ここは飛空艇ファルコン号の一室。カイエンの部屋である。カイエンの部屋の椅子には座布団が敷いてあり、テーブルの上には湯呑みがある。ティナとカイエンは椅子に座ってお茶を飲んでいた。ドマ王国の緑茶である。
「ねえ、カイエン。あなたは既婚者だわ。あなたの恋愛や結婚についての考え方はとても参考になるんじゃないかって思ってるの」
「う、う~む。ティナ、恋や結婚というものは経験者でもわからない、上手く説明できないものなのでござる。それくらいとらえどころのないものなのでござるよ」
「まあ、そんなに難しいものなの?」
「う、うむ」
カイエンは一体どうやって説明しようかと考えあぐねていた。既婚者であり妻子持ちとして、年長者として、ティナに良いアドバイスをしてやれるものならそうしたい。ひとまず思い出話をすることにしよう。
「拙者とミナはお見合い結婚だったでござる」
「お見合い?」
「偶然出会ったのではなく、初めから結婚相手として紹介してもらったのでござる。その時からミナは淑やかで綺麗なオナゴであった。拙者はミナとなら結婚してもいいと思い、婚約し、式を挙げた」
「ミナさんに恋していたの?」
「う~む、ミナは可愛らしいオナゴで非常に好ましく思ったでござる。恋という気持ちを自覚する前にあっという間に結婚してしまったでござる」
「お見合い結婚…そんな結婚の仕方もあるのね」
ティナには理解するのが難しいようだった。カイエンは当時の思い出話を照れながら話した。その様子を見ているとやはりカイエンは恋をして結婚をしたのだとティナは感じた。
「カイエン、あなたにとって結婚ってどういうもの?」
「妻子を持って、自分にとって何よりも大切な存在ができたでござる。自分にとって守るべき存在。拙者は家族を守る為にドマ国の戦士として戦っていたでござる。ティナ、家族を持つというのはとてもいいものでござる。独身だった頃の拙者は一人で孤独だったのかもしれぬ。ティナ、そなたに好きな男ができて結婚するのなら、拙者はティナの幸せを何よりも願うでござる」
ティナはカイエンとの会話を終えた後、また考え込んでいた。堅物のカイエンとセッツァーではまるでタイプが違う。恋愛や結婚に対する考え方もきっと随分違うのではないかと思った。ティナは操りの輪を外され記憶喪失で目覚めて以来、孤独な存在であった。仲間はいるが、家族はいない。愛する男性と結婚して新しく家族ができるのは、きっととてもいいことなのだろう。かつてマディンとマドリーヌが結ばれ、ティナが生まれたように。
「ティナ」
一人で考え込んでいるティナの元にやってきたのはセリスであった。
「ティナ、あなたがとても純粋無垢で恋するのも初めてだってことはわかってるわ。でも、同じ女として忠告させてもらうわ。あんまりわかりやす過ぎるのも考え物よ」
「えっ?」
「あなた、セッツァーが好きなんでしょう?」
「ええ、そうよ」
「だ・か・ら!もうっ!わかりやす過ぎるのよ!あのね、恋ってそんな単純に上手くいったりはしないものなの。時には恋の駆け引きなんてものも必要になってくるんだから!」
「??」
駆け引き。何でそんなものが必要なのだろうとティナは純粋に首を傾げた。ただ好きなだけではダメなのだろうか。でも何故?
「押したり引いたりする恋愛テクニックも必要よ!目当ての男に好きだってオーラばかり送っちゃダメ!時には無関心を装ったりしなきゃ。わざとつれない態度を取ったりして相手の男の気を惹くのよ!」
「ど、どうしてそんなことが必要なのかしら??」
「男も女も一緒だけど、恋愛ってね、相手が自分にすっかり惚れてるんだって思い込むと、思い上がるものなのよ!どんどんつけあがっていくの!自分も相手に好きになってもらおうとしなくなるの!だから時々恋の駆け引きが必要になるの。わざと冷たい態度を取ったりして焦らせないと、平気で浮気なんかしちゃうんだから!」
ティナはきょとんとして、目をぱちぱちさせていた。とにかく今の状態だとティナはあまりにもわかりやすい。ティナがセッツァーに気があることはバレバレだと。セリスがいろいろと力説しているところによると、わざとつれない態度を取るのも大事らしい。ティナの頭の中は混乱した。
「セッツァー」
「どうした、ティナ?」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………やっぱりできない」
「なんだよ」
「ご、ごめんなさい。何でもないの!」
ティナは慌てて走り去った。
「エドガーが何かする前に俺もティナを口説きたいんだけどな…今日はカイエンに話を聞きに行ってたな…次はガウか…――って、その次は俺じゃねえか!」
ティナは仲間になった順番に恋愛や結婚について聞いて回ると言っている。そろそろセッツァーの番である。
「それならそれで、俺の番で一気にモノにしてやるか!」
紳士的で優しく口説くのはセッツァーの性分に合わない。ワイルド系の彼は強引に、少々乱暴に女を口説くのが好きである。ティナに恋というものを嫌と言うほど自覚させてやろう。純情可憐。今まで付き合ったことのないタイプのティナを口説くのにセッツァーはワルな企みを始めるのだった。
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