはなんとか片手で茨の檻からぶら下がり、落下は避けた。そうしているうちにセーラ姫がさらに悲鳴を上げる。悪魔はセーラ姫に乱暴しようとしているようだ。それを見てランドの頭に血が上る。
「汚らわしい手でセーラ姫に触れるな!」
 ランドは剣を悪魔に向かって投げた。聖剣に串刺しにされた悪魔はおぞましい叫び声を上げて消滅した。特に魔界の住人は聖なる剣にその身を貫かれると跡形もなく消えてしまうのだ。
「セーラ姫、お怪我は?」
「だ、大丈夫ですわ、ランド様。でも…」
 茨の檻が震える。浮力を失って墜落しようとしている。このままでは危険だ。下を見るとちょうど湖がある。
「セーラ姫、僕にしっかりと捕まっていて下さい!」
 ランドはセーラ姫を抱きしめると湖面に向かって身を投げた。


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