ここは飛空艇ファルコン号の船内。セッツァーはティナとの関係に悶々としていた。自分はティナに惚れている。今までゆきずりで関係をもった他の女達とは違う。ティナを自分の女にしたい。肝心のティナはまだ恋という感情を知らない。セッツァーがティナに恋心を抱いているように、ティナもセッツァーに対して恋心を抱いているように感じる。それなりに女性経験が豊富なセッツァーは、それが気のせいや自惚れではないと、ほぼ確信していた。ティナの心を思いっきり揺さぶりたい。そして改めて自分を『男』として意識させたい。ティナの中で他の男とは違う存在になりたい。恋というものはどういうものか、気づかせてやりたい。思い知らせてやりたい。時に乱暴な感情が入り混じりながらも、セッツァーのティナへの思いは募る一方であった。

そんなセッツァーの気持ちに何も気づかないティナは、相変わらず親しげに話しかけてくる。

「ねえ、セッツァー、私……レオ将軍が言ったこと、わかりかけてきた気がするの」
「ふうん、そうかよ」

セッツァーの方はこんなにもティナのことで悶々としているのに、他の男の話かと思い、苛立ちを隠せない。ティナはセッツァーの苛立ちに気づいたが、何が原因かはわからず怪訝に思う。そして話を続ける。

「私は幻獣と人間のハーフ。幻獣と人間が愛し合えるのなら……その子である私と人間とは……愛し合えるのかしら?」
「!!」
「レオ将軍はもちろんだって言ったわ。でも……私はまだ愛という感情を知らない。あれからモブリズの村の子供達と一緒に暮らし始めて、愛するという感情が芽生えてきたのはわかったわ。でも……子供達に対する愛情と、お父さんとお母さんが愛し合った愛情は、また別のものなんじゃないかしら……」

セッツァーは咄嗟に言葉が出ず、詰まる。

「レオ将軍は、私はまだ若いから、きっと、いずれわかるようになるって……でも……私は、今知りたい……人と愛し合う感情を……」
「……ティナ、それを言うなら男と女が愛し合う感情、だろ?」
「え?」
「恋って言葉は知ってるか?今、ティナが言ってるのは恋愛感情のことだ」
「恋……」
「ティナにとって特別な感情を持つ男がいたら、それはきっと恋だ。他の男とは違う感情のはずだ」

こんなことは本来エドガーに講釈を述べさせた方が上手いだろうと思いつつ、さり気なくティナの気を引こうとするセッツァー。狙い通りにティナはセッツァーの方をじっと見つめてくる。

「何の話してるんだい?」

セッツァーにとって、せっかくいいところだったのに邪魔したのは誰かと思い振り向くと、なんとゴゴだった。

「なんだよ、ゴゴじゃねえか」
「フフフ、悪いな、セッツァー。俺もティナのことが好きなんだ。そう簡単にティナの男として認めてやるわけにはいかないぞ」
「へえ、俺と張り合おうってのか?」
「違う違う。俺の好きとおまえの好きは違うのさ。俺は『like』、おまえは『love』の感情をティナに対して抱いている」
「あら?ねえ、ゴゴ、あなたも人を愛することができるの?」
「人を愛するものまねはやったことないなあ。人を好きになったことはあるよ。俺はティナが好き。だからティナが誰かに恋をするんだったら見守ってやりたい。相手の男がちゃんと信頼できる男かどうかね」
「人を好きになることと、誰かに恋をして愛することと、どう違うのかしら……」

ティナが真剣に悩み始めると、飛空艇船内にいた仲間達が集まってきた。『恋って何?』『結婚ってどういうものなの?』仲間達がそれぞれ意見を言い、ティナに恋愛や結婚について教えようとする。

「……つまり、恋っていうのは男性なら女性、女性なら男性に、異性に対して抱く感情なのね。そしてお互い両想いになれば結婚する。私は女だから、私が恋をする相手、結婚する相手は男性ってことになるわね」

仲間達は目を見開きながらティナを見つめた。ティナは幻獣と人間のハーフである。その為、人としての感情が乏しいところがある。人を愛する感情そのものがわからなかったのだから、恋愛や結婚に関する理解も根本的なところからはじまるのだ。

「じゃあ身近な存在としては、仲間の男性達の誰かが私の恋の相手ってことになるのかしら……」
「……ん?」
「ねえ、男の人達全員に聞くわ。あなた達にとって恋ってどういうもの?結婚についてどう思う?」

男性陣は固まった。しばらく沈黙が降りる。

「みんなに一人ひとり聞いてもいいかしら?男の人達にとっての恋愛観や結婚についての考え方を知りたいの」

困った顔をする男性陣。特に結婚適齢期である若い男達は動揺を隠せない。

「参ったなあ。改めてそんなこと聞かれるとどう説明したらいいか……」
「ねえ、カイエン、あなたは確か奥さんと子供がいたわよね?あなたにとって恋ってどういうもの?結婚ってどういうものなのかしら?」

経験者なのだから当然わかるだろうと思ってティナが尋ねると、当のカイエンは困りきった顔をした。

「もし新しく好きな女の人ができたら、再婚するの?」
「そ、それは……あわわ、ティナ、そんなことを言われたら困るでござる」
「?そうなの?でもそうなると、恋の相手は私ってこともあり得るのね。カイエンは男の人だし……」


!?


ティナがカイエンの後妻に……?


「こ、困るでござる!困るでござる!」

「ねえ、ガウ、あなたは恋ってどう思う?あなたも好きな人ができたらいつかは結婚するのかしら?」


え!? 今度はガウ!?


「う~、ガウ、恋ってよくわからない。でも好きな女の子ができたら結婚したい」
「そうよね。両想いになれたら結婚したいわよね」
「う~、女の子……」
「ガウは男の子だから……あら?それじゃあ私の恋の相手はガウってこともあり得るのね」


えええええ!!??


「ちょっと待て、ティナ!」
「あら?セッツァー何怒ってるの?」

セッツァーは気持ちが高ぶり過ぎて言葉が出てこない。そんなセッツァーをよそにティナは無垢な故の爆弾発言を次々としていくのであった。

「ねえ、ストラゴス、あなたにとって恋はどんなものだったの?リルムがいるってことは結婚してるのよね?」
「リルムは確かにわしの孫じゃが……もごもご……」


ま、まさかティナ……


仲間達の嫌な予感は的中した。

「ストラゴスも男の人なんだから、私の恋の相手はあなたってこともあり得るのね」


あああああ!!!!!


「ティナ、わしゃもうジジイじゃ。老いぼれだゾイ」
「えっ?でも愛に年齢は関係ないってどこかで聞いたわ」
「ティナ!何でそんな言葉だけ覚えてるのよ!」

思わずセリスは口を出さずにはいられなかった。ティナとセリスは同い年だが、恋愛に関してはセリスの方が経験者である。同じ女としてセリスはティナが心配だった。

「なんと……!ティナ、わしが恋の相手でもいいというのか!!」
「あなたも男でしょう?」


うぎゃあああああ!!!!!


「な、なんと……!! ティナ、わしゃハートにずきゅ~んときたゾイ」
「ちょっと待て、ストラゴス」
「わしもティナと結婚する資格があると言うんじゃな?」


ドガァ! バキッ! ドゴォ!


「こ、こりゃ、何をする!若者達よ!」
「うるせえ!年甲斐もないこと言ってんじゃねえよ!」
「そうだよ、ジジイ。ティナみたいな美人、おじいちゃんなんか釣り合うとでも思ってるの!」
「リ、リルムまで……」

ティナの爆弾発言はまだ続きがあった。

「ねえ、ウーマロ、あなた恋ってどんなものかわかる?あなたもいつかはナルシェの雪原で、誰か相手を探して結婚するのかしら?」
「ウガー!おれ、まだ恋わからない。好きな女できたら、おれも、結婚したいー!」
「あなたも男だものね」
「ウガー!」
「あら?それじゃあ……私の恋の相手はウーマロってこともあり得るのね」



んなあああああっ!!!??? ウーマロまで!!!!!



「私は女だから、私の恋の相手は性別が男の人の誰かになるのね」

仲間達は口をぱっくりと開けて唖然としていた。

「ティナ、守備範囲広い……」
「みんな!誤解しちゃダメよ!ティナはまだ何も知らないだけなのよ!」

セリスが慌ててティナを庇おうと取り繕う。ティナは相変わらず純粋無垢に小首を傾げ、恋愛や結婚について真面目に考えている。そんなティナを見て、セッツァーはこの怒りの感情をどうすればいいか、やり場に困っていた。





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