「ねえ、シャドウ、あなた恋したことある?」
「……ああ」
「……あなたにとって恋ってどんなものなの?」
「……………」

ティナは聞きづらそうだった。シャドウから漂う雰囲気が他人を寄せつけないのだ。仲間にはなってもシャドウは馴れ合うことはしなかった。

「ティナ、恋というのは、好きになった相手を幸せにしたいと思うものだ。そして両想いになったら相手を幸せにする為に、そして自分も幸せになる為に結婚する。俺は恋愛、結婚というのはそういうものだと思っている。だが俺には人を幸せにする資格はない。俺はアサシンだからな。人を――不幸にする人間だ。金次第でな」
「……………」
「俺にあるのは戦いに明け暮れる修羅の道だけだ。俺に幸せになる資格はない」

ティナはシャドウが好きになった人はどんな人なのだろうと思ったが、シャドウから発せられる、これ以上踏み込ませない空気が尋ねることを憚らせた。

「ティナ、俺の答えはもう言った。これで満足か?」
「え、ええ……」

ティナはシャドウの恋の話をもっと聞きたかった。シャドウは離れたところにいるストラゴスとリルムを眺めていた。

「もう、おじいちゃんてば!本当にティナにアタックする気なの?」
「わしゃティナにまだ振られとらん!エドガーやセッツァーには負けんぞい!」
「もう、本当にバッカじゃない!」



「シャドウ? そういえば時々リルムの方を見ているわよね。気になるの?」
「………いや………インターセプターが俺以外に懐いているから少し気にしているだけだ………」
「……本当にそれだけ?」
「……ああ……」



その後、ティナは飛空艇の甲板で一人物思いに耽っていた。

恋というものは、とらえどころがなくて上手く説明できないもの。

ロックは恋がどういうものかなんて深く考えていなかったらしい。ロックの話によると――

恋をすると――
好きになった相手に夢中になる。相手が喜ぶことならなんでもやる。相手が喜ぶと自分も嬉しい。

結婚は一生の問題。結婚とはどういうものか、それは恋愛以上に難しい質問らしい。
ロックはセリスに自分にとって最高のプロポーズをして、自分にとって一番幸せな女にしてやりたいと言っていた。

エドガーによると女性との恋の語らいは癒しらしい。結婚する相手は自分にとって癒しになる存在であるべきのようだ。エドガーにはプロポーズされてしまった。その時に言われた言葉の数々を思い出す。

『私はティナ、君を全力で愛する。誰よりも大切にするつもりだ。私は君の為なら何でもするつもりだ。私ならティナを守ってやれる』
『ティナ、結婚は一生の問題だ。本当に自分が幸せになれる男と結婚すべきだ。そして私はティナを幸せにするに相応しい男だと自負している!』

エドガーに対してはどう答えたらいいのかわからない。しかし本当に自分が幸せになれる男と結婚すべきなのならティナにとっての相手は――


ティナは頭を振った。次にマッシュに聞いたことを思い出す。

『俺を好きになってくれる女の子がいたら、それだけで嬉しいよ』
『俺を好きになってくれる女の子ともし出会うことができたら……もしちゃんと両想いで上手くいったら、そりゃあ結婚したいよ。お嫁さんもらって、そして生まれた子供にも格闘技を教えたいな。男の子でも女の子でも。俺の跡継ぎになってくれたら嬉しいよ』

「そういえばあの後セッツァーは一緒にいて楽しい相手、笑顔でいて欲しい相手が恋の相手だって言ってたわね。……それに恋は最後は理屈じゃないって言ってたわ。どういうことなのかしら?」

そして今日のシャドウとの会話である。恋というのは、好きになった相手を幸せにしたいと思うもの。そして両想いになったら相手を幸せにする為に、そして自分も幸せになる為に結婚する。シャドウはそう言っていた。

「幸せ……私にとっての幸せ……」



ティナが一人考え込んでいる一方、セッツァーとエドガーは恋のライバルとして火花を散らしていた。

「悪いな、エドガー。ティナは俺が頂くぜ」
「何っ!ティナは私と結婚するんだ。おまえなんかに渡さないぞ。ティナを幸せにするのは私だ!」
「いや、わしじゃ」

急に割って入ったストラゴス。

「あん?」
「ストラゴス、ティナに求婚するというのは本気だったのか?」
「当たり前じゃ!わしだって美人と結婚したいわい!」


げしっ!


「な、何をするんじゃ、セッツァー」
「何でおまえが出てくるんだよ!じじいはすっこんでろ!」
「愛に年齢は関係ないんじゃー!ティナもそう言っていたじゃろ?わしもおまえ達の恋のライバルじゃ!」


すたすたすたすた…………


「これセッツァー、エドガー、どこへ行くんじゃ?」



セッツァーとエドガーは場所を変えた。

「とにかく!ティナは俺が好きなんだぜ!エドガー、おまえに勝ち目はない」
「何を!ティナを幸せにできるのは私の方だ!セッツァー、おまえは堅気の人間じゃない。いつも犯罪にまみれた危険な世界で生きている。ティナをそんな世界に関わらせるわけにはいかない!私の妃として平和で優雅な人生をおくるのだ!」
「俺はティナには自由に生きてもらいたいね!王妃なんざ王家のしきたりだの国の決まりだの、いろんな決め事でかんじがらめになっちまうじゃねえか。俺はティナにそんな規則に縛られた世界にいって欲しくない。俺と一緒にもっと自由な生き方をして欲しいんだ。そうだ、俺とティナは二人で自由に生きていくんだよ!何事にもとらわれない、飛空艇ファルコンで大空を自由に飛び回り、何ものにも束縛されない自由な世界で生きていくんだ!」

エドガーは詰まった。セッツァーに上手く言い返されてしまった。国王とギャンブラー、王である自分の方が夫として有利なはずなのに。セッツァーからもティナのことが好きだという気持ちが伝わってくる。ティナの気持ちは現在セッツァーの方に傾いている。なんとかしてティナの気を惹きつけなければ。今まで女性を口説いてきたテクニック全てを使ってでもティナを振り向かせてみせる!エドガーは作戦を考え始めた。



何も気づいていないティナは男の仲間達に一人ずつ話を聞く続きをすることにした。

「次はカイエンね。結婚してるからロック達とは違うことを言うかしら?聞いてみましょう!」





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