グレイ「クローディア、決心はついたか?」

グレイはやや緊張した面持ちで尋ねた。もしかしたらクローディアとは永遠にお別れになるかもしれないのだ。この世で最も愛しい人と。
それに対し、クローディアは落ち着いた表情で応えた。

クローディア「グレイ、私、思ったの。一度、バファルへ帰りましょう」
グレイ「?一度帰ろうとはどういうことだ?今戻れば君は皇女に――」
クローディア「私、お父様と親子らしい会話、全然してないわ。お父様とお話したいの。お父様の気持ちも確かめずに行ってしまうのはあんまりだわ。お父様の気持ちも聞いて、よく話し合って…私もお父様も十分納得した上でグレイと一緒に行きたいの」
グレイ「クローディア…!!」
クローディア「あなたは私が皇女になりたくなくて、でも周りが強要しても守ってくれるって言ったわ。だからあなたを信じる」
グレイ「クローディア…」

クローディアはグレイにそっと抱きついた。

クローディア「グレイ…私…あなたのことが…好き…」
グレイ「クローディア…俺もだ。俺も…おまえを愛している…全身全霊を込めて!」

グレイはクローディアを強く抱きしめると、そっと口づけをした。そのまま何度も唇を重ねる。クローディアは恍惚とした表情で身を任せていた。




その後、グレイとクローディアはメルビルへ行き、宮殿を訪ねた。中ではジャンが出迎えた。

ジャン「グレイ!クローディアさん!生きていらっしゃったんですね!良かった…!!陛下のご病気の時もモンスター軍団襲来の時もタイミングが悪くて君達とは会えなかった。しかもサルーインとの戦いに行くと聞いて俺は腰を抜かしたものだよ」
クローディア「ジャン、元気そうでよかったわ。あの、私…」
ジャン「そうと決まったら早速陛下にお伝えして2人の勇者の帰還を祝わなければ!」
クローディア「あの、ジャン?そんなことしてくれなくてもいいわ。ただ私は陛下に御挨拶がしたいだけなの」
ジャン「しかしクローディアさん――」
グレイ「ジャン」
ジャン「わ、わかりましたよ。それなら陛下に御面会の手続きをとります」




皇帝はクローディアが帰ってきたと聞いて飛び上がった。私の娘が生きていた!生きて私の元へ戻ってきた!その思いでいっぱいになった皇帝はクローディアを私室に通すように伝えた。そして、クローディアが入って来る。

フェルY世「おお!クローディア!よく生きて…よく生きて帰ってきた!」
クローディア「陛下…」
フェルY世「どこも傷は負っておらぬか?どこも悪くないか?」
クローディア「大丈夫です…陛下…」
フェルY世「おお、そんなに固くならずともよい。ここにいるのは私とそなただけじゃ。ゆっくりくつろいでくれ」
クローディア「はい、陛下」

皇帝は侍女にお茶と菓子を運ばせると、下がらせた。室内は皇帝とクローディア2人だけである。グレイは別室で待機している。

フェルY世「クローディア…そなたを見ていると赤ん坊の頃行方知れずになった娘を思い出す」
クローディア「…陛下の娘さん――皇女の名前もクローディアというそうですね」
フェルY世「そうじゃ。そなたと同じ名だ」

皇帝は実に愛おしそうにクローディアを見た。

クローディア「陛下…実は、私が知ってしまった事実をお伝えしなければなりません」
フェルY世「なんなりと申してみよ」
クローディア「はい…ただ…それにより私から自由を奪うようなことはしないで下さい。私は――自由に生きたいのです」
フェルY世「……そうか……」
クローディア「陛下、私の名はクローディア、この国の第1皇女と同じ名でございます。そして私の髪と瞳の色はバファル皇族の特徴だそうですね」
フェルY世「……………」
クローディア「そして…これは私が生れた時から持っていたものでございます」

クローディアは震える手で珊瑚の指輪を皇帝に見せた。

フェルY世「それは皇女の印!それではやはりそなたが我が娘クローディアなのか!」
クローディア「私の育ての親も…死ぬ間際に私が帝国の皇女だと…」
フェルY世「おお!もしやと思ってはおったが…!!クローディアや、こっちへおいで」

皇帝は立ちあがってクローディアに向かって手を広げた。

クローディア「…お父様…!!」

クローディアは皇帝に抱きついた。親子は暫しの間、抱き合ったままだった。皇帝は涙を流している。

フェルY世「よう生きておった…これまでさぞ苦労したことじゃろう…今まで父親らしいこと何もしてやれんですまなんだ…」

一通り親子の再会を喜び合うと、フェルY世はクローディアが今までどうしてきたかを聞き始めた。そしてクローディアも話し始めた。命を狙われて危険な状態にある自分を侍女が森の魔女に頼んで助けてもらったこと。ある日ジャンが森に迷い込んだのがきっかけで外の世界へ出ることになったこと。そしてそれから――グレイと出会ったこと。その後の旅のことなどを一通り話した。

フェルY世「うん うん 本当に無事でよかった…クローディアや、もう心配はいらない。これからは私と共にこの宮殿で暮らそうぞ」
クローディア「お父様、それについては私もよく考えたのだけれど、私は――」
フェルY世「クローディアや、寂しいことを言わないでおくれ。せっかくこうして会えたのじゃ。当分この宮殿においで」
クローディア「お父様、それならしばらくここにいますわ。でも私のことはみんなには言わないで下さい」
フェルY世「そうじゃな。今の状態だとまた暗殺者に狙われるかもしれん。よし、内密に、しかし丁重に扱おう」
クローディア「お父様、もう1つお願いがあるの。……グレイも一緒に…私、外の世界に出てからずっとグレイと一緒だったから…」
フェルY世「グレイ、か。おまえはあの若者を好ましいと思っておるのかの?」

途端にクローディアは真っ赤になった。

フェルY世「よい よい おまえも年頃の娘じゃからのう。あの男ともよく話してみるわい。とにかく当分の間はここにいるのじゃ。私を1人にしないでおくれ」
クローディア「お父様…」

初めて名乗りを上げ、父と親子としての会話をした。しかし、皇帝はそう簡単にクローディアを解放してくれそうもないようだ。クローディアは嬉しい一方で困っていた。





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