総勢9人で旅をすることになったグレイ達。細かい打ち合わせをした後、宿に帰って眠る。
その翌朝――

「……クローディア……………クローディア……………クローディア!!」
グレイ「今の声は………」
クローディア「オウル!!」
オウル「…帰って来るのじゃ。帰って来るのじゃ……時間が……ない……クローディア……」
クローディア「グレイごめんなさい。私は迷いの森に帰らなければならないわ。オウルが呼んでいるの」
グレイ「しかし俺達はローバーン公を敵に回した。せめてもう少しここにいてほとぼりをさましてからの方がいい」
クローディア「オウルは時間がないと言っていたわ。きっと早く帰らないと手遅れになるのよ。お願いグレイ。わかって!」
グレイ「わかった。それなら俺も一緒に行く」
クローディア「ありがとう。でも私の為に……」
グレイ「…仲間だろう?俺達」
クローディア「…グレイ…」

グレイとクローディアはジャミル達に簡単に事情を話すと、ブラウとシルベンを連れて一足先にバファルへ向かった。バファルに着いてからはなるべく人目を避け、目立たない所を進んだ。そしてクローディアの案内で迷いの森に辿り着いた。

クローディア「オウル!」
オウル「やっと帰ってきおったか、クローディア。わしはもう死ぬ。おまえの役に立つかどうかは知らんが最後に1つ昔話をしてやろう」

オウルは昔話という形でクローディアの出生の秘密を話し始めた。クローディアは国の後継ぎであるが故に命を狙われていた。国の妃亡き後、途方にくれた侍女は森の魔女オウルを呼び、クローディアを守るよう頼んだ。
グレイはその話を黙って聞いていた。あらかた予想はついていたのである。ただ、クローディアを森で育てることに決めたのはオウルの独断だというのは予想外だった。おかげで今日までクローディアの存在が全く明らかにされていなかったわけである。クローディアは完全に外界から遮断された安全な世界で育ったのだ。

クローディア「私が帝国の皇女……?」

クローディアは今しがた聞いた話がまるで信じられないようであった。しばらく呆然としていたが、オウルの急変に我に返った。

オウル「この先何かあったら、あの大きな木に聞け!……ゴホッ……ゴホッ!……しゃべりすぎたわ……」

その言葉を最後にオウルは息を引き取った。

クローディア「……オウル……」
グレイ「……クローディア……」
クローディア「……ごめんなさい。しばらく私に時間をちょうだい」

グレイとクローディアはオウルを埋葬した。ブラウとシルベンは悲しそうに鳴いている。
クローディアはしばらく黙り込んでいた。いきなり自分が帝国の皇女であり、後継ぎだと言われたのである。動揺するのも無理は無い。

クローディア(私が…帝国の…皇女…後継ぎ…
        私が生まれた時から持っていたこの指輪は…皇女の印…
        私の…お母様は…亡くなったのね…
        私が…帝国の後継ぎであるのならば…私の…お父様は…あの皇帝陛下…いつかお会いした…あの方…)

クローディアは今までに起こったことを、落ち着いて、順番に回想し始めた。初めてジャンに会った時、クローディアの名を聞いてジャンは驚いた顔をした。そしてジャンに名前を教えたことについてオウルは厄介なことにならなければよいが、と言ったのである。バファル帝国の後継ぎである皇女の名はクローディアだということは、国の幹部の人間なら皆知っているのではないか。ではあのネビルという男も?そしてメルビルに行った翌日には暗殺者に狙われ始めた。ずっと皇女不在の間止まっていた時間が動き出したかのように、暗殺者達も動き出した。クローディアは帝国の後継ぎ故に常に狙われる立場なのだろう。今となってはわからなかったことの全てに納得がいく。ひとつずつ、絡まった糸がほぐれていくように。

クローディア(でも、それなら………落ち着いて、落ち着くのよ、私。順番に、あったことを思い出して、それから整理していきましょう)

それでは、ゴールドマイン襲撃事件の後、クローディアは初めて実父に会ったということになる。バファル皇帝フェルY世。彼は知っていたのだろうか。少なくとも、クローディアを呼びとめ、名を尋ねた。彼は非常に優しい目でクローディアを見た。彼は知っていたのだろうか。
しかし、その後何事もなく終わったということは、やはり自分の娘とは気づいていないのではないだろうか。気づいていたのならもっと事が公になるはずである。
そしてジャン救出作戦。あの時ジャンが最後に残した言葉は…

ジャン「陛下にはお子様がいらっしゃら……ないので陛下にもしものことがあればマチルダ様が女帝になる」

あの時一瞬口ごもったジャン。やはりクローディアのことを知っていたのではないか。そして今1番クローディアの存在が邪魔なのは…
皇帝の妹マチルダ。クローディアの叔母に当たる人物。そしてローバーン公は妻のマチルダを皇位に継がせようとしている…
まさに骨肉の争いである。

クローディア「…なんてこと…」
グレイ「クローディア…大丈夫か?」
クローディア「グレイ!あなたは知っていたの?皇女の名前がクローディアだということを?」
グレイ「いや…だが、その栗色の髪とヘイゼルの瞳はバファル皇族の特徴だ」
クローディア「なんですって?それじゃあみんな私が皇女だってことを知っていたのね!」
グレイ「…皇帝陛下がどこまで気づいているかはわからない。本当に娘だと確信しているのなら放っておきはしないだろう」
クローディア「…私が…皇女だということが明らかになったら…マチルダ様と権力争いになるから?それで私を…?」
グレイ「本当のところはわからない。だがネビルもジャンも、いつかは君を皇女として帝国に迎えるつもりではないかと思う」
クローディア「イヤよ!そんなの!」

クローディアは思わずグレイに抱きついた。

クローディア「私はずっと森で静かに暮らしていたのよ。オウルに外の世界を見てこいって言われたけれど…でも、それはそんな意味じゃないと思うわ。オウルは厄介なことになることを心配してくれていたもの。あの時の私には意味がわからなかったけれど。それに、私、女帝なんて無理よ!人の多いところは苦手だわ。たくさん仲間ができたけれど、でも、やっぱり人混みは苦手。それなのに、知らない人が多い宮廷へなんて行きたくないわ!」

そんなクローディアをグレイは優しく抱きしめ、頭を撫でた。

グレイ「クローディア。まだ考える時間はある。君が本当はどうしたいのか、よく考えるんだ。皇女に戻るということは父親の側に行くということにもなるんだぞ」
クローディア「…!!」
グレイ「最終的には君のしたいようにすればいい。もし君が皇位を望まないのなら、それでもネビルやジャン達が君を女帝にしようとするのなら、俺にも考えがある」
クローディア「グレイ?」
グレイ「俺は君の味方だ。君を傷つけようとするどんな相手とも戦って見せる!そしてどんなことがあっても君の側にいる。君を――守って見せる!」

グレイは、今度は力強く、しっかりとクローディアを抱きしめた。

クローディア「…グレイ…」

クローディアもグレイの背中に腕を回し、2人はしっかりと抱き合った。




――翌朝。

クローディア「私なら大丈夫よ、グレイ……さ、行きましょう」

しかし、森を出ようとしたところでブラウとシルベンがクローディアの元を離れた。悲しそうな目をして。

クローディア「シルベン!ブラウ!!……そう……私達お別れなのね……もう私はこの森にいてはいけないのね」
グレイ「クローディア…大丈夫か?」
クローディア「ええ…お友達と別れるのは悲しいけれど、でも外の世界で新しい仲間をいっぱい見つけたもの。もちろんあなたもその1人。……シルベン!ブラウ!!……森のみんな………今までありがとう……さようなら!」

ブラウとシルベンはその瞳に悲しみを湛えていた。そして森の動物達も入口に集まってクローディアを見送ろうとする。クローディアは涙を流しながら動物達に別れを告げ、グレイと共に森から出た。

新たな旅立ち。自身の未来に不安を感じながらも、グレイの存在に励まされ、クローディアは外の世界へ行く。





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