レノは最近の同僚の異変に気づいていた。どうもルードの様子がおかしいのである。無口で真面目な彼は黙々と仕事をこなすが、時々どこかうわの空であった。何かあったのか直接聞いてもなんでもないというだけである。原因を突き止める為、レノは仕事が終わった後、ルードの後をつけてみた。
行き先はティファの店セブンスヘブン。店は閉まったままだったが、ルードは物陰からそっと中の様子をうかがっていた。顔を出しては引っ込め、また顔を出しては引っ込め、その姿は十分すぎるほどに怪しかった。

レノ「…ルード、おまえ何してるんだ」
ルード「!?レノ…」
レノ「はたからみるとすごく挙動不審だぞ、と」
ルード「じ、実は…」
レノ「何もじもじしてるんだ。気持ち悪いぞ、と」
ルード「クラウドとティファが別れた」
レノ「何?あの夫婦同然の2人がか?」
ルード「…ティファのファンの間ではもう噂になってる。ティファは失恋のショックで店を閉めたままだ。…な、なんとかして…なぐさめてやりたい…」

そこまでいうと、ルードは剃った頭全体がゆでだこのように真っ赤になった。

レノ「それはおまえにとってはチャンスだな、と。それならこんなところでもじもじしていないで堂々と中に入ったらどうだ」
ルード「そ、そんな…!まだこ、こ、心の準備が…!」
レノ「何言ってるんだぞ、と。他の男に取られてもいいのか?幸い俺達は顔見知りだぞ、と」
ルード「ま、待ってくれ!告白して成功するにはど、どどど、どうすれば…」
レノ「簡単なことだ。男は当たって砕けろ。今はもうクラウドはいない。ひょっとしたらひょっとするかもしれないぞ、と」
ルード「そ、そうか?」
レノ「わかった。相棒の為にアドバイスだ。まずは念入りに準備だぞ、と」

神羅カンパニーのタークスの一員であるルードがひそかにティファに想いを寄せていることはレノだけが知っている事実だった。しかし、かつては敵対し、その後もクラウドの存在があって、ただでさえ奥手なルードは何も言い出せないままだったのである。レノは良き相棒としてルードの力になってやろうとした。



恋の作戦会議の後、念入りに準備をしてルードはタキシード姿になった。そして髭も綺麗に剃って身だしなみを整え、手にはバラの花束を持った。

レノ「ルード、カッコいー」
ルード「……………」
レノ「いいか、ルード。男一世一代の告白だ。気おくれなんかするんじゃないぞ、と。これでティファのハートを射止めるつもりで本気でいけよ、と」
ルード「わ、わわわわわわかっている」
レノ「ルード、落ち着け。いいか、ゆっくり深呼吸をして、余裕のある大人の男の雰囲気で挑むんだ」
ルード「大人の男…」
レノ「さあ、がんばっていけよ、と」

ルードはガチガチになりながら、かなりぎこちない足取りでセブンスヘブンの前に立った。しかしそこには先客がいた。

「ティ、ティファさん!どうか出てきて俺と話をして下さい!俺は、あなたが好きなんです!」

し〜ん……………

「ダメだ。俺が呼びかけてもティファちゃんは応えてくれない」
「俺もだ。よっぽどあのクラウドって野郎のことが好きだったんだろう。くうーっ!今思い出しても腹が立つ!」
「クラウドのことはもういいんだ!それよりティファちゃんに笑顔を取り戻してもらうのが先決だ」
「よ、よし!今度は俺が行く!」
「俺が」
「俺が」



レノ「こいつは大変だな、と。準備している間に先客がいっぱい出てきたぞ、と。――って、ルード!」


ルード「ま、待てー!おまえら!ティ、ティファに近寄る奴は、お、俺が相手だ…ぞ、…!!!!!」


レノ「……………」
「わっ!なんだこのスキンヘッド野郎は?」
「こんなヤツ店に来たことあったか?」


ルード「だ、だだだだ黙れ!たとえ遠く離れていても、俺のティファを想う気持ちは誰にも負けないぞ!」


「ライバル出現?」
「でもこんなごつい上にどもってばかりのハゲ野郎なんざティファちゃんが相手にするとも思えないけどなあ」

プチッ

ルード「なんだと…!」


「うわあああ!」
「なんだこいつ!メチャクチャ強いぞ!」

店の外で大きな乱闘の騒ぎが起きるとさすがのティファも様子を見に外へ出てきた。

ティファ「一体何の騒ぎ――あら?ルード?」
ルード「ティ、ティファ!君に近寄る男は俺が全員追い払ってあげるからね!」
ティファ「ルード…?一体どうしたの?それにその格好は…」
ルード「ティ、ティティティティティティファ!今こそここではっきりと言おう!じ、実は俺は、君がが好きなんだ!

ティファ「…え?」

ルード「以前は敵同士で想いを告げられないでいた!だけど今はもうそんなこと関係ない!――ど、どどどどうか!俺と付き合ってくれーーーーー!!!!!

レノ(なんちゅう不器用な告白だな、と)

レノは、あちゃー、と手で顔を覆った。ティファはしばらくポカンとしていた。あまりにも思いがけない出来事であったのである。

「ふざけんな!おまえみたいな男にティファちゃんは渡さないぞ!」
「そうだそうだ!このハゲ!」

ティファに群がる男達を無視し、ルードはティファの手を握り一世一代の告白をする。

ルード「お、俺はティファを想う気持ちだけは誰にも負けない!クラウドなんかよりずっと君を愛して大切にする!君の人生はこれからだっ!これでもう終わったような顔はして欲しくない!俺は――俺はティファの為ならたとえ火の中水の中――どんなことでもする!俺の全てをかけてき、君をあ、愛し――


ガコーン


その時セブンスヘブンの看板がルードの頭めがけて落ちてきた。ルードはその場に倒れた。





ルード「…うっ…」
レノ「相棒。おまえにしてはよくやったぞ、と」
ルード「ティ、ティファは…」
レノ「おまえの手当てをした後、看板を直してるぞ、と」
ルード「…ティファ…」

その時、ティファがやってきた。

ティファ「レノ、ルードは大丈夫?」
レノ「こいつの石頭は筋金入りだ。心配いらないぞ、と」
ティファ「今日はありがとう。おかげで少し元気が出たわ」
ルード「ティ、ティファ!」
ティファ「ルード、あなたの気持ちはとても嬉しいのだけれど、私、当分は1人でいたいの」
ルード「…ティファ…」
ティファ「ごめんなさい。私にとってクラウドの存在は大きかったの。あなたの他にもたくさん、私を元気づけようとしてくれる男の人達はいるわ。みんな私を気づかってくれてる。だけど、私、まだ気持ちの整理がつかないの。クラウド以外の男の人のことを考えられるようになるかどうか、自分でもわからない。お願い、しばらく考えさせてくれないかしら?」



ルード「まだ、俺にもチャンスがあるだろうか…」
レノ「そうだな。でもまずは好きな女の前でどもるのを克服するんだな」

その時、2人はふいに後ろから声をかけられた。

リーブ「おや、タークスのお2人ではありませんか」
レノ「リーブ、ここで何してる?」
リーブ「ティファさんお様子を見にきたんですよ。かつての仲間の中で私が1番近くに住んでいますからね。最近は私以外の人間と会ってないようなんで心配だったんですよ」
ルード「…!!
リーブ「それでは私は先を急ぎますので」



ルード「ま、まさか…」
レノ「落ちつけ、ルード。単にかつての仲間のよしみだぞ、と」
ルード「しかしリーブもまだ独身!も、もしや…」
レノ「まさか」

リーブが去った後、近くの女達の噂話が聞こえてきた。

「ねえ、さっきの人、渋い男前だったわねえ」
「ええ!奥さんはいるのかしら?」
「あらでも結婚指輪はしてなかったわよ」
「今度アタックしてみようかしら?」
「キャーキャー」

ルード「…ふんぬー!
レノ「おい、落ち着け、相棒!あんな中年ライバル意識するなんてみっともないぞ、と」
ルード「し、しかしリーブの奴、ティファと頻繁に2人きりになって…それで親密な仲になって…それで…それで…もしかすると………うわあああ!」
レノ「おい、落ち着け!変に想像するのはやめろ!そんなことよりおまえ自身のことを考えろ。まだ可能性はある。あきらめるのは早いぞ、と。それに恋のライバルならいっぱいいるぞ、と」
ルード「くっ…他の男共には負けん…!負けるかああ!」
レノ「俺が応援してやるからせいぜいがんばれよ、と」





思いがけない告白に驚いたティファ。彼女に言い寄って来る男達は少なくない。だが今まではとてもそんなことを考える気分になれなかった。しかしレノやルードを見ていて、少しだけ心がほぐれたような気がする。あの2人の独特の雰囲気が滑稽な味を出している。いつまでも店を閉めたままにしておくのはよくない。明日から通常営業に戻そうと彼女は決心した。

ティファ「今日は本当に驚いちゃったわ。まさかルードが私のこと好きだなんて…でも私はやっぱり……………ふう、失恋ってこんなに辛いものなのね。…エアリスも、ザックスがいなくなった時、とても悲しかったのかしら?でもエアリスは強いものね。私が会った時はもう立ち直ってたし。…もしユフィだったら…あの子はタフだから一晩泣いたら忘れそうね。…私もいつまでも落ち込んでちゃいけないわ。…すぐには…無理だけど…」

クラウドに別れ話を持ち出された時、ティファは目の前が真っ暗になったような気がした。心の中は悲しみであふれかえってもう2度と元に戻らないのではないかと思う程だった。ティファは元々思慮深い性格の影響で落ち込みやすく、立ち直りにくい。しかし、そんなティファを元気づけようとしてくれる男達は大勢いる。果たして新たに彼女の心を射止めることができる男は現れるのだろうか、それとも…?





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