航海の途中、ゴーストの大量襲来をうまく撃退した後、アレル達は目的地のロアン島に到着した。空は快晴。照りつく太陽は眩しい。ロアン島は蒸し暑く、虫がたくさん飛んでいる。
「こう、虫ばっかり寄ってくると嫌になっちまうなあ」
「あ、俺、虫除けの呪文知ってるよ」
「何? ぼうず、そんなもの知ってるのか? そりゃあいい! 是非かけてくれ!」
「元々はレディエスコート用に覚えたんだけどなあ。ああ、そうだ。ついでに暑さを感じなくなる術もかけてやるよ」
 アレルはかつて賢人のギルの下で空間術を学んだ。その時に様々な魔法を取得していた。ジャングルなどの場所で虫除けの呪文、暑さや寒さを感じなくなる術もその一つであった。魔法も使え、剣も使え、通常の魔導士でも知らない呪文まで使える子供。海賊達はアレルを不思議そうな目で見た。
「ぼうず、おめえなんかいろいろできるんだなあ。一体何者だ?」
「まあ、いいじゃないか。先に進もうぜ」
 アレルは海賊達に虫除けの呪文と暑さを感じなくなる術をかけた後、ロアン島に降り立った。その瞬間、何か違和感があった。何か強大な生命が感じられる。生命の鼓動、温かさを感じた。だがその正体はわからない。とにかく海賊達と共に進むことにした。
 ロアン島には南国の木々がたくさん生え、所々に洞窟があった。空気はむっとしている。洞窟の天井の隙間からは水が流れ落ちている。流れ落ちた水から水溜まりができ、時に足を滑らしそうになる。洞窟は蒸し暑く、じめじめしていた。
 アレルと海賊達はモンスターを倒しながら奥に進んでいった。海賊達は斧や曲刀を使った攻撃が得意だった。船に残っている者達もいるが、それ以外は皆このロアン島探索に参加している。人数が多いので戦いは苦戦することはなかった。
 複雑な造りの洞窟を抜け、地上に出たと思ったらまた洞窟を発見、そんなことを幾度か繰り返した。そしてとうとう奥深い洞窟の最深部にきた。
 海賊達はアレルの強さに驚き、だんだん見る目が変わってきた。とてもじゃないが子供の強さではない。
「なあ、ぼうず、おめえ、随分と強いじゃねえか。とてもガキとは思えねえぜ」
「よく言われるよ。でも本当の武術の達人は幼い頃から強かったって聞いたことがあるぜ」
「おめえは魔法も使えるじゃねえか」
「つまり万能戦士ってわけさ! それより、そろそろ洞窟の最深部だ。お宝があるかもしれないぜ。お約束のお宝を守るモンスターとかもな」
 アレルがそう言った時、不気味なうなり声が聞こえた。低く、太い、獰猛そうなうなり声。それとシューシューと荒い息を吐くのが聞こえる。海賊達は恐れおののきながらも、奥へと進んだ。そして、そこにいたのは青い竜鱗を煌かせたドラゴンだった。
「ギャー! ブルードラゴンだ!」
「おめえ達、怯むんじゃねえ! いくらデカいドラゴンだってこれだけの人数で一気に襲いかかればイチコロだ! 行くぞ!」
「ひいいい!」
 ブルードラゴンはアレルと海賊達を見ると、地響きのような咆哮を上げて襲いかかってきた。牙や爪で攻撃することもあれば尾で攻撃してくることもある。どれも直撃を受ければ死あるのみである。アレルは強力な防御魔法を味方全体にかけた。アレルの魔法なら大勢に対して広範囲に魔法をかけることができた。海賊達は船長のヴァスコが先陣をきり、後から徐々に部下の海賊達が攻撃に移る。ドラゴンの硬い鱗には斧で力任せに叩きつけるのが効果的だった。攻撃を受けた箇所から血が噴き出し、ドラゴンは絶叫を上げ洞窟中に木霊した。
しかしドラゴンも負けてはいない。翼で浮遊すると強力な稲妻を放ってきた。アレルは慌ててサンダーバリアを唱えて防ぐ。ドラゴンも必死である。ひたすら獰猛に暴れまわり、アレルの防御、補助魔法で海賊達全員を守るのは補いきれなくなってきた。
「うわあああ! こいつ強えよ! 勝てるわけねえ! こうなったら逃げるが勝ちだ!」
「あっ! 馬鹿、おめえ達それでも海賊か!」
「命あっての物種じゃないですかい!」
 逃げ回る海賊達とそれを叱咤する船長ヴァスコ。彼らを尻目にアレルは一つため息をつくと、愛剣エクティオスを抜き、ブルードラゴンに一気に止めを刺した。耳をつんざくような絶叫が鳴り響き、ブルードラゴンはどうと倒れた。ぴくりとも動かなくなり、辺りは静寂に包まれる。
「……………終わった…のか…?」
「あのドラゴン、確かにくたばってるな。ピクリとも動きゃしねえ」
「……や、やったーっ! 勝ったあーっ!」
「馬鹿野郎! 倒したのはぼうずじゃねえか」
「いいよ、気にしなくても。それより奥にお宝がありそうだぜ」
 アレルのお宝という言葉に海賊達はびくりと反応し、一気に奥へ向かった。そこには大量の金銀財宝が眠っていた。溢れんばかりの宝は全て持ち帰ることができるかどうか疑わしいほどだった。
「いやっほう! お宝だ!」
「待て! おめえ達、あのドラゴンを倒したのはぼうずだ! だからお宝の分け前はぼうずが決めるべきだ」
「そ、そんなあ」
「いざという時に臆した奴らが何を言う! さ、ぼうず、好きなだけ取っていいぜ」
「う〜ん、とにかく船に持ち帰られるだけ持ち帰ろうよ。これ全部積んだら重さで沈みそうだけど」
 それからは大作業になった。アレルと海賊達は長時間かけてお宝を船に積み上げた。アレルとしてはお宝が手に入るに越したことはなかったが、金銀財宝なら今まで十分に手に入れている。ヴィランツ帝国の闘技場で優勝し金貨千枚。その後サイロニア王からは神託を受けた勇者として餞別をもらっている。その後、変わり者の賢人ギルに師事し、空間術を取得。好きなだけ安全にお宝を保管することができるようになった。そして最大の収穫が大魔王ルラゾーマとの戦いである。ルラゾーマの城には相当量のお宝があった。
アレルは自らの空間を所持しているが、宝物庫には今まで手に入れたお宝でもう十分な量になっていた。空間術を使えることは海賊達には黙っていた。非常に便利だということで更に海賊の仲間に正式に誘われそうだからである。アレルとしては自らを海賊と名乗る者達と共に航海してお宝探しをしてみたかっただけであった。
今回ブルードラゴンから奪取した金銀財宝はほとんど海賊達に譲り、アレルはなるべく小さくて高価な宝石類、なるべく小さくて価値のあるものを分けてもらうことにした。それでも幼い子供が一人で持つには不相応な量だったが。

 海賊船に金銀財宝を積めるだけ積み、いざ帰ろうとしたその時、大地が轟いた。何か、生あるものが蠢いている。アレルはこのロアン島に降り立った時、最初に感じた違和感を思い出した。ここはただの島じゃない。何かある。そしてその何かが今、現れようとしているのだ。ブルードラゴンなどよりも遥かに大きい生命の鼓動を感じる。大地が鳴り響く。通常の地震とは明らかに違う。

 そしてそこに現れたのは――



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