ミカエルは現在、お忍びで旅に出ていた。国は『影』に任せてある。これまでも時々お忍びで外出するのが好きだったミカエルだが、今回は目的があった。諸国を旅しながら世界情勢を掴むことと、妹のモニカの消息を掴むことである。モニカはミュルスからツヴァイク行きの船に乗ったということで、ミカエルもツヴァイクにやってきた。そして情報を集める。当然のことだが、モニカはツヴァイクには長居しなかったようだ。ミカエルはポドールイへ向かった。レオニードとは親交がある。先日のゴドウィン男爵の反乱の折もモニカを任せたばかりである。その時の礼もろくにしていない。レオニードは独自の情報網がある。モニカの消息についても、もっと具体的な手がかりが得られると思ったのだが――
ポドールイへ行ってみると、なんと驚くべきことに、レオニードは旅に出たというのだ。ミカエルの知る限り決してポドールイの外へ出たことがなかったのに。しばらくポドールイの統治はしもべ達に任せて自らは旅に出たという。ミカエルは非常に驚いた。それならモニカの消息を掴むのにレオニードは当てにできない。ミカエルは自力で情報を集めた。ツヴァイク、ポドールイ、キドラントを回る。モニカはどうやらキドラントからユーステルムへ向かったらしい。ミカエルは船でユーステルムへ向かった。



ここはファルスからピドナへ向かう船の上。ハリードパーティーとユリアンパーティーは平和な船旅を満喫していた。彼らは泳げるかどうか、水泳は得意かどうかについて話し合っていた。意外な人物が泳ぎは得意だったり、苦手だったりした。そこへ雪だるまが現れる。

「みんなー!何の話なのだ?ボクも混ぜてくれなのだ」

雪だるまを見た瞬間、一同は固まった。

「雪だるまってさ………言うまでもなく泳げないよね」
「っていうか、どうやって泳ぐんだよ、どうやって!」

一同はひそひそと囁き合った。

「みんな、どうしたのだ?」
「あ、いや、その。雪だるま、おまえ泳げないだろ?海に落ちないように気をつけろよ」
「あっ!そういえばそうだったのだ。わかったのだ。気をつけるのだ」

自分が泳げないことを自覚した雪だるまは慎重に甲板の上を歩く。永久氷晶を身に着けた雪だるまは照りつく太陽の光を浴びても溶けることはない。氷銀河とは全く違う温帯地域の海。雪だるまは生まれて初めての船旅を心底楽しんでいた。
ピドナからは各地に船が出ている。ハリード達が乗っている船と他の船がすれ違うこともあった。『ヨーソロー』と言いながら舵を操作する。甲板に出ていた船員達はすれ違う船の甲板に雪だるまを発見した。

「お、おい!あっちの船に雪だるまが!」
「ああ?おまえ寝ぼけてんのか?」

確かに雪だるまの姿を認めると船員達は目を見開いた。あちこちで様々なツッコミを受けながら気ままに旅を楽しむ雪だるまであった。



サラは少年と一緒に船の甲板に立っていた。そしてトーマスの話をしていた。

「あのね、ピドナには幼なじみがいるの。トーマスって言って、とても頭が良くて何でもできるんだよ。博識で何でも知ってるの。真面目で誠実で、シノンでもみんなに慕われてて。勉強ができるだけじゃないんだよ。槍も使えるし玄武術も使えるし。それでね、料理もできるんだ。トムの家の伝統ではね、男は戦いから料理まで一通りのことはこなせるようにするんだって。トムには恐くて厳しい御祖父さんがいるの。トムはその御祖父さんの言いつけでピドナへ行ったんだ。トムの家系はメッサーナの名族なんだけど、シノンへ移住してきたの。村一番のお金持ちなんだ。シノンの開拓民のリーダーとして人望があって、とても思慮深くて面倒見が良くて。私もトムにはよく助けてもらったんだよ」

その後もずっとトーマスの話ばかりし続けるサラ。

「サラ、さっきからトーマスって人の話ばかりだよ」
「うん、それでね、トムはね……」

トーマスのことを話すサラの表情には憧れの念が見てとれた。そしてそれを見て少年は嫌な予感がする。

「ねえ、もしかしてサラはそのトーマスさんのこと……」
「うん。片思いなの」サラは可愛らしく頬を染めた。


ピシッ


少年の脳内に亀裂が入った。

「私ね、将来トムのお嫁さんになるのが夢なんだ。旅に出て、心も身体も強くなって、私、少しはトムに相応しい女になったかな…」


ガーーーーーン!!!!!


「ハリードさん!」
「どうした?」
「サ、サラには………サラには好きな男の人がいたんです!」
「ほう」
「これから行くピドナにいるトーマスって人が!」
「サラがトーマスを?…そうか」

その後、激しく取り乱す少年をハリードはなだめた。そこへエレンがやってくる。少年はいつも大人しいし口数も少ない。その少年が騒いでいるので何事かと思ったのである。わけを聞くとエレンは困った顔をした。

「エレンさん、エレンさんは知ってたんですか?」
「そりゃあね、姉だもの。見ていればわかるわ」

その後も落ち着かない状態の少年をハリードとエレンはなだめることになった。



その夜、なんとか落ち着いた少年はサラと一緒に夕食をとっていた。夕食の話題はみんなの趣味。一人ひとり自分の趣味について答えていった。

「私の趣味は乗馬と格闘よ!」
「エレンらしいな」

得意げに自分の話をするエレン。そして少し離れた席に座っていたハリードを見た。ハリードは会話に入らず窓際の席で酒を飲んでいる。ハリードが気になるエレンはもっと彼のことをよく知りたいと思い、そばへ行った。

「ねえ、ハリード、あんたの趣味は何?」
「貯金だ」

・・・・・・・・・・

「金を稼いで銀行に預ける。そして通帳を見ると金額が増えている。これが何よりの喜びだ」
「……………ね、ねえ、ちょっとハリード!あんた女に趣味を聞かれたら貯金って答えるわけ?例えばお見合いで『ご趣味は?』って聞かれたら『貯金です』って答えるわけ?」
「そういうおまえの趣味は格闘だろ?お見合いで『ご趣味は?』って聞かれたら『格闘です』って答えるのか?」
「な、何よ!」

その後、痴話喧嘩になり、エレンはハリードに突っかかり始めた。それを見るサラと少年。

「お姉ちゃんはハリードのことが好きなんだよね」
「そ、そうだね」
「妹だもの、見ていればわかるわ」

ハリードとエレンの口喧嘩を聞きながら、サラはふうとため息をついた。エレンとサラ。二人の姉妹は互いの好きな男性に気づいている。そして二人して同じことを言っている。少年は何といっていいかわからない心境になった。

船旅は順風満帆に進み、ピドナへ向かう。



トーマスは先日ドフォーレ商会の悪事を封じることに成功し、ヤーマスからピドナへ戻っている。ハリードもユリアンもトーマスも多くの仲間を連れて旅をしている。そして三つのパーティーは世界一の大都市ピドナに集結しようとしていた。ハリード達の目的は魔王殿の地下へ行き、魔戦士公アラケスを倒すこと。



運命の時が、少しずつ動き始めていた。





ちょっと思いついた雪だるまネタ。雪だるまは言うまでもなく泳げないでしょう。永久氷晶があってもそれはまた別。それに船の甲板に雪だるまが動いていたら、すれ違った船の船乗り達はさぞかしびっくりするだろうなあ、なんて。

そしてこのオリジナル小説では、少年はサラのことが好きという設定になっているのですが、実はサラはトーマスに片思いしているという設定になっているのです!さあ、これから向かうピドナにはトーマスがいる!さて、どうなるか!?

練磨の書によるとハリードの趣味は貯金。私と一緒ですね(笑)。エレンの趣味は乗馬と格闘。これらの設定を元に会話を考えてみました。

エレンとサラはお互い相手の好きな男性に気づいています。
エレン「姉だもの。見ていればわかるわ」
サラ「妹だもの。見ていればわかるわ」
互いに同じことを言っているカーソン姉妹でありました。



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