ティナがセッツァーと再会したのは、帝国の裏切りにあった後だった。幻獣の多くはケフカにより魔石にされてしまった。その後、魔大陸が浮上した。ティナ達は魔大陸へ乗り込む前にしっかりと準備をすることにした。武器・防具・アクセサリを買い揃え、アイテムもたっぷり購入する。魔石を装備してまだ覚えていない魔法を修得する。飛空艇ブラックジャック号で世界各地を飛び回る。ある町に立ち寄った時、メンバーは飛空艇で待機する側と、町へ行って必要なものを調達したり情報を集めたりする側の二手に分かれた。ティナとセッツァーは町へ行く側になった。セッツァーがティナを見ると、ティナは心細そうな表情をしていた。

「よお、ティナ。どうした?心細そうな顔をして」
「セッツァー、私、人がいっぱいいる場所が苦手なの」
「そうなのか。じゃあ俺がエスコートしてやるよ」
「エスコート??」

セッツァーはティナの肩を抱き寄せた。

「腕組んで歩こうぜ。ほら、あそこにいるカップルみたいに」

ティナが見ると、若い男女のカップルが腕を組んで歩いていた。女性が男性の腕に自分の腕を巻きつけている。ティナは同じようにセッツァーと腕を組んだ。
昼下がりの町は人で賑わっていた。天気もよく、空は雲一つない快晴である。抜けるような青空がどこまでも広がっている。暖かい午後の日差しと気持ちのよい風に吹かれながら、セッツァーとティナは町を探索した。歩いていると、女性アクセサリーの店があった。

「あら、綺麗な髪飾り」
「ん?欲しいなら買ってやろうか?」
「えっ、いいの?」
「それぐらいお安い御用さ」

セッツァーは会計を済ませると、ティナの頭に髪飾りを丁寧に付けた。店の鏡を見て写った自分の姿を見たティナは喜んだ。

「わあ!嬉しいわ。ありがとう、セッツァー!」

その時のティナの笑顔は、この上なく可憐で美しかった。



「なあ、ティナ、今度夜の街へ繰り出さないか?」
「えっ?危険じゃないかしら」
「俺がついてれば大丈夫だって。ティナが今まで知らなかった世界を見せてやるよ」

その夜、セッツァーはティナを連れてこっそり飛空艇を降り、夜の街へ繰り出した。街のところどころに灯りがちらちらと揺れる。夜気に包まれて、二人は歩く。セッツァーはティナを酒場に連れて行った。夜の酒場は昼間と違い、大人の雰囲気が漂う。使い走りの少年などはいないのだ。ピアニストが奏でるピアノの旋律が響き渡る。夜の酒場は犯罪の温床であり、昼間はいなかった怪しい人物も紛れ込むようになる。美しい酒場女達が店内を行き交う。夜の街はセッツァーにとって怪しい魅力を感じるものであった。ティナは不安げに店内を見渡して、腕を組んでいたセッツァーに、更にしっかりとつかまった。

「私、こんなところ初めて……」
「心配するなって。俺こういうところに慣れてるから」

セッツァーはティナを連れて酒場の奥に入った。地下の階段を進んだ先には秘密のカジノがあった。そこは更に大人の怪しい雰囲気に満ちていた。セッツァーは最奥部に行き、ポーカーを始めた。セッツァーは世界一のギャンブラーと言われている。ポーカーも、あっという間に勝ち続けていった。ティナはどうしてあんなに役がそろうのだろうと不思議そうに見ていた。実際にやってみたが、ティナにとってはワンペアやツーペア、スリーカードまでが精一杯で、ロイヤルストレートフラッシュなど一体どうやったら出せるのだろうと本当に不思議だった。何かコツがあるのだろうか。セッツァーのカード捌きは鮮やかで、見事に勝ち進んでいく。ポーカーはセッツァーの圧勝だった。

「ティナ、そろそろ帰ろうぜ――って言いたいところだが、ちょいと荒っぽいことになりそうだ。しばらく安全な場所に行っててくれないか?」

セッツァーがそう言い終わらないうちに、先程のポーカーでボロ負けした男が殴りかかってきた。ティナは慌ててカジノの端に移動した。セッツァーは殴りかかってきた男を軽くいなす。そのうち、他の男達も次々とセッツァーに襲いかかってきた。みんな一度はセッツァーに敗れた者ばかりだ。ティナははらはらして見ていたが、セッツァーはかなり喧嘩慣れしているらしく、大乱闘になっても怯まず派手に相手を倒していく。相手が拳ではなくナイフで切りかかってきても軽やかにかわし、隙を見て蹴りを入れる。戦っているうちにセッツァーの服が破れたり、手や顔にかすり傷ができたりした。全員をぶちのめすと、セッツァーは悠然とティナを連れてカジノを出た。

「セッツァー大丈夫?」
「ああ。こんなの何でもないさ」
「でも、怪我をしているわ」

ティナはケアルを唱えてセッツァーの怪我を治した。

「ありがとよ、ティナ」
「服も破れてしまっているわ」
「いいって、こんなもん」
「……ねえ、いつもギャンブルをしているとあんなことが起こるの?」
「ああ。スリル満点だろ?」
「まあ……」
「運が全てのギャンブル、危険に満ちた裏の社会。それが俺が住んでいる世界さ」

ティナは目を丸くした。そしてセッツァーの顔の傷を見る。喧嘩でできたと思われる古傷がいくつもある。セッツァーは跡が残るような傷が顔にたくさんついても平気なのだ。ティナは心配そうにセッツァーの顔に触れた。

「そんな心配そうな顔すんなよ。傷は男の勲章とも言うんだぜ」
「そ、そうなの……?」

ティナは理解できなかった。傷跡など残らない方がいいに決まっているではないか。それが顔の傷なら尚更である。



飛空艇に戻ると、エドガーが険しい表情をして待っていた。

「セッツァー!こんな夜中にレディを連れ回すとは何事だね?」
「そんなの俺の勝手だろ?ちゃんとエスコートしたぜ。ティナはかすり傷一つ負ってない」
「そういう問題じゃない。帝国と決着をつけるのも間近に迫っている。こんな時に夜の遊びにティナを誘うなんて一体何を考えてるんだ!」
「おーやおや。ティナだからいけないのかな?それともセリスだったらいいのかな?」
「何っ!」

憤るエドガーに対し、セッツァーは余裕である。ティナは何が起こっているのか今一つわかっていなかった。怪我をしたのはセッツァーなのだから、セッツァーの心配をするべきではないかと思う。ティナは無傷である。それにティナは魔道戦士として騎士剣を扱うことができる。いざ危険な目に遭っても剣術の心得があるのだ。

「ティナはずっと帝国に操りの輪をつけられていたから、まだ世間をよく知らないんだ!」
「だから俺が世間の一部を見せてやったんだよ」

それ以上セッツァーは取り合わずにティナの肩を抱いて飛空艇の部屋へ戻る。ティナの部屋の前で立ち止まる。

「ティナ、夜の世界に遊びに行きたかったらいつでも俺に言いな」

そう言うとセッツァーはティナの額にキスをした。おやすみを言って立ち去る。

ティナはしばらくぽかんとしていた。





次へ
前へ

二次創作TOPへ戻る