ファリスの結婚話が持ち上がり、婿を選ぶ為の舞踏会が開かれてからしばらく後、バル城ではクルルが、訪ねてきたバッツと会話していた。バッツの旅の話やバル城の話などでひとしきり盛り上がると、クルルは意味ありげな目つきでバッツを見た。

クルル「ねえ、バッツ、知ってる?この間、ファリスのお婿さんを選ぶ為の舞踏会が開かれたんだって」
バッツ「ファリスが……結婚……?」

バッツは思いがけない情報に呆然とした。クルルはしてやったり、という顔で話し続ける。

クルル「そうそう!ファリスもお姫様だもんね〜そろそろ結婚相手を探す時期よね。ただでさえも王族は結婚が早いんだから」
バッツ「……………」
クルル「ファリスのドレス姿、きっとものすごく綺麗だったんだろうな〜何せお婿さんを選ぶ為の舞踏会だもんね。前、エクスデスを倒した後、タイクーンで宴があった時覚えてる?あの時でさえ間に合わせのドレスであんなに綺麗だったんだから、この間はどれだけ綺麗だったんだろう!あ〜私も見たかったなあ。ねえ、バッツもそう思うでしょ?」

バッツ「…え…何が?」
クルル「何って、結婚の為に特別におめかししたファリスのドレス姿よ。バッツも見たかったでしょ?」
バッツ「…べ…別に……」
クルル「隠したって無駄なんだからね!私はちゃ〜んと見たのよ。前、ファリスのドレス姿見た時、バッツの顔が真っ赤になってたのを。あの時からバッツはファリスに惚れちゃったなあ〜って、私、確信したんだから!」

バッツ「あの時はびっくりしたんだよ。ドレス着たファリスなんて見たの初めてだったから」
クルル「ふ〜ん、本当にそれだけなの?ファリスが他の誰かと結婚するかもしれないって聞いて、なんとも思わないの?」
バッツ「別に……クルルの言う通り、ファリスもお姫様なんだからな。……そりゃあ…いつかは結…婚…する…だろう……」
クルル「だ〜か〜らあ〜!その相手はバッツじゃないの?私、てっきり世界が平和になったら2人は結婚するものだと思ってたわ」
バッツ「なっ…何言ってんだよ!大体ファリスはお姫様……」

クルル「だから?そのまま他の男にとられちゃってもいいの?」
バッツ「……俺にとってファリスもレナもクルルも大切な仲間だよ。だけどそれとこれとは話が別だ。3人ともお姫様としての人生を歩んでいくんだろうし、俺は一生旅人として生きていく。仲間としての絆はあるけど、……結婚とか、そういう関係にはなれないと思うな。1つの国にとどまるお姫様と風来坊の俺。生き方は完全に相反するものだよ」
クルル「でもっ!でもでもっ!バッツはファリスのこと気にならないの?」
バッツ「そういうクルルはどうなんだよ?ミドとはうまくやってるのか?」

逆に話題をふられたクルルはとてもむっとした顔で怒りだした。

クルル「もうっ!どうしてみんな私とミドをくっつけたがるのよ!確かにミドは私の身近で1番仲が良くて年齢的にもつりあうけど、それだけでいかにも恋の相手として周りから決めつけられるのは納得いかないなあ!」
バッツ「なんだ、そうだったのか?」
クルル「そうよ!それに恋愛と結婚は別よ!いくら今、私とミドが仲が良くてもこれから先どうなるかわからないわ。もしかしたら全然違う人と、バッツなんかとは比べものにならないくらい、とびっきりカッコいい年上の男の人と結婚するかもしれないわよ!」

バッツは随分意外なことを聞いた、という風にしばらくクルルを眺めていた。

バッツ「クルルがそんな風に考えてたなんて思いもよらなかったよ」
クルル「はあ…王族では早ければ私の歳でももう結婚しているし、他人事じゃないのよね……でもバッツ、ついでだから覚えておいて。女っていうのは結婚に関してはちゃっかりしてるのよ。ただ好きってだけじゃなく、もっと他のこともいっぱい考えてるんだから」
バッツ「他のことって?」
クルル「秘密!」
バッツ「なんかよくわからないなあ」

クルル「私のことはいいの!バッツ、早いとこファリスにプロポーズしないと他の男にとられちゃうわよ!」
バッツ「自分のことはさしおいて俺のことか?余計なお世話だよ。大体クルルが今言ったじゃないか。女っていうのは好きっていう感情だけじゃ結婚しないって」
クルル「だってさ、バッツ、考えてみてよ。ファリスは小さい頃海に落ちて海賊に拾われてからずっと海賊として育ってきたのよね?そんなファリスがお姫様としてうまくやっていけると思う?今は行方不明だったサリサ王女が城に戻ったということでもてはやされて、ファリスも本来の王女としての生活を送って、レナと一緒に国を支えていこうと思っているかもしれない。でも、小さい頃からずっと海賊として育って、成人してから、今さら王女に戻ろうとしたって、やっぱり無理があるわよ。そのうちファリスは城を抜け出したくなるわ。王女としての生活に耐えられずに」
バッツ「……………」

クルル「それにずっと海賊として育ってきたお姫様なんて前代未聞よ。どんな王侯貴族と結婚したってうまくやっていけないのは目に見えてるわ。それにファリスは不器用で直情型で、表面的に条件が整った適当な相手と結婚するなんて無理だと思うの。家柄とか地位、容姿なんかね。だからファリスはバッツと結婚すべきだと思うわ。バッツならファリスの男っぽいところも女らしさを隠して生きているところも丸ごと受け入れてあげられるじゃない?ファリスはそのうち自由を求めるようになると思うわ。だから、バッツ、ファリスのこと好きなら思い切って告白しちゃいなよ」
バッツ「……………」

バッツはしばらく黙りこんだ。

バッツ「いずれにしろ、それは俺とファリスの問題だ。クルルが口をはさむところじゃないよ」

そう言うと、バッツは部屋を出ていった。

クルル「もう!ファリスが他の男と結婚しちゃっても知らないわよ!バッツの馬鹿!!





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