モグとウーマロがモブリズを訪れた日から、ロックは変わった。部屋の外に出て子供達と遊ぶようになった。以前と比べ、明らかに笑顔が見られるようになったが、それでもたまに見せる暗い表情が彼の心情を語っていた。そんなことを知らない孤児達はロックに無邪気に話しかけてくる。

「ねえねえロック!最近ティナママ明るくなったね!」
「ロックが来てからだよー。それにとっても綺麗になった」
「うんうん、ティナママはロックのことが好きなんだよー」

ロックは飲みかけていたお茶を思わず吹き出した。

ロック「ぶっ…な、何言ってるんだ!気のせいだよ」
「気のせいなんかじゃないよー。だってロックが来てから食べ物だってロックの好きなものばかり作ってるよー」
「そうそう。オムライスにハンバーグにビーフシチュー、みんなロックが好きなものだって、それでロックが少しでも元気が出るように、ってティナママが言ってたよ」
「この間だってステーキ、ロックの分だけすごく大きかったよー」
「そうそう。で、ロックが嫌いなキノコはいつもロックのお皿にだけ入れないようにしてるもんねー」
「ねー」
「ロックはティナママのこと好きー?」

ロックは慌てた。

ロック「あ、あのな…そういうことは大人にはあんまり聞くんじゃない!」
「どうしてー?」
ロック「どうしても!」

子供達は純粋な瞳でロックを見つめてくる。どうやらロックのティナに対する気持ちが知りたいようだ。ロックは逃げることに決めた。

「あ!ロックーどこに行くのー?」
ロック「ちょっくら外で昼寝してくるよ」

そういうとロックは外へ出て行った。




ロックは昔から野原で昼寝をするのが好きだった。今日は天気も良く、太陽の日差しが燦々と降り注ぐ。爽やかな風が吹き草の匂い、土の匂いがする。気温は昼寝をするにはもってこいの暖かさで、ロックは徐々に眠りについて行った。




なんだろう。いい香りがする。とても清楚な、いい香り。
ロックは意識が朦朧としたままだったが、なんだか頭の後ろにやわらかい感触があった。そして、なんともいえない、いい香り。なんだかとても暖かい、優しいものに包まれている気がする。傷付いた自分を優しく癒してくれる何か。こんなことを感じたのは子供の頃以来だ。おぼろげな意識のまま、ロックは身体を横にした。

すると、手があった。触っただけでわかる。女のやわらかな手だ。ロックはその手を握り締めた。その手の持ち主も、優しくロックの手を握り返した。
ああ、こんな安らぎを得たのはいつ以来だろう。いつまでもこうしていたい。これはきっと夢だ。この夢から覚めたらもうこの感触はなくなってしまう。
そう思いながらも、ロックの意識は覚醒してしまった。自分を優しく包み込んでくれていた女の正体は――

ティナ「ロック、目が覚めたのね」
ロック「ティナ!!!!!」

ロックは慌てて飛び起きた。

ティナ「あら、ごめんなさい。びっくりさせちゃったかしら?」
ロック「ティ、ティナ…」

ロックは耳朶まで一気に真っ赤になってしまった。なんとティナはロックに膝枕をしていたのだった。とても清楚ないい香りはティナの匂い。それを考えるだけでも胸の鼓動が高鳴り、どこかおかしくなってしまいそうだ。そして手を優しく握り返してくれたのもティナ。あの心地よい状態をいつまでも続けていたいという思いを無理に振り払って、なんとか平静を保とうとする。

ロック「あ…ティ、ティナ…俺に膝枕なんか、しなくてもいいから…」
ティナ「そう?でも子供達は喜んでくれるわよ」
ロック「俺は…その…子供じゃないからさ」
ティナ「大人になると膝枕はしなくなるの?」
ロック「そういうわけじゃ…いや、そうなんだよ!大人はそういうことしないんだよ!!」
ティナ「そうだったの。知らなかったわ。ロックがあんまり気持ちよさそうに眠ってるからつい…そうだわ!私、クッキーを焼いてきたの。一緒に食べましょう!」
ロック「そ、そうだな!そうしよう!!」




ロックはティナの焼いたクッキーをたくさん食べ、先程のことは忘れようとした。ロックにはかつてレイチェルという恋人がいたし、セリスと結婚もした。なのに先程ティナに膝枕をしてもらった時ほどドキドキしたことはなかった。そんな自分に戸惑いながら、ロックはなんとか余計な考えを頭の中から追い出そうと必死になった。
しかし、すぐ隣に座っているティナと話していると、胸の鼓動はおさまるどころかどんどん高鳴っていくばかりである。ティナを見ているだけでドキドキする。その美しさに見とれてしまう。美しく可憐な、清楚な美貌。未だ恋を知らない乙女。

抱きしめたい。しっかりとこちらに引き寄せて、離さない。そうしたい。
ロックは自分の内から湧き上がる欲求と格闘した。ティナは全く気付いていないようであった。何も気づかず、普通に話しているだけで、ロックを抗いがたい魅力で縛ろうとしているとは思いもよらない。

ロック(っていうか、なんで俺はこんなにティナに魅かれているんだ!?)

全く何も気づかないティナに思い知らせてやりたいという欲求が出てきた。しかしティナにそんなことはできない。ロックは頭の中で激しく葛藤した。そしてそれが限界に近付いた頃、とうとう耐えられずロックはティナの両手を握りしめた。

ロック「ティナ!!!!!」
ティナ「なあに?」
ロック「ああああのさ、俺が必要だったらいつでも言ってくれよ!子供達の世話だけじゃなくてさ、ほら、男手が必要な時だってあるだろう?力仕事とか。そういう時は是非俺を呼んでくれよ!な!!」
ティナ「わかったわ」

ティナの答えはあっさりとしたものだった。ロックは思わずがっくりする。

ティナ「どうしたの?」
ロック「い、いや、何でもないんだ。そ、そろそろ孤児院に戻ろうか?」

そう言うと、ロックは慌てて立ちあがって早足で歩きだした。そうしないと自分の中の何かが爆発しそうだったから。

ティナ「ロック!?待って!」

ティナは慌てて追いかける。

ティナ「どうしたの?急に急いで歩きだして。私、何かあなたに嫌な思いをさせてしまったかしら?」
ロック「違うんだ、ティナ」

ロックは立ち止り、ティナの方を見ずに言った。

ロック「俺はレイチェルを守ってやれなかった。セリスも幸せにしてやれなかった。こんな俺に人を愛する資格なんてない」
ティナ「そんなことないわ!誰だって人を愛する、愛される資格はあるわ!ケフカだって実験で心が壊れてしまうまでは普通の人だったのよ!」
ロック「でも俺は…」
ティナ「ロック、私も記憶を失くしていた頃、何もわからないままだったわ。でも焦らずにじっくりと時間をかけて答えを出していけばいいのよ。ロック、あなたは私が操りの輪を外されたばかりの頃、私の精神的な支えになってくれた。今度は私があなたを支える番よ」

そういうと、ティナはロックの前に立った。

ティナ「ロック、私がついてるわ。いつまでもここに居ていいから。あなたの心の傷が癒えるまで」
ロック「ティナ…」

気持ちの良い午後の陽射しのなか、2人は暫し見つめ合った。





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