ティナは現在仲間の男達に恋愛と結婚について聞いて回っている。それが男をどんなに困らせる質問かは純粋なティナの知る由もない。昨日はロックとエドガーの二人に聞いた。出会った順番に聞いていくつもりなので今日はマッシュである。今は飛空艇は地上に着陸している。マッシュは朝の修行をやっていた。モンクとして格闘の修行は毎日欠かさないマッシュである。

「おはよう、マッシュ」
「あ!ティ、ティナ、おはよう」

ティナの用件はもう聞かなくてもわかってるだけに、マッシュは思わず緊張して居住まいを正した。昨夜エドガーに恋愛と結婚についての考え方を聞いていたティナ。出会った順番に聞いていくと言っているので次はマッシュの番である。どう答えたものかと頭をかいた。

「ねえ、マッシュ。あなた、恋したことある?」
「い、いや、まだだ」
「ねえ、恋ってどういうものだと思う?」
「そ、そうだなあ……」

単刀直入でストレート過ぎる。奥手のマッシュはマッシュで、エドガーとはまた別に困っていた。いや、どんなタイプの男でもたじろぐだろう。

「う~ん、そうだなあ………俺を好きになってくれる女の子がいたら、それだけで嬉しいよ」
「まあ、そうなの?」
「ああ。俺、ごついだろ?ティナと最初に会った時も熊に間違われたし」
「あ、ごめんなさい」
「いや、怒ってるわけじゃないんだ。俺みたいなごつくてがさつな男を好きになってくれる子がいたら、それだけで嬉しいかな。モンクの修行は女とは無縁だったからなあ。恋愛や結婚について考える機会なんて今までなかったな」
「まあ」

マッシュにとってティナは十分に魅力的な女性である。だが奥手のマッシュは、ティナの気持ちがセッツァーに傾いている以上、自分から特に行動を起こす気はなかった。もしティナのような女性が自分を好きになってくれたら――そんな妄想が心のどこかでざわめく。奥手だがマッシュの胸中は揺れ動いた。だが見ていてティナはどうやらセッツァーが好きなようだし、誰か他にティナのような女性との出会いがあれば――そんなことをつい考えてしまった。

「ねえ、マッシュ、あなたは結婚についてどう思う?」
「う~ん、そうだなあ………俺を好きになってくれる女の子ともし出会うことができたら……もしちゃんと両想いで上手くいったら、そりゃあ結婚したいよ。お嫁さんもらって、そして生まれた子供にも格闘技を教えたいな。男の子でも女の子でも」
「まあ、そうね。結婚したら子供が生まれるのよね。マッシュは自分の子供にも格闘技を教えたいのね」
「そうだな。俺の跡継ぎになってくれたら嬉しいよ。やっぱ自分の子が跡継ぎっていうのはいいよな」
「そうね」
(ふ~、なんとか切り抜けられた……)

マッシュとしての当たり障りのない答えでティナは満足したようだ。その後、セッツァーがどんなに困ることになるかはマッシュの知る由もなかった。



「セッツァー、さっきマッシュに恋愛と結婚について聞いてきたわ」

セッツァーを見るなり近づいて話しかけてくるティナ。わかりやす過ぎる。セッツァーとしてはいい加減『攻め』に出たい気分である。多少強引な手を使ってでもティナの心に揺さぶりをかけるのだ。

「マッシュの次は誰に聞くんだ?」
「シャドウよ。シャドウも好きな人ができたことがあるのかしら?聞いてみないとわからないわね」
「そうか」
「ところでセッツァー、さっきマッシュと話してて気づいたの。結婚したら子供が生まれるのね」
「あ、ああ」
「マッシュは子供が生まれたら自分の子に格闘技を教えるんですって。ねえ、セッツァー、あなたと私が結婚して子供が生まれたら、あなたは子供にギャンブルを教えるの?」

その時のセッツァーは軽く飲み物を口にしていたが、危うく吹き出すところだった。

「ちょ、ちょっと待て!いきなり何言い出すんだよ!ティナ………俺と結婚すること前提なわけ?」
「いけないかしら?」
「いや、あのな、ティナ」

あまりにもわかりやす過ぎてかえって反応に困る。セッツァーは頭を抱えた。それにセッツァーは今まで女遊びはしても、子供のことなんて考えたこともなかった。


俺とティナの子供


だーーっ!いきなり何言い出すんだよ!ティナ!」
「えっ?どうしたの、セッツァー?」
「ティナ、おまえは――」


どこまで男を動揺させたら気が済むんだよ!!!!!


「ティナ!今日は一日俺に付き合え!」
「えっ?だってシャドウと話が――」
「別に明日でもいいだろ?それにどうせシャドウ相手じゃ辛気臭え話になるに決まってる。その前に俺とまたデートしようぜ!」
「え?ええっ?」
「いいから来いって!」

セッツァーはティナを強引に引っ張り、ジドールの町へ向かった。セッツァーとしては女に『やられっぱなし』というのは我慢ならないのである。例えティナが天然でも。戸惑うティナを強引にエスコートし、町を共に探索する。

「なあ、ティナ。あんまり真面目に考え過ぎんなよ。恋ってのは楽しむものでもあるんだぜ」
「えっ?」
「一緒にいて楽しいかどうか。恋の相手として相応しいかの基本だぜ」
「一緒にいて楽しいかどうか……。じゃあ結婚は?」
「そりゃもちろん一緒にいて楽しいかどうかが大前提だろ?一緒に暮らすんだから」
「そうなのね。私、今までみんなに聞いたことを紙にまとめようかしら?」
「そんなのいいんだよ!恋ってのは、人を好きになるってのは最後は理屈じゃねえんだ!いずれわかる!」
「えっ?」

ティナにとって恋愛と結婚は未知の世界だ。まだまだわからないことがいっぱいある。セッツァーが言うには最後は理屈ではないらしい。では一体どういうことなのだろう。眉を顰めて真面目に考えようとするとセッツァーは強引に遊びに誘ってくる。今日のセッツァーの主張は『恋は楽しむもの』。だから俺とのデートも目一杯楽しめと。全部俺の奢りだと。

「ティナ、俺と一緒にいて楽しいか?」

ティナはしばらくセッツァーを見つめていた。そして最高の笑顔で答えた。

「ええ、とっても!」

それを見てセッツァーも嬉しくなった。ジドールのギャンブル場でもツキが回ってその日は大当たりだった。ポーカーでも、それ以外のギャンブルでもセッツァーは大勝利だった。

「セッツァーって本当に賭け事が好きなのね」
「ああ。元々俺はスリルのあることが大好きなんだよ。当たった時の高揚感が何とも言えねえ」

そんなセッツァーをティナは穏やかな目で見つめていた。



「セッツァー、今日あなたに教えてもらったわ。一緒にいると楽しい相手が恋の相手なのね」
「ああ。一緒にいて楽しい相手。それに好きになった女には笑顔でいて欲しいもんだ」
「笑顔……」
「今日のティナは笑顔で楽しそうだった。だから俺も嬉しいんだ」
「そう。恋する男女ってそういうものなのね。ロックとエドガーも同じようなことを言っていたわ。ロックは『あいつが喜ぶことなら何でもやった』って。エドガーは『幸せにしたい』って」
「エドガー……」

『幸せにしたい』とはかなり効果的な言葉である。セッツァーも負けてはいられない。何せエドガーはまだティナのことをあきらめていないようなのだ。が……

(フッ……悪いがエドガー、ティナの心は俺が射止めてみせるぜ!!!!!)

セッツァーは内心エドガーへのライバル心に燃えていた。それには気がつかないティナ。

「明日はシャドウに話を聞くわ。シャドウは何て答えるかしら?」

(……まあいいさ。時期が来たら俺の最高のプロポーズを決めてみせるぜ!!!!!)

セッツァーはどんな風にティナにプロポーズしようか、どんな決め台詞を言おうか、今から楽しみに考え始めた。ティナをどんな風に驚かし、喜ばせるか、自分の考つく限りの最高のプロポーズをしたい。





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