ロックは飛空艇の甲板に避難していた。
ティナの質問はロックにとって一番困ったものである。しかも逃げられない。いや、逃げるべきではないのだろう。人の心は移ろいやすいもの。特に恋愛は。他人から見ると矛盾していたり、見ていて明らかにおかしかったり、非難されるべきことをやってしまうこともままある。それが恋というもの。自分でも本当に一体何をやっているんだろうと思うことがある。それが『恋』というもの。実際、ロックは今までの恋で、心の中は矛盾だらけであった。

「ロック」

ギクッとして振り向くと、そこにはティナの姿が。ティナは自分の質問がロックを困らせてしまったらしいことはわかったが、それでも純粋に真剣な目で見つめてくる。恋愛と結婚について、本当に真面目に考えているティナの顔を見ていると、いい加減なことは言えなくなってくる。

「ティナ、今は、ここには他に誰もいない。ちょうどいい。久しぶりに二人で話をしようじゃないか」
「ええ」

空は昼下がり。天気は雲が多く、うす曇りだった。飛空艇の甲板にいると気持ちのよい風が吹いてくる。

「ねえ、ロック。あなたにとって恋ってどういうもの?」
「う~ん、そうだなあ。………ティナ、恋ってどういうものかって、改めて聞かれると困っちまう質問なんだよ。それくらい恋っていうものは、とらえどころがなくて、上手く説明できないものなんだ」
「そうなの?」

ティナは不思議そうに見つめてくる。そんなティナを見てロックは苦笑しながら、あきらめたように、覚悟を決めたように話し出した。

「ティナも知っての通り、俺には昔レイチェルという恋人がいた。恋がどういうものかなんて深く考えてなんかいなかった。とにかく俺はレイチェルに夢中だった。レイチェルが好きだった。あいつが喜ぶことなら何でもやった。あいつが喜ぶと俺も嬉しい。俺はトレジャーハンティングを繰り返して、いろんなお宝を手に入れてはレイチェルに自慢した。あいつへのプレゼントが手に入れられる時だってあった。あの頃は俺にとって幸せな日々だったんだと思う……」
「それが……ある日、レイチェルさんが記憶喪失に……」
「ああ……トレジャーハンターとして調子に乗ってた俺を助ける為にレイチェルは……そして記憶を失った……。俺は悲しかったよ。好きな女が自分を忘れてしまったんだ。でもそれは俺のせい。レイチェルは俺を守ろうとして記憶を失ったんだ……やるせない思いだった……」
「その一年後、レイチェルさんは帝国の侵略で……」
「ああ……俺はあいつの側を離れるべきじゃなかった。どんなに邪険にされて疎まれても、あいつの側にいるべきだった。あいつが記憶を失ってまで俺を守ってくれたように、俺もあいつを守るべきだった。……でも、俺はあいつを守ってやれなかった……レイチェルは死ぬ間際に俺のことを思い出したってのに……」

後悔の念が疼く。ロックにとって、愛する女性を守れなかったことはトラウマだった。それが、その後のティナやセリスを守ろうとすることにつながる。

「ロック、私が初めてあなたに会った頃、あなたは私を守ることにこだわっていたわね」
「ああ。恋人のレイチェルを守れなかったことがずっと俺の心に重くのしかかっていたんだ。それで、ティナも女だし、守ってやりたいと思った。もう二度と同じ過ちは繰り返したくないと思った……」
「私は女戦士なのに。それにセリスも女戦士よね?」
「そういうことじゃないんだよ、ティナ。戦う力を持っているかどうかじゃない。俺は……ティナも、セリスも、戦士として身体は丈夫で強くても、心に脆いところがある。だから、俺はティナやセリスの身体だけじゃなくて、心も守ってやりたかったんだと思う。特にティナは操りの輪を外されたばかりの頃は心細そうだったからな……」
「そう……。ロック、今まで私を守ってくれて、ありがとう」
「えっ?いや、そんなお礼を言われるほどのことは何もしてないよ。結局あれからセリスに夢中になっちまったし」
「今はロックとセリスは恋人同士なのよね?レイチェルさんはもういない。だからこれからロックはセリスを幸せにすればいいんじゃないかしら?」
「ああ……」

飛空艇の甲板で語り合うティナとロック。気づけばうす曇りだった空は徐々に日が射してきた。

「ねえ、ロック、結婚についてどう思う?」
「ティナ……それは男に対して恋以上に困った質問だ」
「どうして?」
「そりゃあ……一生の問題だからさ」

ティナは言葉通り素直に受け取った。が、ロックから何らかの具体的な答えをもらうまで納得するつもりはないようである。ロックは参ったなあと頭をかいた。

「ロックはこの戦いが終わったらセリスと結婚するの?」
「……ああ……そうだな……俺にとって最高のプロポーズをして、俺にとって一番幸せな女にしてやりたい」
「素敵ね。結婚式には私も呼んでね」
「あ、ああ」

ロックは戸惑った。ティナは清らかな純真な目でロックとセリスの幸せを祈っている。その穢れ無き瞳から感じられる。ロックは心を打たれた。今まで男として不誠実なこともたくさんやってきたロックであったが、これからは心を入れ替えて真面目になりたいと思った。ティナの真っ直ぐな瞳を受けて触発されたのである。レイチェルの時と二度と同じ過ちは繰り返さない。今度こそ自分の愛する女性を、セリスを幸せにしてみせる!



ティナとロックは飛空艇の甲板から中に戻った。

「ロックから恋や結婚についてお話を聞かせてもらったの。私、出会った順番に聞いていこうと思ってるの。次はエドガーね」

心の準備もまだ何もできていない、ティナを口説き落とす作戦考え中のエドガーは慌てた。

「あ、そ、それじゃ、夜になってからでいいかい?レディ」
「おい、エドガー、何かヤらしいことするつもりじゃねえだろうな」

仲間達から痛い視線を感じる。エドガーはふとセッツァーの方を見たが、セッツァーは素知らぬ顔をしている。だが、一見何でもないように振る舞っていて、実は平静を失っているであろうことは容易に想像がつく。

(フッ……悪いがセッツァー、ティナの心は私が射止めてみせる!!!!!)

ロックはセリスを伴って飛空艇内の部屋へ引っ込んでしまった。大事な話があるのだという。図らずもティナと話し合うことで今までのことについて気持ちの整理がついたらしい。

ティナはというと、エドガーと夜に二人きりで話をするという約束を取り付けた後、セッツァーの方にやってきた。

「ねえ、セッツァー。私、今、出会った順番にみんなの恋愛や結婚についての考え方を聞いて回ってるの。あなたが何て答えるか楽しみにしてるわ」
「俺がどんな考え方を持ってるか気になるか?」
「ええ、とても」

ティナは純真でわかりやすい。ティナの気持ちが自分の方へ傾いていることを嫌でも気づかざるを得ない。エドガーは全力でティナを口説こうとするだろうが、こっちはこっちで一歩たりとも引く気はない。ティナの気持ちはセッツァーの方にあるのだ。ティナが未だに恋について無知であるのならば、多少強引な手を使ってでも自覚させてみせる。ワイルド系のセッツァーは乱暴にティナを振り向かせたい衝動に駆られたり、それではいけないと自制しようとしたり、内心葛藤するのであった。





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