「人を好きになることと、誰かに恋をして愛することと、どう違うのかしら……」

恋愛や結婚について真面目に考えているティナ。先程、自分がとんでもない爆弾発言をしまくったおかげで仲間達が騒然としているのも全く気づいていない。セッツァーは強引にティナに自分の方を向かせようとした。セッツァーが近づくと、ティナは顔を上げた。

「あ、セッツァー、他のみんなも聞いて。ねえ、これから男の人達みんなに一人ひとり聞いてもいいかしら?男の人達にとって恋ってどういうもの?結婚についてどう思う?」

男性陣は全員硬直した。特に結婚適齢期である若い男達は弱った顔をしている。相手はティナである。あんなに純粋無垢な表情で、真っ直ぐに見つめられたら、男として一体どう答えればいいのか。

「そうだわ。私が出会った順に聞いていきましょう。ねえ、ロック、私にとって最初の仲間はあなただわ」
「げっ!俺が最初!?」
「ええ。ねえ、ロック、あなたにとって恋ってどういうもの?結婚についてどう思う?」

ロックはピンチに陥った。

「ロックは確かレイチェルさんって恋人がいたのよね。今はもう亡くなってしまって、今のロックはセリスと恋人同士ね。あなたにとってレイチェルさんとセリスって、どういう存在なの?」


・・・・・・・・・・


しばらく固まったまま動けなかったロックは、その後とんずらしようとした。

「ちょっと待ちなさいよ!ロック!」
「ハッ!セリス!ちょ、ちょっと待ってくれ!俺に考える時間を!!そ、そうだ、この機会だ、俺もちゃんと自分の頭の中を整理して、自分の気持ちにけりをつけるから。な?だ、だから………ちょ、ちょっとタンマ!」

ロックは脱兎のごとく逃げ出した。

「ロック、逃げちゃったクポー!」
「モグ、そういえば一番最初にロックに出会った時、モグも一緒に私を助けてくれたのよね?」
「そうだクポ!ティナ!僕は恋愛と結婚について答えれられるクポ!僕にはモルルって恋人がいたクポ!モルルのお守りは僕にとって命より大切なものだクポ!僕にとって世界で一番の相手だクポ!」
「そう、わかったわ。自分にとって世界で一番の相手と結婚するのね」
「そうだクポー!」

他の仲間達はひそひそと話し合っていた。

「どうしよう。俺達人間の男よりモグの方がまっとうな考え方な気がする………」
「とにかくどうするよ?ロックはなんとか取り繕って一旦逃げたけど、あのティナの質問、逃げられそうにないぜ?」

セッツァーは黙って考え込んだ。思いもよらぬことになってしまった。ティナは仲間の男達に一人ひとり、恋愛や結婚について尋ねてみようというのだ。ティナが本当に真面目に考えてのことなのはわかっている。が、・・・・・・・・・・
男にとってこんな困った質問も他にないだろう。セッツァーは頭をポリポリと掻いた。幸い、ティナは仲間になった順に聞いていくと言っているので、それまでに何と答えるか考えておこう。

「それにしても、まだ恋を知らないティナにとっては男ってだけで全員恋愛の対象だと思ってしまうんだな」
「うーん、困ったな……。それで仲間の俺達は身近な存在として恋愛対象に見做すってわけか……」
「ま、まあ、俺達一応、全員独身男性ってことに変わりはな――」


「ウガー!」
「ガウー!」



「・・・・・・・・・・」

特に結婚適齢期の若い男達は複雑な心境だった。その中でもエドガーやセッツァーは自分の容貌に自信がある。女性からモテる存在だと今まで自負してきた。それが………未だ恋の感情を知らないティナから見たら、他の男と全く同格に見られているということに、どうしても納得がいかなかった。ロックやマッシュならまだいい。しかし………カイエンやストラゴスまで美男子であるはずの自分と同格なのか。それはどうしても納得できない。それどころか、まだ子供のガウ、更に――


何でウーマロまで俺達と同格なんだよ!!!!!


ウーマロは雪男。確かに『男』であることに変わりはないが………若い男達はとてもじゃないが納得できなかった。

セッツァーは一体どういう手段でティナに思い知らせてやろうかと、未だかつてない苛立ちを覚えた。ティナを強引に自分に振り向かせたい。乱暴な衝動が心の中で沸き起こる。しかしティナがあまりにも純粋無垢で真面目なので、乱暴な行動に出るのも気が引ける。このやり場のない感情をどこに向けたらいいだろうか。エドガーの方を見ると、彼は彼でティナに対してどう答えたらいいものか、思案に暮れているようだった。エドガーの様子を伺いながら、セッツァーも考える。これはティナの心を射止めるまたとないチャンスであると同時に、男としてこれ以上ないくらい困った質問である。しかし、ここで確実にティナの心を掴むことを言えば、ティナを自分のものに――

エドガーとセッツァーは心の中でティナの心を射止めることで頭がいっぱいになった。そして無言のまま恋のライバルである相手を意識する。密かに互いに視線を向け、目が合うと静かな闘争心の炎が瞳の中に揺らめいた。

エドガーはティナに本気である。

セッツァーもティナに本気である。

静かな炎が二人の間に沸き起こった。そんな時、思いもよらぬ横槍が――

「ティナ……『愛に年齢は関係ない』……わしゃハートにずきゅ~んときたゾイ……わしもティナと結婚する資格があると――」


ドガァ! バキッ! ドゴォ!


「こりゃあ!何をする!若造共~!」
「ストラゴス!何でてめえが出てくるんだよ!!!!!」
「『愛に年齢は関係ない』。ティナはそう言ったんじゃ!」
「だから?」
「だからじゃ!エドガー!セッツァー!おぬしらには負けんぞ!わしも恋のライバルじゃあああーーー!!!!!」


し~ん……………


「お、おじいちゃん………年甲斐もなく………」
「ティナみたいな美少女に『愛に年齢は関係ない』なんて言われたから正気を失ったんだろ」
「あーもう、おじいちゃんのバカバカバカバカ、アホジジイ!ねえ、誰かハリセンか何か持ってない?一回あの頭ぶっ叩いて正気に戻してあげないと」

リルムがそう言っていると、横から肩をトントンと叩く者があった。ものまね師のゴゴである。

「このまま放っておいた方が面白いことになりそうだよ。『恋は盲目』というからね。ストラゴスには気の済むまでやらせてあげたら?」

リルムは、確かにこのまま放っておいた方が面白いことになりそうだと思ったが、それでもストラゴスの年甲斐もない行為には呆れずにはいられなかった。



一方、ティナはセッツァーとの会話を思い出していた。

『ティナにとって特別な感情を持つ男がいたら、それはきっと恋だ。他の男とは違う感情のはずだ』

他の男とは違う特別な感情を持つ男。

ティナにとって、それはセッツァーであった。






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