クラウドが忘らるる都へ向かった次の日、ティファは1人部屋でぼうっとしていた。
着替えようとして服を脱ぎ、胸元の傷跡を見る。昔、セフィロスに斬られた刀傷だ。
ニブルヘイムの悪夢からもう8年が経っているが心の傷は決して癒えない。この刀傷ももちろんそうである。
仇であるセフィロスはもういないが、心の傷がティファを蝕む。苦しみ悩ませる。
ティファの心の傷を唯一共感してくれるのはクラウドだけだ。昔のニブルヘイムの生き残りはクラウドとティファだけである。

2人だけのもの。唯一共感できるもの。
お互いの傷を慰め合いたい。

そこまで考えてティファは真っ赤になってしまった。確かにティファはクラウドのことが好きだ。未だに恋をしているが、いざとなるとどうしてもひるんで逃げてしまう。そんなティファに対して、クラウドは敢えて強引に詰め寄ろうとはしなかった。臆病な自分が恨めしい。
それに自分が本当にクラウドにふさわしい女なのか、今ひとつ自信が持てなかった。エアリスの存在を知っているだけに。


明るく元気な、誰にでも好かれる女の子。それが昔からのティファだった。それはセブンスヘブンを経営している今でも変わらない。ティファはお客達皆の人気者であった。しかし、それはティファの表の顔である。本当のティファは自分に自信のない、恋する男に積極的に向かうこともできない臆病者だった。


コンコン

マリン「ティファ?まだ寝てるの?私、朝ごはん作ったよ」
ティファ「あ、ごめん、今行くわ」



食卓の席でもどこか心ここにあらずといった状態のティファを見て、マリンとデンゼルは心配になった。

マリン「ねえ、ティファ」
ティファ「え?な、なに?」
マリン「今日、お店休んだら?前にユフィお姉ちゃんから臨時休業の看板もらってるんでしょ?」
ティファ「何言ってるの。お店は通常通り営業よ」
マリン「でも…だって、今日のティファなんだかおかしいもん。ねえ、デンゼル?」
デンゼル「うん、ティファ、俺から見てもなんだか心配だよ。きっと日頃の疲れが溜まってるんだと思う」
ティファ「そう…そうかもね…」

ティファはしばらくぼうっとしていた。マリンとデンゼルはさらに不安そうにティファを見守る。

ガタッ

突然ティファは立ちあがった。

ティファ「わかったわ。今日は臨時休業よ。そのかわり、私、ちょっと出かけてくるわ」
マリン「どこへ?」
ティファ「うん…ちょっとね…」
デンゼル「ティファ?」
マリン「デンゼル、ティファの行きたいところへ行かせてあげようよ」
デンゼル「あ、ああ」





店には臨時休業の看板を立て、マリンとデンゼルに留守番を頼んでティファは出かけた。エアリスの教会へ。
元々エアリスが花の世話をしていた教会では、今では星痕症候群を治す癒しの泉が湧いていた。
美しい花々と泉を見ながらティファはゆっくりと歩いていた。

ティファ「エアリス…きっと…きっと、今でも見守ってくれてるんだよね、ずっと。…クラウドに何かあった時、いつも助けてあげられるのはエアリス。私じゃないんだ」
(何言ってるの?)
ティファ「!?エアリス!?」
(も〜う、クラウドもティファもじれったいなあ。2人していつまでひきずってるつもり?)
ティファ「この声…エアリス…なの?」
(ちょっとだけね、ライフストリームからあなた達に話しかけることはできるの)
ティファ「エアリス、私…」
(わたしに遠慮することなんて何もないんだよ?クラウドは初めからティファのことが好きだったんだから)
ティファ「でも…あなたと出会ってからは、違うと思う」
(そんなことないよ。確かにわたしもクラウドが好きで、クラウドもデート1回の報酬でわたしのボディガード引き受けてくれたんだから、少しはわたしの方に気持ちが動いていたんだとは思うの。だけどね、あなた達と一緒に旅しててね、幼馴染同士、心が通じ合ってるなあってわかる時がたくさんあって、わたしの入る余地なんてないなあって思い知らされたこと、いっぱいあったの。ティファはわたしの知らないクラウドをたくさん知ってる。正直羨ましかったな)
ティファ「でも…クラウドのこと助けてあげられるのは、いつだってエアリスじゃない」
(何言ってるの?自分のやったこと忘れたの?自分を見失って魔晄中毒になったクラウドの看病をしたのはティファよ?それからクラウドが本当の自分を取り戻すのを手伝ったのもティファ。1番クラウドの心の支えになってるのはティファよ!)
ティファ「…エアリス、ありがとう。でも…私、臆病者よ。3年も一緒に暮らしてるのに自分からは何もできないの。思わず怯えちゃうの」

(………ティファ、クラウドにはわたしからもちゃーんと言っとくから、わたしの分まで幸せになってね!絶対だよ!でないとわたし怒っちゃう)
「待って、エアリス…エアリス?」


教会の中はしんとしていた。

ティファ「夢?幻…?…違う、エアリスの声、直接頭の中に入って来た。…エアリス…」





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