長き死闘の末、グレイ、クローディア、ジャミル、シフ、ホーク、アイシャ、アルベルト、バーバラの8人はサルーインを倒すことに成功した。そして、皆、袂を分かち、それぞれの道を歩み出した。ジャミル、シフ、アイシャは故郷へ戻った。ホークはサンゴ海へ戻り、アルベルトはクリスタルシティのナイトハルトと姉のディアナの元に戻った。バーバラはまた踊り子をしながら旅を始めた。しかし世間ではまだサルーインと戦った戦士達の帰還は知らされていない。




ここはブルエーレのパブ。かつてのグレイの仲間、ガラハドとミリアムが一緒に酒を飲んでいた。そして、詩人の歌を聞いていた。

ミリアム「グレイ…元々腕が立つとは思っていたけど、まさかサルーインと戦うなんてね…」
ガラハド「そうだな…無事だろうか?」
ミリアム「そう簡単に死ぬような奴じゃないよ。きっとまたどこかでひょっこり出会うさ」

詩人はパブの客に喝采を浴びていた。

「いやーあんたよくそんな見てきたような歌が作れるねー」
詩人「ははは。みなさん、そう仰いますなー」

そういって愛想笑いをした後、詩人は小さく呟いた。

詩人「………グレイよ、本当に見ていたよ。君の素晴らしい戦いを!!」




一方、ここはバファル帝国皇帝フェルY世の私室。皇帝は娘のことが心配でずっと苦悩に満ちた表情をしていた。

フェルY世「クローディア………私の娘!!………皇帝の娘とはいえ何故おまえだけがこれほど運命にもてあそばれねばならんのだ!おまえがサルーインとの戦いに行くのを知った時に止めるべきであった………おまえを永遠に失うことになるとは………」

皇帝はクローディアの姿を思い浮かべ、深く悲しんでいた。初めて会ったのは財務大臣パトリックの事件。あの時名前を聞いて、そしてあの栗色の髪とヘイゼルの瞳を見て昔行方知れずになったはずの娘ではないかと思った。そして皇帝の病を治してくれた時の彼女の表情、モンスター軍団が襲来した時に必死にかけつけてくれた彼女の表情。会うごとに娘だという確信は深まっていく一方だった。ただ1人の我が娘、宮廷へ迎え入れ、共に暮らしたい。今までの時間の埋め合わせをしたい。皇位などマチルダにくれてやる。だから父と子の和やかな時間を…そう思っていた。

だが、クローディアはサルーインと戦う運命にあった。普通の人間と違い、特別な使命をもって生まれてきたのだ。固い決意の元、仲間達と共に打倒サルーインを唱える彼女を見て、皇帝は引き止めなかった。全てが終わったら――何事も全て終わったら――親子2人で――
しかしクローディアは帰らぬ人となった。皇帝はショックを受け、それ以来ほとんど何も食べていない。
そんな皇帝をよそに、グレイとクローディアは今後のことについて話し合っていた。




グレイ「クローディア、君はこれからどうする?」
クローディア「……………」
グレイ「君の選択は大きく分けて2つだ。1つはメルビルへ帰り、皇女としての身分を明かし、父親である皇帝の側にいることだ」
クローディア「……………」
グレイ「そうなると勢力争いに巻き込まれる可能性が高い。何せ君は第1継承権者だからな」
クローディア「……………」
グレイ「しかし唯一の肉親と共にいられる道でもある。それに、今となってはジャンやネビル達は君を必死になって探していることだろう。彼らはきっと君に帝国に戻って欲しいと願っているだろう」
クローディア「…もう1つの道は?」
グレイ「皇女の地位を捨ててこのまま俺と一緒に世界中を旅することだ。そうなるとバファルにはもう近づかない方がいいな。仮に君を皇族の一員に加えようとする奴らが来ても、君が望まないなら俺が追い払ってやる。これから一生、俺が責任を持って君を守ってやる」
クローディア「……………ごめんなさい。なかなか答えが出せないの」
グレイ「俺はいくらでも待つ」

グレイは勢いで告白しそうになったが、かろうじて思いとどまった。クローディアが皇女に戻る可能性もあるのだ。自分の想いは知られないままの方がいい。グレイは本当はクローディアに帝国に戻って欲しくなどなかった。皇女など実態は到底いいものではない。常に対面を気にし、人目を気にし、政治の為に私情を押さえ込まなければならない。国の繁栄の為、時には冷徹な決断が必要な時もある。そして権力の座を狙う者達に常に囲まれて暮らす。そんな生活をクローディアには送って欲しくなかった。己の全てをかけて彼女を守りたい、大切にしたい。グレイの胸中はその想いでいっぱいだった。

クローディアの方は、自分が皇女だと知らされて以来、この問題についてずっと考えてきた。そして、父の身に何かあった時はかけつけ、そして急いで去る、ということを繰り返していた。皇帝の病を治した時も、声をかけられ、呼びとめられても逃げてしまった。そして皇女の身分と自由、どちらを選ぶべきか、考えるほどわからなくなっていくのである。
クローディアは、皇女になって宮廷で暮らすのは嫌だった。元々人の多い所は苦手である。それなのに宮廷という、人の悪意まで常に渦巻いているような場所で暮らせるわけがない。だが、父親である皇帝フェルY世は、今となってはクローディアの唯一の肉親である。

クローディアの中の葛藤は激しかった。今まで通り父にもしものことがあった時だけバファルに戻り、普段はグレイと共に行こうか。その方が彼女にとってはよかった。生まれて初めて森を出て紹介された、初めての仲間。ガイド。出会って以来片時も離れずずっと一緒にいた彼は十分気心が知れた仲である。そして、クローディアは内心、グレイに対してほのかな慕情を寄せていた。グレイと一緒にいると安心する。逆に離れ離れになると思うと急に不安でたまらなくなる。ずっと一緒にいたい。そして愛し合って――
そこまで考えてクローディアは真っ赤になってしまった。私は一体何を考えているのだろう。皇女の身分を選ぶのか、それともグレイと共に――

ああ!考えがまとまらない!
皇女になるということを考えるよりグレイと一緒にいる方がいい。思考は常にグレイの方へ傾きつつあった。
少なくともはっきりしているのは、ことあるごとにグレイのことで頭がいっぱいになることであった。





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