ハリード達は馬に乗ってポドールイからキドラントへ向かっていた。現在彼らが乗っている馬は全て白馬である。ヴァンパイア伯爵の治める不思議な街ポドールイでは白馬が多いのだ。彼らはなんとはなしに雑談をしながら馬を進めていた。

「白馬に乗るなんて初めてだわ」
「白馬っていえば『白馬に乗った王子様』っていうよね」
「『白馬に乗った王子様』ねえ…」

元々恋愛に興味の無いエレンは苦笑した。そんなものは現実にはあり得ないと思いつつ、妹のサラが乙女として夢を抱いているのなら否定するのも可哀想なので黙っていた。そこでエレンは思わぬことに気づいた。

「そういえばハリードって元ナジュ王国の王族だって言ってたわね。つまり王子なんでしょ?」
「ん?ああ」

エレンとサラはハリードをじっと見つめた。


ハリードが白馬の王子様!?


「…おまえら一体何を想像している。ったく、これだから女ってやつは…」

そう言いつつも、その後ハリードの頭の中では、とある妄想が繰り広げられていた。



ゲッシア朝ナジュ王国の王子の正装に身を包み、白馬に乗って愛しのファティーマ姫の元へ爽やかに参上するハリード。

「まあ、どうしたの、ハリード」
「姫、あなたを私の正式な妻に迎えたく存じます」
「まあ、嬉しいわ、ハリード。これから私達ずっと一緒なのね」
「もちろんです。これからいかなる時でも私が姫をお守りいたします」
「ハリード…」
「姫…」



「――ちょっとハリード何ボーっとしてるのよ?」
「いや、何でもない。白馬の王子様なんて俺の柄じゃないな」

エレン達にはそう答えたが、愛しのファティーマ姫の為なら白馬の王子様になってもいいとハリードは思った。姫にとって理想の男性になる為ならどんな努力も惜しまない。ハリードはファティーマ姫のことをどこまでも一途に慕っていた。

「ねえ、ハリード。前に約束したの覚えてる?今度、馬で競争しましょうって」
「ああ」
「今回はサラは少年と一緒に乗ってるからいいでしょ?ほら見て、向こうに大きな木があるわ。あそこまで二人で競争しましょう!」

エレンは半ば強引にハリードと早駆けの競争を始めた。エレンの趣味は乗馬。勝気で男勝りの彼女は力いっぱい馬を走らせた。北方地方の冷たい空気にも負けず、明るくエネルギッシュに進んで行く。
しかし、結果はハリードの勝ちだった。

「悔しい~次は負けないんだから!」
「フ…いつでも受けて立ってやるさ」

エレンは勝負に負けることが嫌いである。負けん気の強い性格なのだ。乗馬には自信があったのに。次こそ勝ってやる。
しばらくしてサラと少年とレオニードが追いついてきた。このまま順調にキドラントへ向かおうとしていたハリード達だったが――
道中、ものすごい勢いで暴走するマシンを見かけた。そして街道を通る旅人や商人を無差別に跳ねていく。ハリード達は慌ててマシンに跳ねられた人々を介抱する。

「お、おい、大丈夫か?」
「旅の方、すみませんがツヴァイクまで送って頂けませんか?」



ツヴァイクに戻ると街中では暴走したマシンの話でもちきりだった。聞くところによると、西の森の変わり者の教授が作ったらしい。

「あの変人の教授が原因か…しょうがないな」

ハリード達は教授の元へ向かった。教授は落ち込んでいた。

「私としたことが……あんな失敗作を……ツヴァイク公に頼まれていたスーパーウルトラデラックスファイナルロマンシングドラゴンマシーン。ネジを一つしめそこねて、ハイパーゴールドラグジュアリーフルオートマチック真ファイナルヴァーチャルロマンシングときめきマシーンになってしまったの。町や森を飛ばしまくってるのをあなたも見たでしょう?ああ、私って……おバカ……」
「元気出せよ。大丈夫さ、天才なんだろう?」
「そうね、何を悩んでたのかしら。私は天才!ホホホホホホ。傷ついても~♪うちのめされても~♪バラは美しくさく~♪――あ、待って!アイツを破壊して。奥の扉の中にプロトタイプがあるわ!失敗作は残したくないの」

暴走したマシンの名はナハトズィーガー。あんなものを放っておくわけにはいかない。ハリード達は教授の館にあるプロトタイプ、リヒトズィーガーのところへ向かった。しかしこれには三人しか乗れないようである。危険な戦いであるし、残り二人にはツヴァイクで待っていてもらうことにした。

「俺とエレンと少年でマシンを破壊しに行く。サラとレオニードはツヴァイクで待っていてくれ」

近接戦闘が得意な三人でマシンと戦うのには異存はなかったが、サラとレオニードが二人きりになると聞いてエレンと少年が不安そうにする。サラは硬直している。

「ちょ、ちょっと伯爵!」
「エレン、旅の間、私のことはレオニードと呼んでくれて構いませんよ」
「レ、レオニード!妹に手を出したら私がただじゃおかないわよ!」
「ご安心を。あなた方旅の仲間に危害を加えるなどということはしませんよ」

少年もサラが心配になって声をかける。

「サラ、大丈夫だよ。僕達が必ずあのマシンを破壊してツヴァイクに戻るからね。それまで待っていて」
「う、うん…」

ハリード、エレン、少年の三人はリヒトズィーガーに乗ってナハトズィーガーを破壊しにいった。こちらもそれなりのスピードで走らなければならないので危険である。ナハトズィーガーは術戦車なのでいろんな攻撃も仕掛けてくる。なかなか手強かった。

「デミルーンエコー!」
「ブレードロール!」
「乱れ雪月花!」

少年はツヴァイクトーナメントで閃いた強力な技で戦う。しばらく苦戦した後、ナハトズィーガーは崖から落ちて大破した。これで一件落着である。



一方、サラとレオニードは二人でツヴァイクへ向かっていた。サラは元々引っ込み思案で知らない人は苦手である。旅に出てから自立心が芽生えてきたとはいっても、さすがにヴァンパイア伯爵と二人きりで行動するというのは不安があった。サラはお化けの類も苦手である。しかし今となってはレオニードは旅の仲間である。二人で行動するからには何か話した方がいいのだろうか。何も会話が無いのも気まずい。しかし一体何を話せばいいのだろうか。内心不安に怯えながら途方に暮れていた。レオニードの方は極めて紳士的にサラをエスコートする。サラはちょっとドキドキした。ドキドキと不安が心の中を錯綜する。そうしているとレオニードの方が口を開いた。

「おや?サラ、あなたが身に着けているそのブローチは北方製のものですな」

サラは常にお気に入りのブローチを着けている。

「そ、そうよ。これは昔、シノンに来た旅の行商人から買ったものなの。デザインがとても気に入って。これは私の宝物なの」

それがきっかけでサラはレオニードと普通に会話することができるようになった。不安な心が一気に消え、打ち解けていく。サラの表情に明るさが戻ってきた。
その時である。モンスターの群れが襲いかかってきた。今まで見たものよりも邪悪な雰囲気を漂わせている。レオニードはサラをかばい、レイピアを抜いた。

「ファイアクラッカー!」

華麗な剣技で敵を一掃する。ヴァンパイア伯爵であるレオニードは一体どれくらい強いのだろうと思っていたが、これほどまでにレイピアの名手だとは思わなかった。サラは思わずレオニードの戦いぶりに見惚れてしまった。
敵の親玉らしきモンスターは目をぎょろりとさせ、サラ達の方を見た。

「宿命の子…宿命の子…」

そのモンスターはそのままがくりと息絶えた。

「サラ、怪我はないですか?」
「私は大丈夫よ。ありがとう、レオニード。…それにしてもこのモンスター達、宿命の子を探していたのかしら?」
「……………。さあ、行きましょう、サラ。ハリード達がツヴァイクで待っています」

その後、サラとレオニードはハリード達と合流し、改めてキドラントへ向かった。そしてそのまま船に乗る。次の目的地はユーステルム。




ポドールイに白馬が多いというのは私の独自の設定です。単に白馬の王子様ネタを書く為だったりして。
そういえばロマサガ3の世界には王子いませんね。ミカエルは侯爵だし。ハリードは元王子ってことで。

「練磨の書」によるとエレンは勝負に負けることが嫌いなのだそうです。気持ちはわかる。

術戦車バトルは3人で戦うので、残り2人の会話を書きたいと思い、サラとレオニードの会話シーンを用意しました。
「練磨の書」によるとサラの大切なものは『旅の行商人から買った北方製のブローチ』なのだそうです。それで会話に入れてみました。



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