グレイとクローディアは暗殺者について調べていた。そうしていると、どうやらクローディアを襲う暗殺者だけでなく、メルビル全体に最近変死事件が多いようだった。グレイはクローディアを狙う暗殺者だけを調べようと思ったが、クローディアはこのメルビル全体を覆う黒い影について調べようと言い始めた。自分を狙う暗殺者とも関係があるのならなおさらだと言うのである。しばらく押し問答した結果、グレイとクローディアは変死事件の調査に乗り出した。
1番最近の事件が起きたのは北の道具屋。被害者の娘に話を聞いてみる。気になるのは被害者の男の残した言葉、『地下から黒いものが…』というものだ。しかし、娘は父親を亡くし、さらにそのショックで母親も死んでしまったということで、かなり落ち込んでいた。仕方なくグレイは娘を励ます。

グレイ「元気を出せ!そういうひどいことをした奴は俺が必ず捕まえてみせる。お父さんを恨んでいた人はいるかな?」
娘「そんな!とてもいいお父さんだった……そうだ!南の道具屋だわ!あいつ、自分の商売がうまくいかないのをいつもお父さんのせいにしてた。きっとあいつよ!あいつを、あいつを……」
グレイ「そんな風に思いこんじゃダメだ。俺に任せて」

グレイが慰めると、娘は真っ赤になった。そして憧れるようにグレイを見る。美男子であるグレイに優しくされ、娘はうっとりとした視線をグレイに向けた。そしてグレイは娘を宥め続ける。その光景を見て、何故だかクローディアは不愉快になってきた。自分でも何故このような気分になるのかわからない。娘は両親を失っているのだ。慰めの声を掛けて何が悪い?しかし何だろう?この釈然としない苛立ちは…

グレイ「クローディア、どうした?」
クローディア「い、いえ、何でもないの。それでは南の道具屋に話を聞きに行きましょう」

南の道具屋へ行くと、黒いローブを着た人間が恨みのある相手がいれば呪い殺してやるといって金を要求しにきたという情報を得た。そして彼らは下水にでも隠れているのではないか、と。どうやらメルビル下水道は悪人が身を潜めるには絶好の場所らしい。
他にも調査した結果、行方不明の宿屋の娘がいるとのことで、グレイ達は再び下水道に乗り込んだ。
暗殺者達は下水道のどこかにあるサルーインの秘密神殿というところから現れているようだという情報である。他の黒いローブを着た人間も同じところから出没している可能性が高い。邪教集団である暗殺者集団。

内部を探索し、グレイ達は秘密神殿を発見した。中では邪教神官が娘を使って生贄の儀式を行おうとしていた、きっと行方不明になった宿屋の娘だろう。
そして、サルーインの神官達を倒しグレイ達はサルーインの地下神殿を壊滅させた。最近の事件は全て奴らの仕業だったらしい。晴れてクローディアを狙う暗殺者もいなくなった。が、依頼主が誰かは不明のままだった。それに対し、クローディアは不服そうだったが、もう自分の命を狙う者はいないのだから、これでいいのだと自分に言い聞かせた。

そして――
ここは皇帝の私室。フェルY世はバファル帝国法務大臣であり親衛隊長でもあるネビルを呼び寄せていた。

フェルY世「この度のサルーイン秘密神殿壊滅、聞けばあのクローディアという娘が関わっていたそうじゃな」
ネビル「…は。彼女もこのバファルの人間、自国の平和が脅かされていると知って放ってはおけなかったのでしょう」
フェルY世「クローディア…か。私の娘と同じ名じゃな」
ネビル「陛下…」
フェルY世「ネビル、あの娘にはそれとなく目をかけておいてくれ。命令じゃぞ」
ネビル「御意」

クローディアが危険を冒してまでメルビルの平和に尽くしたのは、自分がバファル皇女だと知ってのことか、それとも単なる偶然か。ネビルは思いを巡らせた。いずれにしろクローディアにはバファル皇位を継いでもらわなければならない。徐々に、徐々に、この国に深く関わらせていこう。そう思ったネビルは1つ行動を起こした。




暗殺者がいなくなったことで、クローディアはメルビルの町を大っぴらに歩き出した。とはいっても元々人の多い所は苦手な彼女のことだ、好むのは全て自然豊かな静かな場所ばかりである。そういった場所で、クローディアはブラウ、シルベンを連れ、傍らでグレイが見守る中、小鳥達と戯れていた。そんな時の彼女はまるで森の精のようである。優しく、美しく、純粋で天真爛漫な乙女。グレイは暫しその光景に見惚れていた。そしてクローディアに徐々に惹かれていく自分に気づいていた。グレイの心の中は相変わらずざわついたままだった。どれだけ好ましい娘だと思っても、クローディアはバファルの皇女なのだ。しかも皇帝の娘である。決して結ばれるはずのない身分――そこまで考えて、グレイは一体何を考えているのだと自分の頭を殴り付けた。

そしてその日、パブで夕食をとっていると、貼り紙を見つけた。

『クローディアへ  連絡請う  ネビル』

クローディア「ネビルさん!?私を呼んでいる。何かしら?」
グレイ「……行くのか?」
クローディア「もちろんよ」
グレイ「……………」

グレイはネビルの用件とはクローディアの身分にまつわることなのではないかと内心不安になった。と同時に、その不安の正体は一体なんだろうと思った。元々金で雇われて引き受けた護衛である。それが終わればまた元の風来坊の生活に戻る。ただそれだけであるはずなのに。クローディアと離ればなれになると思うと何故かしら焦燥にかられる。その夜、グレイはあまり眠れなかった。
そのネビルの用件とは――

ジャンが行方不明になったそうなのだ。そしてネビルの用件とはジャンの調査依頼であった。
グレイは思った。この男――ネビルはクローディアの正体を知っているのだろうか?否、知らぬはずはあるまい。だとしたら何故このような依頼をしてくるのだろう?
聞けば、ジャンが行方不明になった時携わっていた任務とは、皇帝の妹婿に当たるローバーン公の身辺調査である。何かとよからぬ噂が多いあのローバーン公に、何故クローディアを関わらせるようなことをするのだろう?グレイはクローディアをバファルの勢力争いに巻き込むようなことはしたくなかった。決して。クローディアには今のままでいて欲しい。だからこそネビルのことが内心許せなかった。
しかしそうとは全く気づかぬクローディアである。

クローディア「ジャンが心配だわ。さっそく行きましょう!」
グレイ(……………何で俺達がジャンのドジの後始末をしなければならないんだ…!!)

元々ジャンには抜けているところがある。今回もそうに決まっている。グレイはそう思った。すっかり忘れていたが、以前同じ部隊にいた頃をようやく思い出し、グレイはため息をついた。
疑うことを知らず純粋にジャンの心配をするクローディアと共に、グレイはローバーンへ向かった。ネビルの話の通り、モニカという連絡員の元へ行き、合言葉を言うと、ジャンについての情報を得られた。

クローディア「早くジャンを助けないと…もし手遅れになったらジャンは…」
グレイ「落ち着け。ローバーン地下への入口は厳重に守られている。警備が手薄になった隙を狙うんだ」
モニカ「そうよ、クローディアさん。ジャンを心配するお気持ちはとても嬉しいけれど、救出作戦を確実に成功させるには機会を窺わないと」

そうしてグレイ達がじっと機会を待っていると、モニカの小屋の戸がノックされた。そこにはまだ年端も行かぬ少年がいた。

少年「ごめんください。モニカさん、僕です――うわっ!?熊と狼が!!」
シルベン「ガルルルル…」
クローディア「ご、ごめんなさい!ブラウ、シルベン、この人は敵じゃないわ!大人しくして!」
ブラウ・シルベン「キュ〜ン…」
少年「び、びっくりした……」
モニカ「あら、アルベルトじゃない?」
アルベルト「モニカさん、その節はどうもお世話になりました」
モニカ「あら、いいのよ、そんなの。どう、元気?」
アルベルト「はい!おかげ様で」
モニカ「本当はもっとゆっくり話していられたらいいのだけれど……まずいところに来たわね……」
アルベルト「どうかしたんですか?」

モニカはジャン救出作戦についてアルベルトという少年に話していた。

アルベルト「僕も救出作戦に参加します!」
モニカ「そうね。人数が多い方がいいわね!紹介するわ。こちらがクローディアさん。そしてこちらがグレイよ」
アルベルト「僕はローザリア王国イスマス城主ルドルフの息子アルベルトです」
グレイ「よろしく」
クローディア「…よろしく…」
アルベルト「僕は以前ローバーンの地下に捕まって連れていかれたことがあるんです。その時、牢屋の壁に隠し通路があって脱出することができました。今回も僕が地下に案内できると思います」
クローディア「良かったわ!これでジャンを助けられるわね!」
グレイ「隠し通路の壁か…もし今でもあるのなら、いくらジャンでも気がつかないはずはない。罠でなければいいが…」
アルベルト「とにかく行きましょう!」

グレイとクローディア、ブラウとシルベン、そして新たに加わったアルベルトの5人で、慎重にローバーン地下へ潜入した。アルベルトは覚えている範囲内で中を案内する。そしてグレイ達はジャンを発見した。

クローディア「ジャン!助けに来たわ!この壁は通れるのよ!さあ一緒に――」
ジャン「来るな!罠だー!」

グレイが懸念した通り罠だった。5人とジャンは落とし穴でさらに下へ落とされた。

グレイ「やはり罠だったか……クローディア、怪我は?」
クローディア「大丈夫よ」
ジャン「クローディアさん……とんだことに巻き込んでしまってどうもすみません……奴ら、この洞窟には出口がないって言ってましたがきっとみつかりますよ!奴らだってここに入ったことは無いんだ!さあ、行きましょう」

5人とジャンはローバーン地下の洞窟を彷徨った。時にはブラウが力任せに体当たりして道を開いた時もあった。散々彷徨った挙句、なんとか脱出に成功する。

ジャン「やっと出られましたね。私はメルビルへ帰りますが皆さんは帝国を離れて少しほとぼりをさました方がいいと思います」
クローディア「ちょっと待って。一体何の為にローバーン公を?」
ジャン「ローバーン公の奥方様は皇帝陛下の妹マチルダ様です。陛下にはお子様がいらっしゃら……ないので陛下にもしものことがあればマチルダ様が女帝になる……そういうことです。それではまた会いましょう」
グレイ「……………」

モニカの小屋に戻ると、ジャン救出に関して礼を言われこれからどうするかの話し合いが始まった。

アルベルト「実は、仲間をブルエーレに待たせてあるんです。僕はどうしてもモニカさんに一言お礼が言いたくて、待ってもらってたんです。皆でブルエーレからローザリアへ渡りましょう!そこで少しほとぼりをさますんです」
モニカ「アルベルトの提案通りにした方がいいわね。それじゃ、頼んだわよ」
アルベルト「はい!」

ブルエーレに行くと、金髪碧眼の美しい、だが非常に背の高い女戦士がいた。アルベルトがその女戦士に親しげに声を掛けるのを見て、グレイもクローディアも驚きを隠せなかった。

グレイ「これはまた…珍しい体格の女戦士だな…仲間と言うのは……彼女……か?」
クローディア「お、女の人なのにすごく背が高くてたくましいわ」

一方、女戦士の方もブラウとシルベンを連れたグレイ達を見て驚いていた。アルベルトがなんとか中に入り、互いを紹介する。

シフ「バルハラントから来たシフっていうんだ、よろしくな」
グレイ「グレイ、と呼んでくれ」
シフ「グレイか。あんたなかなか骨のある戦士だねー。あんたなら信頼して力を貸せそうだよ」
グレイ「そうか。よろしくな」
シフ「それであんたがクローディアかい?熊と狼を連れてるなんざ、変わってるねー」
クローディア「…よろしく…」
シフ「女同士よろしくな!」

シフはさばさばとした性格で、グレイもクローディアもしばらくしたらすっかり打ち解けていた。シフは動物の扱いにも慣れているようで、ブラウとシルベンも撫でたりしていた。

そしてグレイ、クローディア、ブラウ、シルベン、アルベルト、シフの6人はブルエーレからオービルへと渡った。

2匹を連れた2人きりの旅から、グレイとクローディアの新たな出会いが始まる…





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