ファリス「俺より強い男じゃなければ駄目だね。今度は俺と勝負だ!」

ファリスはそう言ったのだった。アンドレイは別段驚いたようでもなく、僅かに目を伏せる。

アンドレイ「成程……どうやらあなた様の夫として認められるには、一筋縄ではいかないようですね。いいでしょう」
ファリス「待ってな。今から服を着替えてくる」
アンドレイ「殿下……」


ファリスはいつもの城を抜け出す時のお忍び用の服装に着替え、剣を携えてやってきた。化粧はそのままなので一目で女性とわかる。男装の麗人がそこにいた。

アンドレイ「わたくしはサリサ殿下に夫として認められたい。その為にはあなた様の全てを受け入れ、よき理解者でありたいのです。もちろん好戦的で男勝りなところも。殿下、あなた様にふさわしい男と認められる為、あなたと剣を交えましょう!」
ファリス「ごちゃごちゃ言ってねえでかかってこい。言っとくが俺は強いぜ」

そして、ファリスとアンドレイは剣を交えた。





カキーン

しばらく後、アンドレイのレイピアがファリスの剣によって跳ね飛ばされた。

ファリス「勝負あったな」

否、初めから勝負はついていた。アンドレイのどのような攻撃もファリスはいとも簡単にかわし、受け止めてみせた。アンドレイは何度もファリスに向かっていったが、そのたびにやられ、それでも尚、あきらめずに攻撃を続けた。
そのうちアンドレイは息が切れ呼吸が激しくなってきたのに対し、ファリスはその場から一歩も動かず、息も切らしていない。

アンドレイ「殿下……さすがは世界を救った光の四戦士の1人。お強い……」
ファリス「これで決まったな。あんたの求婚は断る!」

ファリスはきっぱりと言った。

アンドレイ「それでは、殿下はどなたとご結婚なさるおつもりなのですか?」
ファリス「俺は誰とも結婚しない!」

そう言い捨てると、ファリスはかけだしていった。





ジェニカ「サリサ様!どこへおいでになるのです?まだ舞踏会は終わっておりませんよ。それなのに何故男性の恰好などなさっているのですか!?」
ファリス「うるさい!俺にとってはもう終わったんだ!」
ジェニカ「レナ様と大臣達が選んだ5人の殿方には全員お会いになったのですか?」
ファリス「俺より弱い男なんかに興味はない!」
ジェニカ「しかし…舞踏会で殺到した男達は全て一蹴されておしまいになりましたし…家柄も教養もあるあの5人の婿候補達から1人を選ぶとしたら、誰になさいますか?」
ファリス「全員断る」
ジェニカ「そ、そんな…サリサ様、それは困ります――」
ファリス「うるさいっ!ほっといてくれ!!

ファリスの機嫌は最悪だ。大声で怒鳴り散らすと城の外へ出ていった。





ファリスはいつもの場所にきていた。そう、バッツと会う時にいつもくる場所に――
ファリスの心は乱れていた。勝手に結婚話を進められた上、好きでもない男がどんどんいい寄ってくる。とどめはあのアンドレイとかいう男だ。


ファリス「俺より強い男はこの世に1人しかいねえんだよ!!


叫びながら傍に立っていた木を思いっきり殴り付けた。

叫んだ後、自分が言った言葉に動揺する。ファリスは自分より強い男は当然バッツだけだと思っていた。共に冒険をした日々にそれは思い知らされている。まだ海賊の頭をやっていた頃、子分達を剣や拳で負かしていたファリスは自分より強い男などいないと思っていた。そして女だということを隠し、一生を海賊の首領として過ごす、そう思っていたのだ。

ファリスのそんな日々は風が止まった日から変わった。自分の海賊船を奪おうとした3人組、バッツとレナとガラフとの出会い。レナはファリスと同じペンダントを持っていて…3人と共に風の神殿へ行くと、タイクーン王から自分も選ばれし光の四戦士の1人だと言われた。その後バッツ達と行動を共にすることに決め、世界を救う旅に出たのであった。
バッツと会ってから、ファリスの内面は徐々に変わってきた。自分より強い男の存在。逞しく精悍な身体つき。ファリスが女だとわかってもありのままを受け入れてくれた広い心。


バッツ「どっちでもいいさ。ファリスはファリスだ」


男だらけの海賊の中で、女だと馬鹿にされるとずっと気負って生きてきたファリスには、バッツの言葉は救いだった。彼はファリスのあるがままの姿を受け入れてくれるのだ。ただ、ファリスにとっては、女としてバッツと接する、女として男に甘えたい、依存したい、受け入れられたいと思うには、男の懐に飛び込んで深い抱擁を受けたいと思うには奥手すぎた。女として他人に頼るという発想の無いファリスは仲間として信頼する、戦いの時背中を預けるということはしても、自分の女としての一面は、心の底に深くしまい込んだままだった。

そんな彼女の女心を一気に動揺させたのが今回の結婚話である。ファリスにとってはどのような容姿端麗な貴族の美男子も全く恋愛対象に見れなかった。正直な話、見た瞬間拒絶だったのだ。どの貴公子も、全て。自分より弱いからというのもあるが、それは体のいい口実でもある。仮にアンドレイという男が自分を打ち負かしたとしても、やはり恋愛対象には到底見れなかった。本能的に拒絶したいという感情がファリスの心を支配していた。

ファリス「……バッツ……」

先程からファリスの心はバッツの存在を意識して揺れ動いている。言い寄って来た男達を思い出し、それではどんな男がいいのかと考えるたびにバッツの姿が思い浮かんでくる。ファリスの頭の中はバッツのことでいっぱいになり、ぐるぐると同じところを駆け巡っていた。どうしていいのかわからない。
そのうち、ふと、ギルガメッシュに言われた言葉を思い出す。


ギルガメッシュ「恋でもして、ちったあ女らしくなりな」


ファリス「恋…か…」

恋とは一体どのようなものか、ファリスは知らなかった。しかし、結婚話を持ち出され、全ての求婚者を拒絶した今、バッツのことで頭の中がいっぱいになっているのは事実だった。





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