レナの部屋を出てからファリスは呆然としていた。王女として生きる道を選ぼうと決心しかかったところへ急に自由に生きていいと言われたのだ。頭の中の整理がつかない。

ファリスにとって1番問題だったのは、やはり結婚であった。好きでもない男と結婚するなんて、何度考え直してもファリスには到底できない。むしろ王侯貴族は何故地位や家柄などで結婚相手を選べるのだろうと不思議なくらいである。
ファリスにとってアンドレイ公爵をはじめとする、タイクーンの求婚者達の誰かと結婚するのは絶対に嫌だった。先程もレナにアンドレイ公爵と結婚すると言う時もかなりの抵抗があった。しかし、その後すぐにレナから自由にしていいと言われ、バッツが好きならバッツと結婚しろと言われ、ファリスの頭の中はパニックである。

バッツ。ファリスより強い唯一の男。結婚話が持ち上がった時、全ての求婚者を拒絶した時、頭の中に思い浮かんだ唯一無二の男性。
ファリスは改めてバッツのことを考えようとした。しかし、バッツと結婚するなどということを考えるだけで取り乱して何も手につかなくなってしまう。

ファリス「……とにかく城の外へ出よう。外の空気を吸って、1人になれば落ち着くだろう」

ファリスは海賊の頭だった頃の服装に着替えると、外へ出ていった。


自然と足が動き、いつもバッツと落ち合っている場所に着く。

ファリス「……バッツ……」

今、彼はどこにいるのだろう。ジャコールの方へ行って、クルルにも会ってくると言っていたが、それにしても長い間会っていない気がする。
それに、今、彼に会ったらどんな顔をすればいいかわからない。一旦彼を異性として意識してしまったからにはもう以前のようには振る舞えない。

また、ファリスは落ち着かなくなり、いてもたってもいられなくなった。

ファリス「そういえば子分達にもここしばらく会ってねえな」

そう言うと、ファリスは海賊のアジトへ向かった。


子分「お頭!お久しぶりで!ここしばらく音沙汰が無かったんで心配してたんですよ!」
ファリス「…ああ、悪いな」
子分「さあ、中に入って下せえ!今はバッツもここにいますぜ」
ファリス「何だって!!」
子分「おーい!おまえら!お頭が来たぞー!酒とご馳走を用意するんだ!」
子分達「アイアイサー!」


一通り子分達の歓待を受けた後、ファリスはバッツの元へ行った。ちょうどバッツはボコに餌をやっているところだった。

ファリス「バッツ……」
バッツ「あ……ファリス…か…」

バッツの態度はどこかぎこちない。ファリスはおそらく自分の結婚話について聞いているのだろうと判断した。
一方バッツは、ファリスの結婚話を聞き、レナの告白を断った後、何事も無かったようにファリスと会うこともできず、この1週間、海賊のアジトで、何も聞かずにしばらく置いてくれと子分達に頼んでアジトに留まっていたのである。
バッツもファリスも、お互い気まずそうに視線をかわした。

バッツ「…これからおまえに伝書鳩を飛ばそうと思っていたところなんだよ」
ファリス「俺の…話…聞いているのか…?」
バッツ「ああ…」

再び気まずい沈黙。ファリスは自分の結婚話から話をそらそうとし、その沈黙を破った。

ファリス「…お、俺の話なんかどうでもいいさ!それより大変だったんだ。レナが高熱で寝込んでたんだよ!」
バッツ「何だって!」

バッツは限りなく罪悪感を感じた。おそらくレナは失恋の為に寝込んでしまったのだろう。自分が彼女の想いを拒絶した為に。
ファリスはバッツの様子には気付かないようで話し続ける。

ファリス「ここ1週間ずっと寝込んだままだった。今日やっと熱が下がったんだよ」
バッツ「…そうか…」
ファリス「…なあ、バッツ。お前、この間会った時言ったよな?今度来た時にはレナにも会うって。大事な仲間の1人が病気だったんだぜ?見舞いに来たっていいじゃねえか」
バッツ「…あ…そ…そうだな…」
ファリス「何とまどってんだよ!さあ、行くぞ!」
子分「なんだ、お頭。もうお帰りになるんですかい?」
ファリス「悪い、また来るから」

そう言うと、ファリスは問答無用でバッツをタイクーン城へ連れていった。





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