六、優秀な人材を確保せよ!



「う~む……」
「魔王様、何を考え込んでいらっしゃるんですか?」
「もちろんわしの世界征服計画についてじゃ。宿敵のはずの勇者は勇輝君。世界征服に必要な政治経済法律の知識をマスターするまで勇輝君とは事を荒立てたくない」

魔王は勇輝に勉強を教えてもらわなければ大学の授業についていけない。敵対するより腹心にしたいと思っていた。勇輝は優秀な学生である。魔王としては味方に引き込みたかった。

大学で魔王は勇輝を勧誘し始めた。勇輝は警察官を目指すことにした。それならば表向きは警察官、裏では魔王の腹心にならないかと。

「どうじゃ、勇輝君。君なら破格の待遇をしてやるぞ」
「へえ、じゃあ聞くけど初任給は?」
「え?」
「昇給は? 昇格は? ボーナスはあるの? 太郎さん、人間社会のことろくに知らないでしょ」

勇輝は適当にあしらうと行ってしまった。後に残された太郎――魔王はまだまだ人間社会についてよく知らないのだということに気づいた。大学にいる人間達など世界から見ればほんの一握りだ。人間達のことをもっとよく知らなければ世界征服はできない。それに世界を支配するには優秀な人材が必要である。魔王は城に帰ると配下の魔族達に優秀な人材を確保する方法を調べるよう命令した。魔王に絶対服従を誓う魔族達はそれぞれ一生懸命になって情報を集めた。

「魔王様! 我々の調査の結果、裏社会では非合法なやり方で優秀な人材を強引に集めているそうです。無理やり誘拐したり洗脳したり。しかしそれは三流の悪です。本当に頭のいい一流の悪は合法的に悪いことをするそうです。そしてカリスマにより人々を惹きつけるのです」
「そうか。三流のやり方などカッコ悪いのう。世界の支配者となるからにはやはり洗練された一流のやり方でいくべきじゃな。それで優秀な人材を確保する合法的なやり方とは何じゃ?」
「はい、魔王様、それは求人票を作って募集をかけるのだそうです」
「求人票?」

というわけで魔王達は求人票を作成することにした。

「魔王様、まずは我々の仮の姿を決めなければなりません。表向きは会社として体裁を取り、優秀な人材を集めるのです。応募してきた者がいたらこっちのもの。ありとあらゆる手段を使って我々の仲間にしてしまえばいいのです」

魔王達は人間社会のことをろくに知らないが、集めた情報で求人票作成に取り組んだ。表向きは会社として体裁をとり、どうすれば優秀な人材を集めることができるか、魔王も配下の魔族達も頭を捻りながら一生懸命考えた。

「魔王様、この求人を見た人間が応募したくなるような求人票にしなきゃダメですよ。ここはやはり、会社の特徴を上手くアピールすべきではないでしょうか」
「おまえ達、何かいい案があるか?」
「まずは『職場の雰囲気はアットホーム、みんな仲良しで風通しのいい職場です』。企業側が会社説明会をする時、よく使う表現らしいですよ」

世界征服を目指す魔王と配下の魔族達だが、彼らを見る限り、あながち嘘でもなかった。

「それと、『仕事と育児が両立できる、女性が働きやすい職場です』」
「なんじゃそれは?」
「流行の最先端を行く一流企業はみんなそうらしいですよ」
「そうか。それではわしらもそうしよう」

人間社会のことをまるでわかってない魔王達は集めた情報を元になんとか上手く求人票を作れないかと苦心していた。

「魔王様、連絡先はどうします? 所在地や電話番号を書くことになってますよ」
「我々の城の場所は秘密じゃ。公にするわけにはいかん」
「それじゃあ連絡先は携帯電話の番号だけにしましょう」



その後、魔王達は大学で勇輝に会いに行った。魔王は学生太郎の姿、配下の魔族達はそれぞれ人間の姿に化けている。

「勇輝君、我々は世界征服の為、優秀な人材を集めることにした。それで求人票を作ってみたぞ!」
「え? 求人票って……」

勇輝は魔王達が作成した求人票を見てみた。



「世界征服企んでて社長の命令には絶対服従なのに、職場の雰囲気はアットホーム? 休日なしなのに仕事と育児が両立できる女性が働きやすい職場だって? ったく、どんな職場だよ、どんな!」

相変わらず人間社会のことはまるでわかってない魔王達。勇輝は呆れている。

「連絡先も携帯の番号だけって思いっきり怪しいじゃん」

しかし、魔王の部下達は作成した求人票で募集をかけようとしていた。

「魔王様、求人票を載せる広告はどうしますか? 広告会社はいくつもあってきりがないですよ」
「全ての広告会社に載せるわけにはいかんのか?」
「魔王様、それならその辺の空いてる壁や看板に片っ端から貼った方が早くないですか?」
「おい、あんたら――」

勇輝の言うことをまるで聞いてない魔王の部下達。

「その辺の電信柱にペタッと貼っとけばそのうち誰かが応募に――」
「来るわけないだろ!」

思わずツッコミを入れずにいられない勇輝だった。



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