アレルは大魔王ルラゾーマの城に乗り込んだ。捕虜にした飛竜は大人しく後をついてくる。
 ルラゾーマの城は非常に大きく天井からは豪華なシャンデリアがかかっている。高さも広さもある空間だった。まっすぐに歩けば幅の広い階段があり、そこから上の階に行けることは明らかだった。だがアレルは素通りして他の場所を探した。それを見て飛竜が怪訝に思う。
「あ、あのー、階段を上らないんですか? ルラゾーマ様は最上階にいらっしゃいますよ」
「だろうな」
「それなら何で上に行かないんですかい?」
「後で行けばいいだろ。魔王は好きなだけ待たせとけって。まずは他のところを探索してからさ」
 そう言うとアレルは地下への階段を見つけ、降りて行った。
こつこつと階段を降りる音だけが響く、静かな空間。かと思えば急に魔物がどこからともなく現れて襲いかかってくる。そのたびにアレルは確実に撃退すると奥に進んで行く。そんなアレルを見ながら飛竜は一人ほくそ笑む。
(フッフッフッフッフ。このルラゾーマ様の城を甘く見るんじゃないぞ! 多くの罠が仕掛けてあるんだからな!)
 地下二階は真っ暗で何一つ見えない漆黒の闇が広がっていた。だがアレルはすたすたと歩いていく。それを見て驚く飛竜。
「なっ!? こんな真っ暗な中で、何でそんなにまっすぐ歩けるんだ!」
「俺、暗闇の中でも目が見えるから」
 その後、幾重にも仕掛けた罠が発動したが、アレルはさらりとかわしていった。壁からも弓が飛んできたが、アレルのような小さい子供を前提として作ったものではないらしく、アレルの頭上を通り過ぎて向かい側の壁に突き刺さった。落とし穴もあったがアレルは浮遊術を使い、あっさりとかわす。それを見て飛竜は悔しがった。
(ぬうう…なかなかやるな…だが今度はどうかな? あそこにある光線に触れると蛙の姿になってしまうんだぞー! ケケッ!)
 壁の一角から放たれる光線をアレルはひょいとかわした。そして背後にいた飛竜に直撃する。
「ゲコッ!?」
「ん?」
 アレルは後ろを振り向いた。今まで大人しくついてきたはずの飛竜の姿が忽然と消え、何やら蛙が一生懸命飛び跳ねている。
「ゲコーッ! ゲコーッ!」
「そういえば、あの飛竜、どうして大人しくついてきたんだろうな? 隙を見て俺を背後から襲うつもりだと思ってたけど。ま、いっか」
「ゲコーッ!」
 蛙の姿になった飛竜を無視してアレルはさらに下の階へと進んで行った。

 暗闇の中で気配を殺してアレルの隙を窺う獣人系モンスターが二匹。彼らは格闘技の達人であった。少なくとも本人達はそのつもりであった。
 アレルは一人、しかもまだ年端もいかぬ子供である。挟み撃ちにして両側から襲いかかれば捕らえることができるだろう。そのまま主君である大魔王ルラゾーマの元へ引き出せば出世は間違いなし。そう思った獣人の二人組はアレルが近づくのを待つ。そしてちょうど立ち止まったところへ両側から一気に突進する。

 ごつんっ!

 アレルは高く跳躍して獣人達を避けた。その拍子に獣人達は互いにぶつかり額にたんこぶをつくる。そして星が目のまわりをまわる。伸びてしまった獣人達をアレルは呆れて眺めた。
「なんかさっきからすごい間抜けな敵ばかりだな…こいつらの主君って本当に大魔王名乗るくらい強いのか?」
 城の最下層に辿り着くとそこには宝物庫があった。アレルは錠前を外した。彼にとっては何故か鍵を開けるのは造作もないことであった。中に入ると目もくらむばかりの宝の山。あらゆる豪華なデザインの宝箱、宝石、金銀を散りばめた品があり、人が埋もれるくらいの量であった。
「さすが大魔王だな。たっぷりとお宝ため込んでやがる」
 アレルはパチンと指を鳴らすと自らの空間とその場をつなぐ裂け目を作った。中からはアレルが召喚した猫の使い魔ジジが出てくる。
「アレル〜何か御用ですか〜?」
「ああ。このお宝の山を全部頂いていくからそっちで管理してくれ」
「かしこまりましたあ!」
 アレルは空間術を用いて宝の山を次々と自分の空間へと移動させる。そこへ怒声が響き渡る。
「こらあっ! 誰だ! わしの宝を盗んでいるのは!」
 轟音と共に異形の者が姿を現した。どうやらこの者が大魔王ルラゾーマのようである。
「あれ? もしかしてあんたが大魔王ルラゾーマ? 大魔王らしく最上階にでんと構えてればいいのに」
「黙れっ! わしのお宝が盗まれようとしておるのに悠然と構えていられるかっ! だいたい何故真っ先にわしの元へ来んのだ?」
「だって全部のお宝回収してから敵のボスに挑むのは定石だろ?」
「いや! ボスを倒してからお宝回収が定石だ! 大魔王であるわしよりお宝優先とはどういうつもりだ! 勇者アレル!」
「何言ってんだよ。魔王城のお宝ってのは勇者に没収される為にあるんだろ?」
 大魔王ルラゾーマは怒りで言葉がつまり、頭から湯気が立っていた。このアレルという勇者の子供はルラゾーマの考えた筋書き通りに行動した試しがない。姫をさらって人質にしようとすれば阻止され、捕虜になった飛竜に乗って堂々と魔王城まで来る。真っ先に最上階まで来ると思えば悠々と城内探索をし、こともあろうにお宝をごっそり頂こうとしているのである。
 アレルの方はルラゾーマのお宝を品定めしていた。
「いいもんばかりそろえてるじゃねえか。質に入れればいい値で売り飛ばせるぜ」
「わしの宝を質屋なんぞに売るんじゃない!」
「おっ! これなんか競売にかければかなりの額になるんじゃないか?」
「おまえそれでも勇者かあ!」
「冗談だってば。安心しろって。これらは全部世界平和の為、有意義に使わせてもらうからさ」
「嘘をつけ! この守銭奴が!」
 アレルはとうとう全ての宝を自分の空間に移動させると、空間の裂け目を閉じた。
「わしのお宝を返せ!」
「どうしても返して欲しければ俺を倒すんだな」

 ……………立場が逆だ……………

 大魔王ルラゾーマはそう思わざるを得なかった。
「お、おのれ…勇者アレル! ローラ姫の誘拐阻止から始まってよくもわしの書いた筋書きを滅茶苦茶にしてくれたな! おまえはどこまでわしの計画をぶち壊しにすれば気が済むんだあーーーーー!」
「何言ってんだよ。正々堂々と入口から入ってやったじゃねえか。最上階のテラスに降りていきなりおまえを倒しても良かったんだぜ。だいたいお姫様をさらおうとするとか、やり口が古風すぎるぜ。おまえら同じ発想しかないのかよ?」
「じゃあ何だ? 王女の代わりに王子をさらえとでもいうのかあ! 何が悲しくて野郎なんざさらわなければならんのだ!」
「あの飛竜達もそうだったけど、おまえらってさ………馬鹿だよな」
「ええい! この大魔王ルラゾーマ様を馬鹿にするとは許せん!」
 ルラゾーマはアレルも一緒に最上階にワープさせ、巨大化した。
「ここがおまえの墓場だ、勇者アレル! わしを愚弄したことをあの世で後悔するがいい!」


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