ここはタイクーン城のテラスの1つ。バッツはそこにしばらく佇んでいた。今までに起きたことを頭の中で整理していたのだ。

バッツ「……とにかくレナとは話が着いたんだよな。一応。ファリスのことは…」

ファリスは結婚話が持ち上がっても、求婚者を全て拒絶してしまったらしい。そしてレナの見立てではファリスはバッツのことが好きだと言う。
ファリスともう1度話がしたい。2人きりで。バッツはそう思った。
そこへ、侍女が1人やってきた。

侍女「バッツ様、夕食の支度が整いました。どうぞこちらへ」
バッツ「…ああ、今行く」

そこまで言って、バッツははっとした。

バッツ(そういえばファリスのやつ、ドレス着てくるんだっけ!?)

そう意識した途端、バッツは平静を保つのに必死になった。ファリスのドレス姿は1度見ただけである。その姿は今でも心の中に焼き付いている。これまで会ったどの女性よりも美しい彼女。見ているだけで胸の鼓動が止まらなくなり顔が真っ赤になってしまったのを覚えている。
今日、ファリスはどんなドレスを着てくるだろう。それに、以前は遠くから眺めただけだったが、今度は間近で見ることになるのだ。果たして自分は平静を装っていられるだろうか。
バッツは内心パニックになっていた。


一方ファリスは――

ファリス「…ジェニカ、一生のお願いがあるんだ」
ジェニカ「まあ、なんですの?サリサ様。何でも遠慮なく仰って下さいませ」
ファリス「い、いや…そ、その……………今までで1番女として綺麗に見えるようにしてくれ!!!!!

そう言ったファリスの顔は真っ赤だった。

ジェニカ「まあ!まあまあ、サリサ様、とうとう好きな殿方ができましたのね。ようございます。侍女達を総動員してサリサ様を絶世の美女に仕立て上げて御覧に入れますわ!」

そして、ジェニカと侍女達はファリスを思いっきり着飾り始めた。

「どのドレスがいいかしら?」
「サリサ様にはやっぱりこれですわ!」
「いえ、こちらの方が」

「ドレスに合ったアクセサリを選ばなければなりませんわね」
「このネックレス何かどうでしょう?首元を煌びやかにして、とても美しゅうございますわ」
「このイヤリングも」
「このブレスレットも」

「髪も丁寧に結い上げて、髪飾りを付けて」
「お化粧はもっとも肝心要のところですわ!さ、サリサ様、じっとしていて下さいませ」
ファリス「言われなくてもさっきから大人しくしてるだろうが!」

女としてのお洒落など全く興味の無いファリスは、ただただ侍女達にされるがままだった。だがそれでもよかった。バッツに少しでもおめかしした姿を見せられるなら。彼は何と言うだろう。今までは男装ばかりしていたが、彼にとって、自分は女としてどのように映るだろう。そればかりが気にかかる。どうしたらより魅力的に見せられるかさっぱりわからないファリスはとりあえず侍女達に任せることにした。


そして――

晩餐にはバッツとファリス、レナの3人だけで食事をすることになった。レナは最早全てを割り切っているようで、超然としているようでもあり、落ち着いている。それに引き換え残りの2人は、お互いを見つめ合って、ただ、どぎまぎするばかりである。ジェニカを初めとする侍女達が念入りにめかしこませたファリスの姿は、まさに絶世の美女であった。バッツはその姿に見とれ、言葉を失ってしまう。一方、ファリスはバッツの目にどう映るかが気になって仕方が無い。美しくも恥じらいをみせた彼女はまたより一層美しい。

レナ「どうしたの?2人とも。今晩は私達3人だけの簡素な夕食よ。かしこまったりする必要なんて全然ないわ。今まで通り、昔と同じように振る舞ってくれればいいのよ」
バッツ「あ、ああ…」

バッツとファリスはお互いを意識しながら席に着く。ファリスは真っ赤になっていた。
だが、緊張していたのも束の間、ワインで乾杯し、一気に飲み干した後のファリスはいつもの彼女だった。
男口調で次から次へと一緒に旅をしていた頃の話をしはじめ、そしてまたワインを一気に飲み干す。飲めば飲むほど酔いがまわってきて饒舌になる。バッツとレナは呆れながらも相手をし、久しぶりに元の仲間だった頃の会話になった。

実は、ファリスからしてみれば、これ以上の緊張には耐えられず、とにかく飲んで緊張をほぐし、話題を昔のことへ持っていくことで、特別にめかしこんだ自分がバッツにどう見られているかを考えないようにしていたのである。幸い、そのファリスの行動のおかげで3人の間の気まずさは消え、楽しい晩餐会となった。





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