ある日、モグとウーマロがモブリズの村を訪ねてきた。ティナとモグは仲がいい。ティナはモグをふかふかすることが、モグはふかふかされることが大好きなのだ。ウーマロは乱暴にものを壊さないようモグが注意して見ていれば特に問題は起こさない。その日もティナはいつものようにモグとウーマロを迎え入れた。

ティナ「久しぶりね、モグ、ウーマロ」
モグ「ティナ、久しぶりだクポ」
ウーマロ「ウガー」
ティナ「…実は今、ロックもいるのだけれど、ずっと元気がないの。あなた達も一緒に励ましてくれないかしら?」
モグ「…ボクもウーマロも難しいことはよくわからないクポ。ただ、この間エドガーからロックとセリスは別れたって聞いたクポ」
ティナ「別れた?」
モグ「モーグリにはあり得ないことだけど、2人は離婚したそうなんだクポ」
ティナ「り…離婚…?」
モグ「もうあの2人は夫婦じゃないんだそうだクポ」

それを聞いてティナは呆然としてしまった。

ティナ(そ…そんな…あんなに幸せそうにしてたのに…何故…?)

ロックがモブリズへやってきた時のことを思い出す。

ロック(何も聞かないで俺をしばらくここへ置いてくれないか…?)

ロックとセリスの間には何かあったのだろう。それも離婚してしまうほどの何か。二人の仲が取り返しがつかなくなるほどの深刻な何かが。ティナはその理由を知りたかったが、ロックは一向に話す気配がない。気にはなるが、まずはロックに少しでも元気を取り戻してもらうのが先決だろう。

ティナ「モグ、ウーマロ、あなた達もロックが元気になるように協力してくれる?」
モグ「もちろんだクポ!出来る限りのことはするクポ!」
ウーマロ「ウガー」




モグはティナにふかふかしてもらい、子供達と遊んだ後、ロックの部屋へ行った。

モグ「ロック!久しぶりだクポ!」
ロック「…モグか…そうか、おまえはティナと仲がいいもんな」
モグ「…ロックについての話は聞いてるクポ」
ロック「…知ってるのか?」

モグは黙ってうなずくと部屋の椅子に座り、ロックに正面から向き合った。

モグ「ロック、ボクがモーグリだからって何もわからないとは思って欲しくないクポ!ボクにもモルルっていう恋人がいたんだクポ!」
ロック「ああ…そうだったな…今でもモルルのお守りは大切に持ってあるんだろ?」
モグ「もちろんだクポ!ボクと結婚するはずだったモルル…他の仲間達…みんな…みんな死んじゃったクポ…ボクも一番守ってやりたかった人を守れなかったクポ…」
ロック「モグ…」
モグ「ボクがモーグリ最後の生き残りだクポ…ボクが死んだらモーグリは絶滅しちゃうクポ…」

普段は決して見ることのないモグの沈痛な面持ちを見て、ロックは重大な事実に気付いた。

ロック「…!!そういえば、そうじゃないか!!!そんなことにも気付かないなんて…!!」
モグ「いいんだクポ。モーグリは絶滅しちゃうけど、他の生命は助かったから。言い伝えで残っていって、歴史の本の一遍にモーグリのことが書いてあって…それでいいクポ」
ロック「…モグは…それでいいのか…?孤独じゃないのか…?」
モグ「仕方ないクポ。これも運命だったんだクポ。じたばたしないで素直に運命を受け入れるクポ。後はもうウーマロと一緒にナルシェで雪遊びしたりして過ごすクポ。あいつもただ1人の雪男だクポ。1人もの同士仲良くやっていくクポ。そして、たまにはティナに会いに来て…それで満足だクポ」
ロック「モグ…」

何故今まで気づかなかったのだろう。いつも可愛らしい愛嬌を振りまく動物のモーグリがそんな深い絶望を抱えているとは思いもしなかった。ロックは居住まいを正すと改めてモグに正面から向き合った。

ロック「今日はありがとな。辛いのは俺だけじゃないんだって、俺よりもっと辛い思いしてる奴がいるって、よくわかったよ」
モグ「ボクは人間の複雑な事情はよくわからないクポ。だけど、ロックには元気になって欲しいクポ!」
ロック「モグ…ありがとな」

そういったロックの表情には哀愁が漂っていた。





モグ「ティナー!ロックを部屋から連れ出したクポ!」
ティナ「ロック!…なんだか少しだけ元気になったみたい」
ロック「自分だけ不幸な気分に浸ってるのは嫌になったんだ」
ティナ「そう。…ねえねえ!ウーマロが子供達と遊んでるわ!ロック、あなたもたまには外へ出て子供達と一緒に遊びましょう!」
ロック「ウーマロ、か。深く考えずに気軽に付き合える相手って楽だよな」
ティナ「何言ってるの?さあ、こっちへ来て!」





その後はティナとロックとモグとウーマロで、孤児院の子供達と遊んだ。ロックの表情が少しだけ晴れやかになったのを見て、ティナも安心した。





モグ達が帰る頃になってロックは後ろから強い力で肩を掴まれた。振り向く前に相手は誰かわかっていた。毛深い体をスノーマフラーのみまとったウーマロである。

ウーマロ「ロック、げ ん き、出せー!」

ウーマロはウーマロでロックの雰囲気に翳りがあることを察したらしい。ほとんど人間のことがわからない単細胞な雪男が相手だけに、ロックは大丈夫だと答えるしかなかった。





モグとウーマロが帰った後、ロックの心中は少しだけ穏やかになった。動物や単細胞な雪男、孤児院の子供達の単純さ、純粋さがロックの心を癒してくれたらしい。ティナの元に転がり込んで以来、ろくに部屋から出ていなかった。せっかくあつかましくも居候しているのだ。これからは自分も子供達の面倒をみよう、ロックはそう思った。





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