レナに説得され、ファリスはいやいや5人の求婚者に会うことにした。


「サリサ殿下、私はカシュオーン家のゴードンと申します」
ファリス(何だこのヤワそうな男は…)


「サリサ王女、私はダムシアン家のギルバート。曲を奏でたり詩を作るのが趣味でございます。あなた様にふさわしい歌を捧げましょう。ララララ〜♪」
ファリス(なんだよ、貴族ってやつはこんななよなよした連中なのか?)


「サリサ姫、私はサロニア家のアルスと申します。剣術が得意です」
ファリス「へえ…?おまえ、腕は立つのか?」
アルス「幼少の頃より師についております。殿下にしつこく言い寄るような無礼な輩は私が全て決闘で追い払って見せます」
ファリス「ふ〜ん…」
「殿下!私はジェラルダイン家のエドワード。剣の腕には自信があります!」
アルス「なんと!貴公はこの私よりも剣の腕が立つとでも言うのか?」
エドワード「もちろん!剣の腕はおろか、サリサ殿下を愛する心も誰にも負けない!」
アルス「姫を愛する心は私の方が上だ!」
エドワード「私と貴公、どちらが殿下にふさわしいか証明して見せよう。決闘だ!
アルス「望むところだ!」


アルスとエドワードは剣を抜いて決闘を始めた。それをファリスは少し距離を置いたところで半ば呆れながらも見ていた。しかし、見ているうちにため息が出てくる。彼らは貴族として儀礼用に、または護身用に剣術を習ったにすぎない。ファリスが経験した、世界の運命がかかっている、命がけの戦いとは比べものにならない。彼女には、2人が練習試合をしているのと変わらないように見えた。それはなんと迫力のないものであったろう。


決闘はエドワードの勝利に終わった。

エドワード「どうやら私の方がサリサ殿下にふさわしいようだな」
アルス「くっ……!」


「待ちたまえ!」


エドワード「だ、誰だっ!?」

その時、決闘をしていた彼らをテラスの上から見下ろす影があった。影は颯爽と姿を現し、高所から2人のいる所まで華麗に飛び降りた。

「サリサ殿下の夫にふさわしいのはこのオルレアン家のアンドレイだ!」
アルス「あのオルレアン大公家!?タイクーンの公爵位のうちでも1番王太子を生み出しているという!?」

アンドレイと名乗った男は、華麗に、そして優雅にファリスの元へ近づいてお辞儀をした。

ファリス「……何だ、おまえは?」
アンドレイ「お初にお目にかかります、サリサ・シュヴィール・タイクーン殿下。わたくしはアンドレイ・ヴィットリーオ・ドゥ・オルレアン。栄光あるタイクーン王家に仕える貴族の中でも頂点に立つ、オルレアン大公家の長男でございます。幼少の頃より、日々タイクーン王家を支えるべく、しかるべき教育を受けてきた者でございます。先のクリスタルの崩壊、世界の危機が訪れました時、国王陛下とレナ殿下不在の折りには、大臣と共に、わたくしどもオルレアン大公家の者が主としてタイクーンを支えておりました」

ファリスは目をぱちぱちさせた。

ファリス「父さんやレナがいない時にはお前達が国を支えてくれてたのか……」
アンドレイ「左様でございます」
ファリス「それは……ごくろうだったな……」
アンドレイ「いえ、サリサ殿下こそ波乱の人生を歩んできてさぞかしご苦労も多かったことでしょう。王女としての何不自由ない暮らしから一変して……気の良い者達が多いと言えどもあのような者達と共に過ごした長い年月は王女殿下におかれましては誠にご苦労が絶えなかったのではと思っております。そして今となってからまた王女の生活に戻るのも……殿下が常日頃からこれまでの生活と王女としての生活でひどくお悩みになっていることも存じ上げております。そのようなな殿下を、このわたくしめが、公私に渡り支えていきたいと思う所存でございます。殿下と一生を共に、苦しい時も悲しい時も、共に乗り越えていきたいと思っております」
ファリス「ちょっと待て」
エドワード「そうだ、ちょっと待て!貴公が我々とは比べものにならないほどの名門貴族の出だということはわかった。しかし!サリサ殿下を愛する心には貴族の階級など関係ない!アンドレイ公爵、私と決闘していただきたい」
アンドレイ「よかろう。かかってきたまえ」


今度はエドワードとアンドレイの決闘が始まった。ファリスはうんざりして戦いを眺めていた。


アルス「ああ、さすがはアンドレイ公爵だ。学問、芸術だけでなく、武芸にも長けている」
ギルバート「残念ながら私は詩を作っても楽器を奏でても歌を歌っても、アンドレイ公爵には叶わない。それでいて武術まで…ああ、家柄も、剣の腕も、容姿も、行動も全て洗練されていて…!あの方は何もかも完璧だ。我々の出る幕ではないな……」
ゴードン「ああ、なんと残念なことだろう。いくらサリサ殿下への想いが強くてもアンドレイ公爵には叶わない。格が違いすぎる。我々はひくしかないな」


3人の貴族の男達はあきらめて去っていった。残るはエドワードとアンドレイである。
アンドレイは見るからに完璧を絵に描いたような人物であった。光り輝くゴージャスブロンドの髪、美しく整った端正な顔、細いがしっかりとした、均整のとれた身体つき。それと先の3人が述べたところによると、学問も芸術も武術も全て一流らしい。家柄も全ての貴族の中では頂点に立つ存在で、王太子を出しているほどである。王家とのつながりも深い。そんな完璧な人間が本当にいるものなのかと、ファリスは信じがたい思いでアンドレイと名乗った男を見ていた。

決闘は、明らかにアンドレイが押していた。貴族の決闘用のレイピアが華麗に舞う。ファリスの目から見ても、貴族の中では相当できると思った。そして――


キーン!


アンドレイのレイピアがエドワードの剣を跳ね飛ばした。


アンドレイ「勝負あったな」
エドワード「くっ……わかった。潔く負けを認めよう。サリサ殿下は貴公に譲る」

そう言うと、エドワードは悔しそうに、また、ファリスの方を名残惜しそうに見つめながら去っていった。


アンドレイ「サリサ殿下、どうですか?私の剣の腕前は。あなた様の夫として不足はありますか?」
ファリス「あるぜ」

ファリスは男の言葉遣いになって言った。


ファリス「俺より強い男じゃなければ駄目だね。今度は俺と勝負だ!」





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