ここはロアーヌ。ミカエルはモニカのことを気にかけつつも、施政に勤しんでいた。産業政策、戦術研究の他に武器開発も行う。そんな中、側近がやってきた。

「殿、ロアーヌ北方の森林の野盗が数を増やしています。このままではロアーヌにも害がおよびます」

ミカエルはこの森林の野盗を戦って追い払うことにした。ロアーヌの平和はミカエルの手にかかっている。民が安心して暮らせるような国にするのは領主の務めだ。
ミカエルは出陣の準備をした。
敵は森を利用した戦いが得意である。野盗の数もかなり多い。ミカエルは慎重に進軍した。最初の戦いで敵を退却させ、部隊を更に森の奥へと進める。二戦目では左右からさわさわと物音がする。どうやら伏兵がいるようだ。

「疾風陣!」

「速攻前進!」

ミカエルは速攻で敵陣に突っ込み、一気に攻撃をしかけ、敵を退却させた。部隊を更に森の奥へと進める。三戦目では敵はどのように出てくるだろうか。連戦でこちらの兵力は減ってきている。敵の作戦を封じて一気に勝負を決めたい。

「情報操作L1!」

敵の兵士達は情報に踊らされた。その間にミカエルは突撃を仕掛け、敵の兵力を減らす。情報操作の効果が切れた時には既に勝負はついていた。
ミカエルは森の野盗三連戦を見事勝ち抜き、野盗を追い払った。ロアーヌの国威は上がり、ミカエルの名君としての評判は更に広まった。



ユリアンは朝早く目を覚ました。昨夜はツヴァイクからキドラントへ向かう途中、日が暮れたので野宿することになった。初めての野宿にモニカは戸惑うことばかりだったようだが、ユリアンはしっかりとフォローした。今はまだ早朝、モニカはタルトと一緒に抱き合って寝ている。ここは北方なので空気は冷え込んでいた。
ユリアンは立ち上がると朝日を見た。ユリアンは朝の光が好きである。一日が始まったという気分になる。今までシノンの開拓民であった彼は朝の光を浴びて一日が始まり、開拓民としての仕事をする。そして終わった後の食事を楽しむ、そんな毎日を送っていた。モニカと共に旅をすることになった今でも朝の光を見るのは習慣になっていた。ユリアンがしばらく朝日を眺めていると、モニカも起きてきた。

「ユリアン、おはようございます。早いですね」
「おはようございます、モニカ。見て下さい、綺麗な朝日ですよ」

モニカはユリアンと一緒に朝日を見た。こんな風に夜明けを迎えるのは初めてである。

「あの、ユリアン」
「何ですか?」
「ごめんなさい。私のわがままでこんなところまで来てしまって…」
「いいんですよ、モニカ。俺はモニカに幸せになって欲しいんです。これからずっとそばにいます。そしてあなたをお守りします」
「ユリアン…」

モニカはユリアンをじっと見つめた。正義感が強く、純朴な彼。政略結婚から逃げるという無茶にも付き合ってくれた。外の生活では不慣れなことも多いモニカに優しく接してくれる。ユリアンからは自分を暖かく包み込んでくれるような優しさと力強さを感じた。

「朝からお熱いですな、お二人共」
「ほ~んとだよ、全く」

仲間の詩人とタルトの声で二人は慌てて居住まいを正した。真っ赤な顔をしながら朝食の用意をする。あまり悠長にはしていられない。ここはツヴァイクから近い。ロアーヌからもツヴァイクからも離れた場所に行かなければ。旅をしながらどこかモニカが安心して暮らせるような場所を探すのが当面の目的だった。
朝食を食べながらタルトはこの間から思っていた疑問を口にした。

「ねえ、ユリアンとモニカって何で敬語使ってるの?恋人同士じゃないの?」
「タルト、このお二人は元お姫様とその従者なんですよ」
「へ~」

詩人が代わりに答える。タルトの言葉によりユリアンとモニカは動揺した。確かに敬語は不自然かもしれない。それに恋人じゃないのかと聞かれても、まだはっきりとお互いの気持ちを確認していない。

「ユリアン、私はもう候女ではないのですから、普通の言葉遣いでいいのですよ」
「モニカこそ、俺に敬語なんて使わなくてもいいんですよ」

その後、二人はたどたどしく普通の言葉遣いで話しかけるようになった。



その後、ユリアン、モニカ、詩人、タルトの四人はキドラントの町へやってきた。町の探索中にニーナという女性に出会う。

「あの…旅の方ですね。ポールという人に会いませんでしたか?」
「いや……」
「そうですか、ご存じありませんか……あの人、勇敢な冒険者になるんだと言って町を出て行ったんです。今頃どうしているんでしょう」

町の人々の話を聞いたところ、町のそばに恐ろしい怪物が住み着いたらしい。その怪物には生贄を捧げなければならないそうだ。町の人々は誰か怪物を退治してくれないかと願っている。いくら町を守る為とはいえ、このままでは罪もない子供まで生贄に差し出さなければならないようになる。町人達は困っていた。
町長の家を訪ねると怪物退治を依頼される。正義感の強いユリアンは快く引き受けた。困った人は放っておけない。モニカももちろん異論はない。町長の案内でユリアン達は生贄の穴へ向かった。しかし中に入った途端、町長は入口を岩で塞いでしまった。最初からユリアン達を生贄にするつもりだったのである。ユリアン達は必死に岩を動かそうとするが、びくともしない。仕方なしに生贄の穴の奥に進んでみる。

最深部にはねずみの群れがいた。無数のねずみが襲いかかってくる。このままでは本当にねずみに食べられてしまう。何とかしてこの洞窟から出ようと入口に戻ると女性の声がした。助けてくれたその女性はキドラントで会ったニーナであった。

「私の大好きな人は冒険者になるんだと言って旅に出たんです。彼のことを考えると、いくら町の為でも冒険者の方達を犠牲にするなんて私には……」
「君に思われてる男は幸せだよ」
「きっと素敵な方なんでしょうね。その方のお名前は?」
「ポールというんです」
「もし、旅先でポールに出会ったら伝えるよ、ニーナが待ってるって」

ユリアンとモニカ、詩人とタルトはそれぞれニーナにお礼を言い、そのまま別れてキドラントへ帰った。宿屋で一旦休む一行。翌日、文句の一つでも言おうと町長の元へ行ったユリアン達だが、今度はニーナを生贄にしたというのだ。ユリアンもモニカもそれを聞いて真っ青になる。あのねずみの大群に襲われたらひとたまりもない。今すぐにでも助けに行かなければ。その時、詩人が止めに入った。

「お二人共お待ちなさい。落ち着いて。あのねずみの怪物、普通に戦ったのでは勝ち目はありませんよ。作戦を考えないと。ところであのねずみ、もしやツヴァイクで聞いた教授のねずみなのでは?」

ユリアン達がツヴァイクで情報収集をしていた時、変わり者と評判の教授がたまたま酒場に来ていた。

『実はね、私のペットがまた逃げ出しちゃって。アルジャーノンっていうねずみよ。でもそれはペットじゃなくてツヴァイク公から頼まれて作った天才ネズミなの。あいつは性格悪くて大っ嫌いだから、どっかで野たれ死にしてくれると助かるわ~』

「あの教授が話していたアルジャーノンというねずみが生贄の穴のねずみの怪物だと?」
「その可能性は考えられます。一度あの教授を訪ねてみましょう。普段はツヴァイクの西の森に住んでいるそうです」

詩人の情報を元にユリアン達は西の森に向かった。森の奥に館があり、中にはあの変わり者の教授が。今までのことを話すと、ねずみの特徴から、生贄の穴の怪物はやはり教授のペットのアルジャーノンだということがわかった。

「まあ、それはそれはひどい目にあわされたでしょう」
「退治する方法はないのか?」
「これを使うといいわ」
「…ねこいらず…?こんなものが役に立つのか?」
「あ~ら当然でしょう。相手はねずみよ。この天才の言うことだから間違いないわよ~」

半信半疑でねこいらずを受け取ると、ユリアン達は再び生贄の穴に向かった。ニーナは無事だろうか。急がなければ。
アルジャーノンの元へ行くとニーナの姿は見当たらない。ねずみ達は何かかじっているようだが…想像したくない出来事が起きているのかもしれない。ユリアン達は夢中でアルジャーノンと戦った。相変わらずねずみの大群が襲いかかってくるが、ねこいらずを使ってみると、賢いアルジャーノンだけはうまく避けている。それを目印にユリアン達はアルジャーノンを集中攻撃した。敵のボスの位置さえわかればこっちのものである。それほど労せずしてアルジャーノンを撃破した。

ユリアン達はニーナが代わりにアルジャーノンの犠牲になってしまったと激しく嘆いた。すっかり取り乱していたので声をかけられたのにも気づかなかった。よく見るとそこにはニーナの姿が。てっきりねずみにかじられたと思っていたがニーナは無傷である。

「安心して下さい。私はどこもかじられていません。この穴に入れられる時、懐に骨付き肉を隠してきてそれを投げつけて逃げたんです」
「ニーナ、君って……良かった」
「皆さん、ほんとにありがとう。もう少し遅かったらきっと私、今頃ねずみの餌になっていたわ。それに、これでもう生贄を捧げる必要もない」

ひとまず事件は解決、といったところか。町長には恨み言のひとつやふたつ言ってやりたい。ユリアン達をハメたこととニーナを犠牲にしようとしたこと。しかし町長は何事もなかったかのように平然としている。『私が町長です』と町への来訪者をもてなしたり、町長としての仕事に勤しんだりしていた。

「あーもうムカつく~あの町長!ユリアン、一発殴っちゃってよ!」
「タルト落ち着いて。もうこの町は平和になったんだし、他の町へ行こう」

タルトはぷんぷん怒っていた。皆、内心怒りを抑えていたが、もうあの町長はほっといて別の町へ行くことにした。
キドラントからはユーステルムへ船が出ている。ユリアン達は船に乗った。次の目的地はユーステルムである。



練磨の書によるとユリアンの趣味は開拓(仕事)、そして仕事の後の食事で、朝の光が好きなのだそうです。そこで少し独自のエピソードを入れてみました。
ユリアンとモニカ、駆け落ちした時はユリアンはまだ敬語ですが、エンディングではタメ口になっています。二人の言葉使いが変わるきっかけを考えてみました。



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