ここ最近、バッツの心は動揺していた。
彼の元の世界の記憶はおぼろげである。相棒のチョコボのボコと世界中を旅してまわった記憶以外はほとんどない。仲間の記憶がほとんど思い出せないのである。だが、先日ティーダからいろいろと問い詰められ、記憶を探ってみたところで、どうも自分は恋愛とは無縁の人生を送ってきたようだ。
そこへティナの存在である。

ティナ・ブランフォード。コスモスの戦士の紅一点。美しく儚げな表情の彼女に心惹かれる男達は多い。ただ、仲間同士なので心中を表に出さないだけである。バッツもティナのことは好きだったが、ジタンのように口説こうとしたり、オニオンナイトのように確固とした決意の元、守ったりはしていなかった。それがなんの因縁か、偶然2人きりで話す機会があって以来、ティナに興味を持たれるようになった。いつもティナの視線を感じる。と、思えばこちらにやってきて話しかけてくる。それに対し、初めはバッツも快く会話に応じていたが、それがあまりにも頻繁に続くと、さすがに彼もティナが自分に気があることを自覚せざるを得ない。そして自覚したが最後、気恥しくなってどう接したらいいかわからなくなってしまう。バッツは徐々に、ティナと一緒にいると胸の鼓動が高くなるようになった。

そんなある時――

オニオンナイト「バッツ」
バッツ「どうした?」
オニオンナイト「僕と勝負してよ!」
バッツ「いいぜ」
オニオンナイト「それで…もし僕が勝ったらもうティナと仲良くするのやめてくれない?」
バッツ「…そうはいってもなあ…いつも話しかけてくるのはティナの方だし」
オニオンナイト「それは…わかってるよ。だけど僕は!」
バッツ「いいよ、わかったよ。勝負しようぜ。どっちが勝っても恨みっこ無しな!」





オニオンナイト「…くっ……ぐすっ………」
バッツ「オニオンナイト、泣くなよ。確かに今回は俺の勝ち。だけどおまえだって十分腕を上げたぜ」
オニオンナイト「だけど、僕は………ティナを守りたいんだ!それだけじゃない!僕はティナを…ティナを…」
バッツ「わかってるよ。俺だってティナを傷つけるような真似は絶対にしない!誰にも傷付けさせないさ」
オニオンナイト「ううっ…頑張ったのに…」
バッツ「………ごめんな」

バッツはそれ以上、どう言ったらいいかわからなかった。





バッツ「ティナ?ティナはいるか?」
ティナ「バッツ!」

ティナはバッツの姿を見つけると一気に表情がパッと明るくなった。それを見てバッツの方はまた照れくさくなる。

ティナ「今までどこに行っていたの?探したのよ」
バッツ「悪い、ちょっと、他のヤツと真剣勝負しててな。それよりティナ、モーグリに会いに行きたくないか?」
ティナ「モーグリ?この世界にもモーグリがいるの?」
バッツ「モーグリを見かけたって人がいるんだ」
ティナ「是非会いに行きましょう!」
バッツ「ああ!」

かくしてバッツとティナは2人だけでモーグリに会いに出かけた。



ティナ「モーグリ…可愛い」

ティナはモーグリを見つけると、さっそくふかふかし始めた。

バッツ「モーグリのヤツも幸せそうだなあ。すっかりティナになついてる」
ティナ「私ね、モーグリをふかふかするのが趣味なの」
バッツ「へ〜え、そうなんだ」
ティナ「バッツの趣味は何?」
バッツ「え〜〜と、………旅…かな?」
ティナ「そうね、バッツはずっと旅をして生きてきたのよね」
バッツ「ああ」

そこは、穏やかな光が降り注ぐ、不思議な場所だった。元々この世界には不思議な場所が多い。その中でも最も落ち着く場所に感じられた。

バッツ「――なあ、ティナ」
ティナ「なあに?」
バッツ「その――俺、何かティナの興味を引くようなことやったかな?」
ティナ「バッツはとても自由奔放な生き方をしてきた人。私にはそれがなんだかとても羨ましいの」
バッツ「そ、そうか。でもティナだってこれから自由に生きていけばいいじゃないか」
ティナ「私にできるのかな…」
バッツ「道は選ぶな、作るんだ!」
ティナ「そう…そうよね……バッツのそういうところ、強くて羨ましい。憧れちゃう」
バッツ「そ、そんな…ストレートに言われると照れちまうな…」

うまく言葉を伝えることができない。だが、バッツはティナといて何だかとても幸せな気分になった。そしてこれまでになかった感情が自分の心の中に湧き出てくるのを感じた。

ティナ「ねえ、バッツ」
バッツ「何だ?」
ティナ「これからもなるべくバッツと一緒にいても…いいかしら?それとも…迷惑?」
バッツ「ま、まさか!俺もティナと一緒にいると、その…嬉しいよ。俺、多分今まで女の子としゃべったりしたことあんまりないみたいなんだ。だから変なこととか言っちまったらごめんな」
ティナ「ううん、いいの。私、バッツと一緒にいられたら――」

その時である。

「おやおや、仲良くデートとは、クリスタルを手にして浮かれているのかい?」
バッツ「おまえはクジャ!ジタンが倒したはずなのに!」
クジャ「そんなことはいい。君達を見ていると僕はとてもムカつくんだ。今すぐにでも苦しみの悲鳴を聞かせてくれよ」
バッツ「やる気か?それならこっちも容赦しないぜ!」
ティナ「私も戦う!」
バッツ「いや、ティナはそのモーグリを守ってくれ。ここは俺がやる!…少しはいいトコ見せなきゃな!」
クジャ「フッ…女の前で恰好をつけようってのかい?君の自信をへし折ってあげるよ」





クジャ「くっ…」
バッツ「おまえの負けだ!」
クジャ「フン…もういいよ。君達に用はない。あのフリオニールとかいう青年が罠にかかって苦悶の末に息絶えていくのを眺めているとしよう」
ティナ「何ですって?フリオニールが?」
バッツ「すぐに戻ってみんなに知らせよう!」



ティーダ「フリオニールが敵の罠にかかっているだって?こうしちゃいられないッス!今すぐ助けに行くッスよ!」
クラウド「フリオニール…俺の悩みに真剣に応じてくれた…今度は俺があいつを助ける番だ!」

クラウドとティーダは真っ先に駈け出して行った。

セシル「同じ仲間の危機と知って放ってはおけない。僕達も急ごう」
ティナ「そうね!」

コスモスの戦士達は、急いでフリオニールの元へ向かった。





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