クローディアの父でもあるバファル皇帝フェルY世のたっての願いで、グレイとクローディアはしばらくメルビルの皇帝宮殿に滞在することになった。
ジャンとネビルは、やっと皇女が帰ってきたと喜んではいたが、まだクローディアが皇女の名乗りを上げずにいること、皇帝もそれを認めていることに困惑していた。それにクローディアは、基本的には父と共に過ごしていたが、皇帝が政務を行っている時などはずっとグレイと片時も離れずに一緒にいた。それは、最早ネビルとジャンにとっては我慢ならないことであった。クローディアは皇女である。仮に一度護衛を依頼したのであっても、皇帝とクローディアがお互いを認め合っているのならばもうグレイの入る余地はないはずだ。なのに何故あそこまでクローディアはグレイと親しげなのか?

ジャン「ま、まさかグレイ、クローディア様をたぶらかしたんじゃ…!!」

そんな男だとは思っていなかったが、もしかしてそうなのか…?

ジャンは元々思いこみの激しい猪突猛進タイプである。一度そう思ったらいてもたってもいられなくなり、グレイに詰め寄る。

ジャン「グレイ!おまえがそんな男だとは思わなかったぞ!よくもクローディア殿下をたぶらかしたな!」
グレイ「…何を言ってるんだ、おまえは」
ジャン「黙れ!こうなったら決闘だ!行くぞ!」

ジャンは剣を抜いた。が――


隼斬り!


グレイの剣の一閃であっさりとやられてしまった。

フェルY世「さすがじゃな、グレイ。帝国ナンバー1の剣の使い手をあっさり負かすとは」
ジャン「へ、陛下!?」
グレイ「陛下、何故このようなところに?」
フェルY世「なに、そなたと話がしたかったのじゃよ。何せ娘の初恋の相手じゃからのう」
ジャン「へ、陛下!?まさかこの男とクローディア様との仲を認めていらっしゃるのではないでしょうね?」
フェルY世「さて、どうかのう?いずれにせよ、そう簡単に娘はやれんぞ。さあ、グレイよ、来るのだ」
グレイ「はい、陛下」

後に取り残されたジャンは呆然として立ったままだった。やがて、頭を振る。

ジャン「皇帝陛下のことだ、きっとクローディア様からグレイを遠ざけて下さるはず。十分な報酬を払えばグレイも割り切って帝国を出ていくだろう」





フェルY世「さて、グレイ」
グレイ「はい、陛下」
フェルY世「娘は…クローディアは皇女の地位を捨ててそなたと共に行きたいと申しておる」
グレイ「…はい。その通りでございます」
フェルY世「全く、生き別れの父親より好きな男を選ぶとは、あやつも若い娘だのう」
グレイ「……………」
フェルY世「娘の気持ちはよくわかった。今度はそなたの気持ちを聞く番だ。クローディアをどう思っておる?」
グレイ「…愛しています。俺――私の全てをかけて。お嬢様の為なら命すら惜しくはありません」
フェルY世「聞くところによると、そなたは非常に冷静な人間だそうだな。今回のことも報酬がもらえることを条件に娘の護衛を引き受けたと聞く。本来なら報酬を受け取って立ち去るのがそなたのいつもの行動ではないのか?」
グレイ「最初は私もそのつもりでした。しかし、ずっと行動を共にするうちに――私はお嬢様に惹かれてしまいました。それまでの私は、人間関係を割り切っていたところがあったのですが、お嬢様と出会って変わったのです」
フェルY世「そなたも若いのう。それで、娘もそなたに恋してしまったというわけか。ふーむ」
グレイ「…お嬢様が帝国の皇女だということは感づいていました。でも、お嬢様は御自分の身分を知られた時、帝国には戻りたくないと仰られました。お嬢様の動揺は尤もですし、私はどのようなことになってもお嬢様の味方をしようと思ったのです。陛下、私はお嬢様を心の底から愛しています。お嬢様を傷つけようとするどんな相手とも戦って見せます。そしてどんなことがあってもお嬢様を守って見せます!」

グレイは確固とした意志の元、そう宣言した。皇帝はそのグレイをじっと見つめる。目と目がかちあった。揺るぎない意志の宿った瞳。

フェルY世「…そなたの気持ちはよくわかった。私もよく考えてみるとしよう。しかし、クローディアは私が晩年にやっと出来た1人娘でな。それなのに生まれてすぐ行方知れず、そんな愛する娘とやっと会えたのじゃ。まだそう簡単にクローディアが私の元を去って行くことなど認められん。年老いた父親を憐れんで、もう少し待ってはくれないかのう?」
グレイ「…もちろんでございます。陛下」
フェルY世「内心焦っておるな。安心するがよい。そなたもクローディアも悪いようにはせぬ。そなた達の仲も認めよう。じゃからもう少しここにいておくれ」
グレイ「陛下がそうおっしゃるのなら」

その後、皇帝はグレイからクローディアとの旅の話を聞き続けた。それにより、グレイのクローディアに対する想いを知ろうというのである。そしてグレイの話しぶりの一言一言から、グレイがクローディアを大切に思っていること、心から愛していることがひしひしと伝わって来る。皇帝はグレイのことを好ましく思っていたが、大事な1人娘をやれるかどうか、まだ決断できずにいた。
グレイの方は内心意外であった。皇帝が自分のような風来坊とクローディアとの仲を認めるとは思わなかったのである。人を身分などではなく、内面で判断する人物なのだろう。そして限りなくお人好しでもあるのだろう。とても皇帝の行動とは思えない。

その日以来、皇帝はグレイにも極めて好意的に接するようになった。どうやら娘婿として気に入られたらしい。しかし、ネビルとジャンがそのようなことを認められるはずもなかった。

ネビル「陛下は…あまりにも人がよすぎる!!」





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