ファリスはバッツを連れてタイクーン城へ戻ると、まっすぐにレナの元へ行った。何も知らないファリスはバッツを会わせてレナを元気づけようと思ったのである。

ファリス「レナ!バッツを連れてきたぞ!」
レナ「え……?」
ファリス「ずっと長いこと会ってなかっただろ?ほら、元気出せよ!」

レナは唖然として姉を見つめた。バッツは気まずそうにしている。そして2人とも、ファリスが自分達の間柄について全く気付いていないことを知ったのである。

レナ「あ…その…姉さん、ありがとう。……私、バッツと2人で話がしたいわ。その後3人でお食事でもしましょう?」
ファリス「そうだな。…おい、何してんだよ、バッツ。久しぶりなんだからちゃんと話せよ。旅のこととかな!それじゃあ俺は自分の部屋で待ってるから」
レナ「クスッ、姉さん、王女の恰好に着替えておいてね。何せここではサリサ王女様なんだから」
ファリス「えっ!? ………ま、まあ、そうだよな。わかった」

バッツの前で王女の恰好をすると考えただけでファリスは恥ずかしくなってきた。そしてそそくさと立ち去った。
一方バッツとレナは部屋で2人残される。

バッツ「レナ…この間はすまなかった」
レナ「ううん、いいのよ。私、そういうことは、相手がどうしても嫌だって言うんならしょうがないと思ってるの」
バッツ「…すまない……それより、ファリスは本当に何も知らないのか?」
レナ「私からは何も話してないわ。だから私が過労で倒れたと思ってるの。それで仲間であるバッツを連れてこれば元気が出ると思って…」

レナは笑い出した。

レナ「姉さんって単純よね。私がひそかに恋敵として悩んでいたのも、嫉妬していたのも全然気づいてないんだから。時にとても憎らしくなるわ」
バッツ「……………」
レナ「バッツ、お願いがあるの。姉さんと結婚して幸せにしてあげて」
バッツ「レナ!? 何を言い出すんだ!」
レナ「だって姉さんったらわかりやすいんだもの。お婿さん選びはね、結局全員断っちゃったの。その時姉さんは何て言ったと思う?『俺より強い男じゃなければ駄目だ』って。それってバッツのことじゃない?事実そうやって指摘したら姉さんはとても取り乱しちゃったわ。さっきもそう。ドレス姿でバッツに会うのは恥ずかしいのよ。私にはわかるわ。姉さんはバッツのことが好きだって」

バッツ「……………」
レナ「バッツはどうなの?姉さんのこと、どう思ってるの?」
バッツ「……………ファリスが結婚すると聞いて、今度はレナに告白されて、その次はレナからファリスと結婚してくれと言われて、なんだかどういう風に振る舞ったらいいかわからないよ。しばらく1人にしてくれ」
レナ「ええ、いいわ。ただ、私とあなたの間にあったことは姉さんに秘密にしておいてね。そうしないと今度は姉さんがどう振る舞ったらいいかわからなくなってしまうわ。私のことはいいの。これからはタイクーンの女王として生きていくわ」
バッツ「レナ……」


バッツとファリスが去った後、大臣が部屋に入って来た。

大臣「レナ様本当によろしいのですか?」
レナ「ええ。私、考え方を変えることにしたの」
大臣「と、申しますと?」
レナ「姉さんはこの国の第1王女。そして私は第2王女。本来なら姉さんが第1王位継承権者だけれど幼少期を海賊として育っていて施政はさっぱりできないわ。それに対し私は第2王位継承権者だけれど、実質上国を動かしている。後継ぎ争いの元になるわ」

大臣「成程。あくまでも第1王女であるサリサ様が女王として即位すべきだと考える者達と、実質上国政を行っているレナ様が王位につくべきだと考える者と二手に分かれ、世継ぎ争いになるというのですな。確かにそれは一理ありますな。それでサリサ様は自由を求めて出奔したということにする、そういうことですか」
レナ「ええ。その方が姉さんにとっても私達にとってもいいと思うの。全てが丸く収まるわ」
大臣「レナ様…」
レナ「個人の感情を捨ててまで国の為に尽くす。それが王家の務め。私はタイクーンの女王として生きていきます」

そう言ったレナの顔は、毅然として、まさに女王にふさわしい品格を持っていた。





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