「アレルくん、俺はしばらくカジノで稼ぐ。君はどうする? スロットはもう駄目だよ。毎日スロットで777を出したらカジノの方が破産してしまう」
「ただ遊んでるだけっていうのは性に合わないな。だけどこれ以上賭博に手を出すつもりはないぜ。俺だったらもっと確実に稼げるものを選ぶ。闘技場とかね」
「闘技場か……この町に来るまで君の戦いぶりを見たけど、あれだけの腕なら出場すれば充分稼げるだろうな。子供とは思えない強さだ。君は一体何者だい? おっと、記憶喪失なんだっけ?」
「ああ。俺のことはこれから徐々に話すよ。とにかく俺は闘技場に行く」
「待った待った! 俺も行く!」
 アレル達は闘技場へ行ったが、子供は出場できないと断られてしまった。
「まあ無理もないな。普通、子供が大人に敵うわけがない。君は例外だよ」
「ヴィランツでは誰でも参加できたんだけどな」
「ヴィランツ!? あの悪徳栄えた帝国かい?聞けば退廃と耽美な趣味、ありとあらゆる残酷な趣味の持ち主がいるというヴィランツ帝国!」
「ああ。俺はあそこから亡命してきたんだ」
「なんと!」
「まあ、そんなことはいいだろ。それより他に何か武術を競うようなものないのか?」
 その後、二人はカジノや闘技場の近くを散策した。そして、とても騒がしい場所を見つけた。競馬場である。
「おお! 競馬だ!」
「競馬か……これも出場して優勝すれば賞金が手に入るな」
「何言ってるんだ。馬を持っていないだろう?」
「俺の使い魔に馬がいるんだ」
「へ?」
「ボルテ!」
 アレルは以前召喚した馬の使い魔ボルテを呼び出した。彼はグラシアーナ大陸の賢人ギルの元で空間術を始めとする様々な術を学んだ。使い魔召喚もその一つである。アレルは普段は自分の空間の掃除などをさせている猫人間のジジの他に、馬の使い魔も召喚して従えていた。
「うわっ! 何だ何だ? 急に馬が現れたぞ! しかも見たところ相当の名馬じゃないか!」
「うん。こいつは以前一緒に旅をしてたボルテって馬を元に召喚した使い魔なんだ」
「使い魔? 君、魔法使いなのかい?」
「ああ。使い魔召喚もできる。これからも馬が必要になった時はいつでも言ってくれよ。こいつを呼び出して乗せてもらえばいいんだからな。ボルテ、これからおまえに乗って競馬に出場するぞ!」
「わかったよ。アレル」
「うわっ! しゃべった!」
「しゃべれるようにしたんだよ。言葉が通じないと何かと不便だからな」
  目を丸くしているセドリックを後にして、アレルは競馬の出場の手続きを行った。

その後しばらく、アレルとセドリックはそれぞれ競馬とカジノで金を稼いだ。所持金は着実に増えていく。アレルの使い魔のボルテは元々名馬だった馬のボルテを元に創られた使い魔である。競馬では常に一位を維持しつづけ、たちまち噂になった。騎手が幼い子供だということでも評判である。ボルテが使い魔だということは周囲には秘密にしてある。レンドールの滞在中、ボルテは厩舎にあずけることにした。
 そしてそんな風にアレルが遊んでいる頃、魔族達は――
「勇者アレルは一体どこへ行ったのだ!」
「ルドネラ帝国へ向かっていたのではなかったのか! いつまで経ってもグラシアーナ南東部に姿を現さないぞ!」
「一体どこで何をしているんだ!」
「まあ、落ち着け。配下の者達に現在グラシアーナ中を探させている。そのうちどこかで見つかるだろう」
 先日の大魔王ルラゾーマとの戦いの後、魔族達はルドネラ帝国付近でアレルを待ち伏せしていたのだったが、いつまで経っても待ちぼうけを食らわされている彼らは苛立ちを抑えきれなかった。アレルは自然を操る能力を持っている。その気になれば天変地異すら起こすことが可能なその力。味方につければこれ以上頼もしい存在はない。現在、魔族の世界では圧倒的な力とカリスマを持った魔王は存在しない。自らを魔王と名乗る魔族は多数おり、それぞれ覇権を争っている。自らのテリトリーと決めた地域の人々を支配しようと苦しめることもあれば、魔王同士で争うこともある。人間の世界以上に魔族の世界は戦乱の世になっていた。
 そこで彼らは圧倒的な力を持つアレルに目を付けているのである。人間でも多大な魔力を保持し、人間に絶望した者は魔王になることがある。アレルを人間に対して絶望させ、憎しみで満たし、魔王に迎えれば、世界は魔族のもの同然である。あの自然を操る能力の前には普通の人間など全く歯が立たない。その為、魔族達は必死になってアレルの行方を追っていたのだが――
 その時、魔族の一人がやってきた。
「勇者アレルを発見したぞ!」
「何だと! 一体どこにいたのだ!」
「それが……競馬場に出場している」
「……………何?」

・・・・・・・・・・

 魔族達の間にしばし沈黙がおりた。
「ちょっと待て。まず、どこにいたのだ? ルドネラ帝国に向かっていたのではなかったか?」
「発見したのはミドケニア帝国領内レンドールの町だ」
「何故ミドケニアに? いや、それ以前に競馬に出場とは一体なんなのだ……」
「子供でありながら最強の強さを持つ勇者が一体何をしている……」
「あの小僧の考えることはわからない……」
「それもそうだが、アレルを発見したそなた、魔族とあろう者が人間の低俗な場である競馬場などで何をしていたのだ?」
「そっ、それは……!! 勇者アレルを探していたのだ。そして事実捕捉することに成功したのだ。そのようなことで詰問される言われはないぞ」
「まあいい。それよりどうする? アレルを味方につけるべく策を練らねば」
「今はミドケニアにいるのか……それではミドケニア皇室に干渉するか?」
 魔族達はやっとのことでアレルを見つけ出すのに成功した。そしてアレルを魔族側に引き込む為の策略を考え始めたのだった。
 そんなこととはつゆ知らず、アレルは競馬を心底楽しんでいるのだった。



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