レナからの招待状は、表向きはタイクーン王女として公式のものだった。だが、よく見ると二重底になっており、そこにはレナの筆跡で、内密に2人で会いたい旨が書いてあった。バッツは随分タイミング良く招待状が届いたものだと思ったが、実はバッツがリックスの村に帰ってきたら渡すよう、村長はレナ王女の使いに頼まれていたのだという。
バッツの心中は穏やかならぬ状態であった。レナの2人きりで会いたいという用件が十分予想できたからである。それだからこそタイクーンの近くへ行っても城までは行かなかったのだ。

しかし王女として、またかけがえのない仲間として、正式に招待状がきたからには行かないわけにはいかなかった。バッツは覚悟を決めた。どうせ遅かれ早かれ話をつけなければならないことだった。

バッツ(内密に2人で――か。ファリスは何も気づいていないんだろうか?いや、俺とファリスが時々あっていたことはレナは知っているのだろうか?)

ファリスの縁談とレナの内密の面会。2人との関係について思い悩みながら、バッツはタイクーンへと向かうのだった。





レナが指定した待ち合わせ場所は、2人が最初に出会った場所――以前、タイクーンの隕石が落ちてきた森であった。バッツ達の世界とガラフ達の世界が1つになってからは隕石は無くなり、小さな森のみが残っている。そこに――レナは1人佇んでいた。
共に旅をしていた頃とは違い、化粧をして、動きやすい簡素なドレスをまとっていた。毎日政務に追われているせいか、その顔はやや疲れが見え、表情に憂いが垣間見えた。

バッツ「――レナ」
レナ「バッツ、来てくれたのね」

レナは憂いの表情を湛えたまま振り向き、バッツに向かって微笑した。

バッツ「久しぶりだな」
レナ「ええ」
バッツ「あれから王女として忙しそうだな」
レナ「バッツも時々訪ねに来てくれれば良かったのに」
バッツ「……すまない」

レナは悲しげな、寂しげな表情でバッツを見た。

レナ「ねえ、バッツ。この場所覚えてる?以前タイクーンの隕石があった場所よ。そう、私達が初めて会った場所」
バッツ「ここから全てが始まったんだな」
レナ「ええ……………」

レナはしばらく押し黙ってしまった。バッツも用件が想像がつくだけに下手な世間話も、過去の思い出話もしづらかった。
小さな森には穏やかな日が射しこみ、木の葉はさわさわと揺れ、小鳥のさえずりが聞こえる。
長い沈黙の後、レナは思い切ったようにバッツに向き直った。

レナ「ねえ、バッツ、お城で私達と一緒に住まない?」
バッツ「レナ、俺は――」
レナ「バッツと私、そして姉さんも一緒よ。3人で一緒に暮らしましょう。そして、たまにはクルルとも会いましょうよ」
バッツ「……………」
レナ「この間ね、姉さんのお婿さん選びがあったの。でもね、姉さんったら全員断ってしまって…そんな姉さんだから宮廷ではなかなかうまくやっていけないと思うわ。気心の知れた仲間であるバッツも傍にいてくれると私としても心強いのよ」

バッツ「ファリスは――」
レナ「バッツ」

レナはバッツをじっと見つめた。


レナ「私、あなたが好きなの」


バッツ「……………」
レナ「……あなたが……ねえ、私と一緒に暮らして。そして私と姉さんを支えて頂戴。姉さんは名門貴族と結婚するわ。ちょうどお似合いの人がいるのよ。でも今までが今までだからなかなかうまくやっていけないと思うけど。私とバッツ、2人で支えてあげればいいと思うわ」
バッツ「――随分ファリスのことを気にしているんだな」

バッツがそう言った時、レナはびくっとした。まさに図星をつかれたのだ。レナは急に両手で顔を覆って泣き出した。

レナ「…お願い…バッツ…私…あなたが好き…好きなのよ…私にとっては最初で最後の恋になると思うわ…どうしてもあきらめきれないの…だって…恋をしたら…成就させたいと思うのは当たり前じゃない…たとえ……うっ……姉さんが……ぐすっ……恋敵になっても……ううっ……………ぐすっ……………お願い…バッツ…私と一緒に――」
バッツ「レナ――」
レナ「嫌だわ、私ったら。一体何をやっているのかしら?さっきから一体何を言っているのかしら?でも、唯一つはっきりしていることは、私はバッツのことが好きだっていうことよ」

たどたどしく、だが言いたいことを全て言ってしまうと、レナは堰を切ったように泣き出した。自分のやっていることがわかっているのだ。罪悪感でいっぱいの彼女はもう涙が止まらない状態であった。ウォルスやカルナックの王子との縁談があるのは嘘ではない。だが、それをうまく利用してファリスに国内の貴族と――バッツ以外の男と結婚するように仕向けたのだ。

バッツは困った顔をしてしばらく黙っていた。一緒に冒険をしている頃からレナが自分に想いをよせていることは気づいていた。だがバッツにとってレナは大切な仲間、それ以上の感情は湧かなかった。共に旅をしている間も、レナの熱情的な視線に内心困惑していた。世界が平和になった後、レナはそれまでそうしていたように、王女の生活に戻った。そしてバッツもまた元の旅の生活に――。

しかし、レナは何かにつけてバッツをタイクーンへ招こうとした。そのたびにバッツはどこを旅しているのかわからず、連絡が取れず仕舞いであった。バッツはレナを避けていた。レナは確かに大切な仲間であるが故に、関係を壊したくなかったのである。レナとのことは、バッツの密かな悩みであった。
だが、いつまでもずるずるとこの問題を抱え込んでいるわけにもいかない。この機会にはっきりと話をつけてしまわなければならない。

バッツは、静かに、優しく、レナに語りかけた。

バッツ「ごめん。レナ。君の気持には応えられない」

泣いていたレナは凍りついたように動かなくなった。

バッツ「レナ、俺にとって君は大切な、かけがえのない仲間の1人だよ」

それだけ言うと、バッツは去っていった。





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