それからまたしばらく後、バッツは故郷であるリックスの村へ戻った。タイクーンの方角はわざと避けた。ファリスの結婚話を聞かされて以来、バッツの心の中はひどく動揺していた。今まではなんとはなしにファリスと時々会っていた。気の合うよき相棒だと思っていた。しかし――ファリスは女性だ。結婚話が持ち上がった時点でもうこれまでのような関係ではいられないと思った。ファリスはどのような男を夫として選ぶだろう。そう考えると頭の中がもやもやとして、一時も落ち着いていられなくなるのだった。

リックスの村へ戻ると、幼馴染のヴィクターが声をかけてきた。彼とは幼い頃一緒に遊んだ仲である。

ヴィクター「よお、バッツ。戻ってきてたのか。相変わらずフラフラしてるのか?」
バッツ「俺は当てもなく旅をするのが好きなんだよ」
ヴィクター「変わんねえな。おまえも。どうだ、今夜一緒に飲まないか?」
バッツ「そうだな。久しぶりだし」

そう言うと、彼らは酒場へ行った。


バッツ「ヴィクター、最近はどうしてる?」
ヴィクター「ああ、学者の卵として勉強の毎日さ。それだけじゃない。おふくろからそろそろ身を固めたらどうだって言われてる」
バッツ「結婚か…誰か相手はいるのか?」
ヴィクター「さあな。村の娘の誰かと結婚することになると思うけどよ。でも女達の憧れの的って言えばバッツだからなあ」
バッツ「何を言ってるんだ。俺は今まで一度も告白されたこともないぞ」

ヴィクター「それはおまえが普段旅をしていてたまにしか帰って来ないからだろ?それに、そんなおまえだから結婚は出来ないとか何とか言ってフられるのが怖いのさ。おまえの場合、好きで気になるんだけど、振り向いてはもらえそうにない。冷静に断られそうなんだってさ」
バッツ「……村の女達からそんな目で見られてるとは思いもしなかったな……」
ヴィクター「俺はこの村で適当に相手を見つけるけどよ、バッツ、おまえはどうするんだ?一生独身のままか?」
バッツ「たぶん、そうなるだろうな」

ヴィクター「おいおい、あっさりいうなよ。今までずっと旅してたなら、旅先の町や村で女に言い寄られたことくらいはあるだろ?」
バッツ「そういうこともあるけど……」
ヴィクター「…ハッ!やっぱりな。今までもさぞかしいろんな女を抱いていい思いしてたんだろうな。うらやましいぜ」
バッツ「いや……いつも断ってる」
ヴィクター「なんだって!?おいおいマジかよ?せっかくの据え膳をみすみす逃したのか?」

バッツ「別に……そんな気になれなくて……」
ヴィクター「もったいねえなあ!女はいいぜえ〜」
バッツ「おまえはもう決まった相手がいるのか?」
ヴィクター「いいや、祭りの夜、ある女とちょっとばかしあっただけだ」
バッツ「その人と結婚すればいいじゃないか」

ヴィクター「冗談じゃねえよ!あんなあばずれ女。ちょっといいと思った男はすぐ誘惑するんだぜ」
バッツ「……………」
ヴィクター「……なあ、バッツ。…てことは、おまえ……まだそういうことしてないのか?」
バッツ「……ああ……特に気になる女もいないし……」
ヴィクター「本当にか?」

ヴィクターにそう言われた時、バッツの頭の中にはファリスの姿が浮かんだ。

ヴィクター「おいおい、普通俺達くらいの歳になればもうそっちの経験もあるもんだぜ」
バッツ「別に好きな女がいなければそれまでだろ」
ヴィクター「親父さんと旅してた頃はどうだった?ドルガンさんはいい男だったからな〜誰か女に言い寄られたりしてたろ?」
バッツ「そういえば女の人と話していて困っていた時もあったけど…あの頃はよく意味がわからなかったな。だけど親父は堅物だから、おふくろを裏切るようなことはしてないぞ」

ヴィクター「バッカだなあ、おまえ。そういうのは浮気の内に入らないんだよ」
バッツ「どのみち親父はそういう人間じゃなかったし、俺もあんまりそういうことには興味なかったよ」
ヴィクター「嘘だろ!?信じらんねえなあ。まあ親父さんもこぶつきだから気楽にその辺の女と一夜を過ごす、なんてこともできなかったんだろうな」
バッツ「しつこいな、おまえも。だいたい学者の言うことじゃないぞ」
ヴィクター「うっ…!それは言わないでくれ。……でもよお、成人したらいい加減そういうことには興味持つだろ?男として」

バッツ「20歳になった頃に世界を救う旅が始まったからな。それどころじゃないよ」
ヴィクター「そんなにあっさり言うなって!それじゃあ光の四戦士として世界を救う旅をしてた頃はどうだった?女性は3人とも王女だっていうじゃないか」
バッツ「そうだよ。だから男1人夜に変な店に行くわけにもいかないだろ?」
ヴィクター「そうじゃなくて、そのお姫さん達とは何かなかったのか?まさか何も無いってわけはないよな?」
バッツ「何もねえよ」

ヴィクター「本当にか?」
バッツ「……………」
ヴィクター「……おい、バッツ、おまえ顔 赤いぞ。……わかった!!誰か惚れてるんだろ!その3人の王女様のうちの誰かに!おい、誰だよ、教えろよ」
バッツ「な、何言ってんだよ!さっきも言ったろ?俺は特に気になる女なんか――」

バッツはヴィクターの肩をがしっとつかんで引き寄せた。

バッツ「ヴィクター、俺のおごりだ。飲め!」

そう言うと、アルコールの高い酒を一気にヴィクターにがぶ飲みさせた。

ヴィクター「うわっ!何すんだよバッツ!」

好奇心でいっぱいの状態のヴィクターを黙らせるには酒で酔い潰れさせるのが1番だ。バッツはそう思った。

ヴィクター「コォーラァ〜俺を酔い潰させて逃げようなんてずるいぞバッツーー!!!!!」




その翌日である。リックスの村のバッツの元にタイクーン王女レナからの招待状が届いたのは。





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