ネビルとジャンは内心焦っていた。

ネビル「こ、このままではいかん!陛下はあのグレイとかいう男をいたく気に入っておられる。クローディア殿下が皇女だということも公になさらない。聞けば2人はかけおちするつもりだという。そんなことはあってはならない!なんとしても殿下には皇位を継いでいただかねばならん。陛下もクローディア殿下もなんとか説得せねば!」
ジャン「クローディア様には私からも説得します!」
ネビル「よし!ジャン、我々で殿下を説得しようぞ!」



まずはネビルはクローディアの元へ行った。

ネビル「クローディア様、ご機嫌麗しゅう」
クローディア「…何かしら?」

どうやらクローディアにはあまり歓迎されていないようだ。何を言われるかわかりきっているのだろう。しかし言わねばなるまい。

ネビル「クローディア様、陛下は公には伏せられているが、あなたは陛下の1人娘、クローディア殿下でございますね?」
クローディア「…あなたは元々知っていたのでしょう?皇女の名前も、バファル皇族の髪の色や目の色も」
ネビル「もちろんでございます。だからあなた様に護衛をつけさせていただいたのでございます。しかしジャンの人選が及ばず、とんだならず者を殿下にお近づけすることになりましたこと、平にお詫び申し上げます」
クローディア「グレイは素敵な、立派な人よ!」
ネビル「一般市民ならそれでようございましょう。しかし殿下とはあまりにも身分が違いすぎます」
クローディア「お父様は私とグレイの仲を認めて下さったわ」

ネビル「…殿下、誠に虞ながら、殿下はこの国の第1皇位継承者でございます。そもそも殿下のお命を守るために森の魔女に保護を依頼したのでございますぞ。陛下には殿下以外にお子はいらっしゃらない。殿下しか皇位を継ぐ者はいないのでございます」
クローディア「…叔母のマチルダ様がいらっしゃるわ…」
ネビル「虞ながら殿下、あの方はあらゆる陰謀策略で陛下を陥れようとしました。そのような者に我が帝国の未来を託せましょうか?」
クローディア「私だって施政者としての教育なんて何も受けてないわ」
ネビル「その点は心配ありませぬ。私共帝国に忠誠を誓う臣下が皆で補佐致します故」
クローディア「でも…民は皆私のことなんて知らないのではなくて?ずっと行方不明だった皇女がいきなり現れて皇位を継ぐと言われても、本当に皆従う気になれるかしら?」
ネビル「大丈夫でございます。何しろ殿下はバファル帝国皇族の特徴を全て受け継いでおられます。亡きお妃さまにそっくりでございます。さあ、殿下、今こそ皇女の名乗りを上げて陛下の後を継ぎ、この国に繁栄をもたらしましょうぞ!」

意気込んでクローディアを説得するネビル。しかしそんな彼にクローディアはきっぱりと言った。

クローディア「ごめんなさい。私もよく考えたのだけれど、やっぱり皇女にはなれないわ。まして女帝だなんて…叔母様にお任せするわ。皇位には昔から民が知っている人物がつくべきよ。それに私は人の多いところは嫌い。宮廷に長くいるのは息がつまりそうなの。私は今までも、これからも自由に生きていきたいわ。だからグレイと一緒に――」
ネビル「あ、あの者は殿下をたぶらかしたのでございますか!」
クローディア「そんなことしてないわ!グレイはただ私の側にいてくれただけよ!私の素性がわかっても、ありのままに接してくれた!あなたのような国の繁栄しか考えない人にはわからないわ!」

クローディアには珍しく激昂すると、彼女は去って行った。





ネビル「――陛下」
フェルY世「ネビルか。用件はわかっておる。クローディアのことであろう」
ネビル「は、いかにも。陛下は皇女殿下をどうなさるおつもりですか」
フェルY世「今、公に皇女の名乗りを上げてもまた暗殺者に狙われるだろう。それに醜い継承者争い。私はそんなことに娘を巻き込みたくない」
ネビル「しかし、お世継ぎはどうなさるのでございますか?このままではマチルダ様に――」
フェルY世「娘を苦しめるくらいなら皇位などマチルダにくれてやるわ。それより娘の幸せが第1じゃ」
ネビル「しかし、虞ながら、マチルダ様のような方が皇位につかれては、今後の我が帝国は…」
フェルY世「クローディアなら安心だというのか?ずっと自然の中で自由に、明るく生きてきた娘。皇族にまとわりつく義務、責務などとは無縁で育ってきたのだぞ」
ネビル「それでもあの方は皇女でございます!」
フェルY世「そうじゃ。たとえマチルダが皇位についてもクローディアは狙われるじゃろう。私の血を引いているのだからな」
ネビル「それでは――」
フェルY世「だから私はグレイに娘を託そうと思う。あやつなら私の大事な1人娘を陰となりひなたとなり守ってくれる。娘を本気で愛してもくれておる」
ネビル「腕が立つとはいえ、あのような一介の風来坊に皇女殿下を渡すわけには参りません!」
フェルY世「ただの風来坊ではない。今となってはサルーインを倒した英雄じゃ」
ネビル「し、しかし、陛下――」
フェルY世「私は皇帝だ。自分の言ったことに責任はもつ。ネビル、いつぞやのモンスター軍襲来の折、私がグレイ達になんと言ったか覚えておるか?」
ネビル「…は」
フェルY世「生きて戻って来い。その時、今までの全ての苦労に報いよう、と」
ネビル「陛下…」
フェルY世「グレイとクローディアは約束通り生きて戻ってきた。今まで我が国の危機を救い、そしてまたサルーインを倒し、世界を救った2人の英雄の全ての苦労に報いようと思う。私は2人の幸せを願う。言っておくが、皇帝である私に二言はないぞ」
ネビル「へ、陛下…!」
フェルY世「もう、よかろう。そろそろあの2人を送り出そうと思う。邪魔するでないぞ」
ネビル「……………」



その後、ジャンもクローディアを説得しにかかったが、見事失敗に終わった。むしろクローディアの不興をかってしまった。

ジャン「ネビル様…」
ネビル「陛下はどうやら本気のようだ。グレイのことを本気で気に入っておる。たとえ身分が妥当でもクローディア殿下にふさわしい婿はいないとまで言い切った」
ジャン「そ、それでは我が国の行く末は…」
ネビル「陛下は2人の仲を認める気だ。それであの2人は相思相愛。これ以上私達が下手に手を出すといかに温厚な陛下でもお怒りになるぞ」
ジャン「ネ、ネビル様!?つまり………あきらめるということですか?」
ネビル「まだあきらめてはおらん!陛下は体力だけはおありだ。老齢になっても未だに壮健であられる。その間に何が起こるとも限らん。殿下の御心が変わるかもしれんし、相手がグレイだというのが気に食わんが、お子ができたら改めてお世継ぎとして殿下共々我が帝国で手厚く保護を――」
ジャン「そ、そうですね!よし!わかりました!それなら俺も心おきなく親友とクローディア様の結婚を祝福できます!」
ネビル「これ!ジャン!いつからグレイはおまえの親友になったのだ?」
ジャン「グレイはわざと素っ気なくしているだけで、俺をかばってくれたかけがえのない親友なんです!俺が過去にあんな失敗をしなければやつだって今頃は俺より出世できていたはずです!サルーインを倒した英雄というだけでも十分ではないですか!」
ネビル「お、おのれ、手のひらを返すように態度を変えおって!」
ジャン「親友の幸せを願うのは当然のことです」
ネビル「もういいわい!私だけでも帝国の繁栄にこの身を尽くすぞー!」

元々人の良いジャンはグレイとクローディアの仲が正式に認められるとわかった途端、気が楽になった。そんなジャンを配下にもつことはネビルの些細な悩みの種でもあったのだが。

そしてグレイとクローディアは新たに旅立つ準備を始める――





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