レンドールの町に着くと、セドリックは早速カジノへ向かった。アレルはなんとか説得してやめさせようとしたが、セドリックは頑として聞き入れない。逆にアレルまで一緒にカジノに行くことになってしまった。
 レンドールは賭博が盛んな町らしく、昼でもカジノは営業していた。そこにはギャンブルにとりつかれた者達が大勢たむろしていた。子供は入ることを許されない、大人の空間。人々はそこここでざわめき、大当たりが出るとわっと歓声が上がる。セドリックは早速そんな人々の中に入っていってしまった。人ごみに紛れて消えてしまったセドリックをアレルは一生懸命探す。すると、大人達からポーカーをやらないかと誘われた。
「えっ? 俺まだ子供だよ。連れが心配で来ただけなんだ」
「いいからやってみなって! ルール教えてやるから」
 ポーカーのルールを聞き、まだよくわかってないうちにカードを引くと……結果は、
「ノーペア」
「スリーカード。おじさんの勝ちだね」

 二回目。
「ワンペア」
「ストレート。またおじさんの勝ちだね」
「……………」

三回目。
「スリーカード」
「ツーペア。おっ! 今度は君の勝ちだよ。おめでとう!」
「……………」
「どうしたんだい? ぼうや、嬉しくないのかい?」
「……………つまんない」
「何だって! このポーカーの面白さをわからないとは!」
「だって、なかなか役がそろわないし。俺が普通にやってもあっという間に破産しちまうよ」
 相手になってくれた男はポーカーや賭け事全般の面白さを熱く語り始めたが、アレルにはぴんとこなかった。
「悪いけど、どうも俺には賭博は向いてないみたいだ」
「残念だなあ。まあ、だけど君はまだ子供だからね。そのうち賭博の魅力がわかるようになるさ」
 アレルはセドリックを探した。彼はどうやらダイスで賭けをしているようだ。
「セドリック!」
「アレルくん、邪魔しないでくれ。今夜の宿代稼いだらやめるから」
「また破産するんじゃないのか?」
「いいや、今日は好調だ」
 見ると、賭け金がたくさん積まれている。セドリックは無理せず着実に賭け金を少しずつ上げていったのだ。
「そんな……銅貨一枚からこんなに稼げるなんて……」
「だろ? だから賭博はやめられないのさ! このまま見ていてもいいし、他のところを見てきてもいいよ。とにかくもう少し待ってくれ」
 アレルはカジノを一通り見ようと思い、他の場所をうろついた。カジノの大人達は小さな子供がいるにもかかわらず、咎めようとはせず、優しくルールを教えようとしてきた。そしてアレルは、今度はブラックジャックに誘われた。
「二枚のカードを引いて、数字の合計が21以下で相手より大きければ勝ちなんだ」
「わかったよ」
「いいかい? いくよ」
アレルに配られたカードをめくると、二枚とも10だった。
「やったじゃないか。君の勝ちだよ」
「……………ポーカーよりはやりやすいかも。でもこれって運じゃないの?」
「それもあるが、いかに21以下で大きな数を出すかの兼ね合いもある。もっとやるかい?」
「う〜ん……いいや。ルールだけ覚えて後は賭けじゃなくてトランプ遊びとしてやるよ」
今ひとつ乗り気ではないアレルに対して、大人達は無理に押し付けるようなことはしなかった。何せまだ子供だからである。

アレルはもう少し奥へ進んでいった。
「ここでは何をやってるの? トランプじゃないよね?」
「ここはスロットマシンの場所だよ」
「スロットマシン?」
「そう! タイミングよく止めて絵柄がそろえばそろった絵柄に応じてコインがもらえる。やってみるかい?」
「一回だけね」
アレルはスロットマシンを動かした。適当にタイミングをはかって止める。7の数字を三つそろえる。すると大音量でファンファーレの曲が鳴り、頭上にあったボールが割れ、中から紙吹雪が降ってきた。
「な、何だ?」
「んなあっ! 777だ! スリーセブンそろえやがったよ! このガキ!」
「えっ? 適当にやっただけだよ。7の数字が三つそろったらいくらもらえるの?」
大人達はしばらくの間あんぐりと口を開けたままだった。
「あれ? みんなどうしたの?」
「ぼ、ぼうや、君、スロットの目押しできるの?」
「えっ? だってタイミングよく止めるんでしょ? そうすればそろえられるじゃないか」
その後、777というのがいかに当たりにくいものかがわかり、膨大な量のコインをもらったアレルは茫然とした。思わぬことでまた大金を稼いでしまった。
「すごいじゃないか! ぼうや! それだけのお金があれば当分食うものに困らないよ。何でも好きなもの買って、当分の間贅沢するといい」
「何でもやりたい放題、遊び放題だね! さあ、何でも好きなことに使うんだ!」
「ん〜〜それじゃあ………貯金かな?」
「なあ〜〜っ! ぼうや! せっかくこんな大金稼いだのに貯金ってそりゃないだろ!」
「じゃあ募金?」
「あの……ぼうや……君……」
「金ってあって困ることはないよな。それでない人に分けるのがいいよな」
平気で貯金だの募金だの言うアレルを賭博師達は信じられない思いでみていた。

「アレルく〜ん! 見てくれ! 今日はこれだけ稼いだぞ! これで今夜宿に泊まれる――って、アレルくん、何そのコインの山」
「スロットで777当てちゃった」
「は?」
「おまえが稼いだ額よりずっと多いな」
「ちょ、ちょっと待て! 777なんでどんな低確率だと思ってるんだ!」
「タイミングよく押したらそろったんだ」
「きみ、スロットの目押しが……?」
「ああ」
「アレルくん! 素晴らしい! 君は最高のパートナーだ! これから是非一緒に旅をしよう! 君と一緒なら金に困ることはなさそうだ! その都度スロットで稼げばいいんだからね!」
 セドリックは調子のいい男だった。アレルがスロットで簡単にカジノで稼げるとわかるとがらりと態度を変える。もちろんアレルがまだ子供で保護者が必要だという人のいい大人の心理もあるのだが、それだけではなく、金を稼げるというところも現金なセドリックにとっては肝心なところだった。
「今はたまたま成り行きで一緒にいるだけで、誰もあんたと一緒に旅するなんて言ってないぞ」
「何を言う! 君はまだ子供じゃないか。保護者が必要だよ。そしてお兄さんがその保護者になってあげようというんじゃないか!」
「金目当てで?」
「いやいやいやいや、そんなことは決してないよ。とにかく君にはお礼をしなきゃならないし、もう夜も遅い。宿を探そう」
アレルの稼いだ額を見て驚いたり、スロットの目押しができることを知って不純な動機で行動を共にしようとしたり、大人として保護者ぶったり、セドリックの表情や態度はころころと変わった。アレルの方は呆れながらもセドリックが破産しなかったのに安心し、仕方ないので今夜はセドリックと宿屋に泊ることにした。



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