城に戻ってから、レナは寝室に引きこもり、誰も入らぬよう侍女に言い渡してから、ベッドで泣き崩れた。
失恋の痛みは果てしない。はっきりと断られたからには、もう二度とその人との距離を縮めることはできない。永遠に。その悲しみは深く、レナの涙はずっと止まらないままだった。
結果は最初からわかっていたのだ。バッツとファリスはお互い気が合う。それにバッツは自分のアプローチをさりげなく避けていた。それだけでも脈が無いのがわかり、心苦しい。

それでもレナはあきらめきれなかった。最初で最後、自分の本当に好きな相手に振り向いてもらおうとした。
だが、そのやり方は少々よろしくなかった。ファリスが奥手であることをいいことに、結婚話を進めた。ファリスが他の男性と結婚するならまだ望みがあると思ったのだ。
しかし、実際にはファリスは全ての求婚者を拒絶、その事実を隠したままバッツに想いを告げるが断られ…

レナ「…私…本当に馬鹿だわ…本当に…何やってるのかしら…」

恋は女を美しくさせるというが、実際はその逆だ。恋敵がいればそれだけ醜くなる。レナは姉への愛情と恋の嫉妬の狭間で苦しんだ。


その後、約1週間、レナは高熱を出して寝込んだ。なるべく侍女達を遠ざけて、1人ベッドの中で毛布をかぶり、こっそり泣き続けた。
何も知らないファリスは心配して看病しようとするが、妹に断られ、理由がわからず、ただ途方に暮れるだけである。

レナ「姉さん、ごめんなさい。そして大臣達も。しばらく1人にしておいて頂戴」

それだけ言うと、レナは人払いをして、何も口をきかなかった。


ファリス「レナ……」

ファリスはレナの異変の原因は自分のわがままのせいだろうかと思った。度重なる国を再建させる為の政務で疲れが出たのだろうとは思うが、それだけとは思えなかった。レナは王女として、好きでもない他国の王子と結婚するという。国の為に自らを犠牲にして、政務に追われる毎日を送っている。そして姉である自分には、これまでの境遇も気遣って好きな相手を選ぶ選択権を与えてくれた。そこまでしたというのにファリスは求婚者達を全て拒絶し、レナの優しい心遣いを無下にしてしまったのだ。それにくわえファリスは王女の生活が耐えられなくて時々城を抜け出している。まさに自分勝手でやりたい放題である。海賊の頭として生きるならそれで良かった。だが王女に戻り、レナと共に国を支えていくとなるとそうはいかない。

ファリスは自分のわがままに関して、自責の念にかられた。


ファリスがそうやって思い悩んでいると、アンドレイ公爵がやってきた。

アンドレイ「サリサ殿下、お悩みのようでございますね。レナ殿下が病床に伏してしまわれたこと、心中お察し致します」
ファリス「うるさいな。何の用だよ?放っといてくれ」
アンドレイ「いいえ、わたくしは仮にもサリサ殿下の婿として最大有力候補者であり、またタイクーン王家を支えるオルレアン大公として、あなた方姉妹を放っておくことなどできません。……レナ殿下はおそらく過労で倒れられたのでしょうが、どうでしょう?ここはひとつレナ様のご心痛を少しでも和らげることをなさっては?」
ファリス「どうしろと?」

アンドレイは思い切ってファリスの足元にひざまずき、手の甲に口づけをした。

アンドレイ「サリサ殿下、どうかわたくしと結婚していただきたい!」
ファリス「よ、よせ!」
アンドレイ「殿下!わたくしは殿下を心底お慕い申し上げております。あなた様の為ならどのようなことでも致します。どうか私の想いを受け取って下さいませ!そしてわたくしと共にレナ殿下とこのタイクーンを支えていきましょう。そしてレナ様の心労を少しでも和らげて差し上げましょう!」

アンドレイは真摯な目でファリスに求婚した。だがファリスはにべもなく握られた手を引っ込める。

アンドレイ「サリサ殿下…殿下がご結婚なさればレナ殿下も安心なさいます。そして政務の負担が少しでも軽くなればレナ様もお元気になられましょう。そして……何よりもわたくしはサリサ殿下を愛しているのです。殿下の為に身も心も、何もかも捧げます!殿下…どうかわたくしと結婚して下さいませ!」
ファリス「嫌だ」
アンドレイ「殿下……」

アンドレイは放心したようにしばらくその場に立っていた。


アンドレイ「殿下がどうしても嫌だと仰るのなら、わたくしは身を引きましょう。しかし、誰か他の男性とご結婚なさいませ。わたくしが今言ったことは確実にレナ殿下の負担を和らげることになりましょう」

アンドレイは優雅に一礼すると、ファリスの元から去っていった。


ファリス「…どうしろってんだ…ちくしょう…やっぱりあのアンドレイとかいう男と結婚するしかないのか…?」

ファリスは妹のレナの傍にいてやりたい、支えてやりたいという気持ちはあっても、結婚する気には到底なれなかった。それがたとえ王家に生まれた者の務めであっても。


ファリスは自分の気持ちと王族の結婚の義務の間で激しく葛藤した。





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