クローディアは船に乗るのは初めてだった。暑い日差しが照りつく中、甲板に出ては海鳥と仲良く戯れる彼女の姿は森とはまた違って美しい。クローディアは初めての海にはしゃいでいた。甲板から見える海からは飛び魚が出たり、時にはイルカも出る。クローディアにとって、全てが新鮮だった。ブラウとシルベンはそんなクローディアの側で大人しくしていた。よくこの2匹も一緒に船に乗せられたものだと思うが、大人しいから大丈夫だとクローディアが船長に必死に訴えたのと、2匹の気性についてはもう十分知り尽くしたグレイ、動物好きなシフの強い説得の下、なんとか認められたのである。

グレイは航海の間、ずっとクローディアを見るとはなしに見ていた。クローディアは動物に対しては非常に優しい目で接する。人間と接している時では決して見ることのできない、慈愛の眼。その優しいクローディアの目を見ていると、グレイはつい吸い込まれそうになるのだ。どうしたらあの目を自分に向けさせることができるのだろうか。クローディアにとって最も親しみを感じるのは動物達であり、しょせん人間である自分は彼女の本当の笑顔を手に入れることはできないのだろうか。

グレイ「クローディア…」
シフ「おっと、随分あのお嬢さんにご執心だねえ」
グレイ「…シフか」
シフ「ま、あんたの気持もわからなくはないよ。可愛いし優しいし、いい子じゃないかい。大切にしておやりよ」
グレイ「少なくとも共にいる間はな。旅が終わったらどうなるかわからない」
シフ「ふーん…あの子、どこかいいとこのお嬢様かなにかかい?」
グレイ「すまないな、答えることはできない」
シフ「そうかい。ま、恋愛とは無縁の私だからこんなことしか言えないけど、がんばりな!」

シフは力強くグレイの肩をぽんと叩くとその場を去った。


その日の船の中での晩餐にて――

グレイ「アルベルト。おまえはローザリアの貴族だと言っていたな」
アルベルト「はい。僕はイスマス城主の息子です」
グレイ「…イスマスは陥落したと聞いたが」
アルベルト「…はい。モンスターの大群に城を奪われて、それからあちこちを旅してきたんです。シフともその時出会って…一度ローザリアへ帰り、ナイトハルト殿下にお目にかかって、父と母の墓にも行ってきました。それで、以前お世話になったモニカさんへお礼を言いに行ったところをあなた方と出会ったというわけなんです」
グレイ「そうか。おまえも苦労しているな」
シフ「私ほどじゃないけどなかなか腕が立つよ、この坊やは」
グレイ「では俺とシフとブラウの次くらいだな」
アルベルト「あの………それで僕は中列なんですか…」

急にアルベルトは6人で決めた隊列の話をした。どうやら前列3人はグレイ、ブラウ、シフと決められ、自分が中列だというのに不満があるらしい。

シフ「いいじゃないかい。中列なら槍だって使えるし」
アルベルト「僕って…そんなに…強く…ない…?」
グレイ「熊のブラウにかなうと思うな。それにおまえはまだ若い。剣の腕を上げ、成長したら前列にしてやろう」
アルベルト「ほ、本当ですか?」

アルベルトは目を輝かせた。クローディアとはまた別に、まだあどけなさが残る純粋な少年である。

シフ「それで?あんた達はどうして旅をしているんだい?言っちゃ悪いけど変わった顔ぶれだからさ」
クローディア「私、つい最近までずっと森で暮らしていたの。だけど私を育ててくれたオウルからそろそろ外の世界を見てこいって言われて、1人じゃ心細いから友達のブラウとシルベンを連れて旅を始めたの。グレイは私のガイドよ」
シフ・アルベルト「ガイド?護衛じゃなくて?」
クローディア「ガイドよ」
グレイ「そういうことにしておいてくれ」
シフ「ま、そういうことなら深くは聞かないさ。船旅は順調だ。そのうちオービルに着くよ」

オービルに着くと、6人はクリスタルシティを目指した。ローザリアの首都クリスタルシティはメルビル以上に活気に溢れた町だった。アルベルトに町を案内された後、グレイ達は宿をとって、それぞれ別行動をとっていた。もちろんグレイ、クローディア、ブラウ、シルベンは一緒だったが。

グレイ達はパブでくつろいでいた。グレイは剣の手入れをし、クローディアはブラウとシルベンを撫でている。そのパブの一方では――

ジャミル「なあ、こういっちゃなんだが、俺達のメンバーで旅をするなんてちょっと心もとないぜ。誰か仲間を探そう」
アイシャ「ごめんね。足手まといで…」
ジャミル「いいんだよ、そんなの」
バーバラ「そうそう。こいつが男の癖に頼りないからいけないんだよ」
ジャミル「なんだよ!俺は盗賊なんだ!すばしっこさが取り柄なんだよ!――っ、とにかく、誰か頼れそうな戦士はいねえかな〜」

そう言って見渡すと、ジャミルとバーバラの目に、グレイが目に入った。

バーバラ「かっこいい男!是非仲間にせねば!」
ジャミル「すかした奴だなー。やだやだ」
バーバラ「なんですって!あんたと違って腕の立つ戦士じゃないかい!おまけにいい男!」
ジャミル「ん?隣にいるのは…おおー美人じゃん!是非仲間にせねば!」
バーバラ「気どった女だね。ほっとこう」
ジャミル「何を!」
バーバラ「なんだよ?たいして強くもないくせにこれ以上女増やしてハーレム状態になろうってのかい?虫が良すぎるよ」

ジャミルとバーバラの間で火花が散った。そんな2人をよそにアイシャはグレイとクローディアの方へ行った。

アイシャ「あ、あの…」
クローディア「どうしたの?」
アイシャ「私、アイシャといいます。一緒に旅をする仲間を探しているの。他に2人いるけど、もっと強い人達を探してて…良かったら一緒に行きませんか?」
グレイ「悪いがもうこれ以上は仲間を増やせない。残りの2人は別行動している。6人もいれば十分だ」
アイシャ「そ、そうですか…」

アイシャはしゅんとして下がろうとしたが、そんなアイシャの手をシルベンが舐めた。

アイシャ「わあ、狼さん!それにそっちは熊さん?」

動物好きらしいアイシャはたちまちブラウとシルベンと一緒に遊びだした。

グレイ「……………」
クローディア「あら、いいじゃない。とても可愛い子だわ」
グレイ「…まあ、ここにいる間だけなら構わないが…」
クローディア「そういえば、この子の仲間ってどんな人達なのかしら?」
ジャミル「よく聞いてくれたぜベイビー」

その時ジャミルが髪をかきあげながらクローディアに近づいてきた。

ジャミル「おいらはジャミルってんだ。よろしくな。エスタミルに住んでたんだが、ちょっとばかしいづらくなってね。ほとぼりさましに旅をしてるってわけさ!」
クローディア「……………」
ジャミル「……………」
クローディア「……………」
ジャミル「……………ガーン!会話が弾まないー!そっそんなあ〜……Oh my god!!!!!
バーバラ「何やってんのよ!バカ!……ねえ、そこのカッコいいお兄さん、私はバーバラ。良かったら私達と一緒に旅しない?」
グレイ「俺の仲間になれるほど君は強いのか?」
ジャミル「嫌味な奴だな!もういいよ」
バーバラ「仲間になればわかるって!」
アイシャ「ちょ、ちょっとジャミル!バーバラ!この人達はもう他に仲間がいてこれ以上増やせないって」
ジャミル・バーバラ「そっそんなあ〜!」
ジャミル「せっかくの美人があ〜!」
バーバラ「せっかくのいい男があ〜!」
クローディア「…とっても賑やかなお仲間ね、アイシャ」
アイシャ「ご、ごめんなさい…!」

ジャミル達はそう簡単にはあきらめなかった。一度に行動するのは6人が限度だというのなら、2組に分かれて行動すればいいというのである。グレイは正直困った。元々クローディアの護衛を引き受けた以上、あまり目立つ行動は避けたい。その上、今はローバーン公を敵に回している。ジャミルも何やら訳ありのようだが、あまり厄介なことには巻き込まれたくなかった。
頑なに拒み続けるグレイに対し、元々優しいクローディアは、ジャミル達に押され気味だった。アイシャのような子をほうっておけないという気持ちもあった。

クローディア「…ねえ、グレイ。アルベルト達にも意見を聞いてみたらどうかしら?」

アルベルトを見つけて合流すると、彼はジャミル達を見て目を輝かせた。

グレイ「どうした?アルベルト」
アルベルト「ぼ、僕よりか弱い女性が…!!彼らと一緒なら僕も前列で戦えますね!」
グレイ「……………」

グレイは内心頭を抱えた。シフのような強い女戦士と共に行動していれば、クローディアやアイシャのようなか弱い女性に憧れるもの無理はないだろう。挙句、その女戦士の方が自分より腕が立つとなれば男かたなしである。後、頼みの綱はシフだけである。

アルベルト「皆さん、是非一緒に行きましょう!」
クローディア「アルベルト、シフは?」
アルベルトもうすぐ帰ってきますよ。ここで落ち合う約束をしたから大丈夫です!」
ジャミル「なあ、アルベルト。そのシフって人は男?女?」
アルベルト「お、女の人…です…」
ジャミル「美人?」
アルベルト「そ、それはとっても…」
ジャミル「本当か?それで?セクシーか?」
アルベルト「え…えっ?」
ジャミル「胸デカイか?」
アルベルト「なっ!」

アルベルトは真っ赤になった。

ジャミル「あ〜あ〜貴族のお坊ちゃんは純情だねえ。…で?どうなんだよ?」
アルベルト「ど、どうって………うん…」
ジャミル「よっしゃ〜!美人でセクシーダイナマイトなお姉様Getーーーー!!!!!」

その時、シフがパブに入ってきた。既に8人の集団になっているグレイ達のところに迷わず歩いてくる。

ジャミル「へ?な、なにあのすげー大女」
アルベルト「……あの人がシフだよ」
ジャミル「は?」
グレイ「……………」
ジャミル「お、おまえ嘘ついたなーっ!」
バーバラ「あら?確かに美人よ、あの人。おまけに胸も大きいし」
ジャミル「うわーっ!嘘吐きだ嘘吐きだ!俺が想像してたのはもっと――」
シフ「何か言ったかい?坊や?」
ジャミル「わっ!」
シフ「私の知らない間に随分大勢になったもんだねー。まあいいさ、旅は道連れっていうしね!」
グレイ「シ、シフ!」

グレイは絶望的な声を上げた。

かくして総勢9人のメンバーで旅をすることになったのだった。





次へ
前へ

二次創作TOPへ戻る