「やあ、トーマス」
「フルブライトさん、どうしたんですか?」

トーマスが見るとフルブライトは旅支度を済ませている。

「君と一緒に旅をするのもいいが、時々はウィルミントンへ帰らなければならないのだよ。あそこが私の本拠地だからね。私は一度故郷へ帰る。またいつでも来たまえ。何かあれば私からも君を訪ねることにしよう」

フルブライト商会の当主はいろいろとやることがあるのだろう。フルブライトは一旦仲間から外れ、ウィルミントンへ帰っていった。



一方、トーマス達と共にドフォーレ商会を懲らしめたロビン親子は今後の身の振り方を考えていた。

「ライム、おまえはこれからどうする?」
「僕はトーマスさんと一緒にいることにするよ。何せトーマスカンパニーの社長さんだからね。彼と一緒にいればいろんな情報が入ってくる。もしドフォーレ商会の連中がまた悪事を働くようなことがあってもすぐにわかる。いつでもヤーマスに戻ってあいつらをやっつけてやれるからね」
「トーマスさんはおまえと同じ二十二歳だというのにもう社長なんてやってるのか。たいしたものだなあ」
「父さんはどうする気?」
「……実はな、ライム。俺は旅に出て見ようと思っているんだよ。今までパブのマスターとして客の話を聞くばかりだったからね。この機会に他の町を実際に見て回りたい。ライム、おまえのことは父親として今でも心配だが、あえて一旦別れようと思う。外の世界で逞しくなれ、ライム」
「父さん……」

その日、偽ロビンことトラックスはトーマス達に別れを告げ、旅立った。

「トーマスさん、今までお世話になりました。息子を頼みますよ」
「はい。まずはどちらへ行かれるのですか?」
「ロアーヌの方へ行ってみようと思っています」

ライムは父の背中を見て寂しくなったが、黙って見送った。小さい頃からずっとヤーマスで一緒に暮らしていた親子は一旦離れ離れになった。



ハリードやユリアン、トーマス達がピドナに集結している頃、ミカエルはお忍びの旅でユーステルムに来ていた。モニカの消息を掴む為に北へ向かっていたのだ。ユーステルムは初代ロアーヌ候の出身地。情報を集めているとミカエルの家系と遠縁にあたるウォードという男がいるという。ウォードはハリードやユリアン達と雪の町でオーロラの旅を楽しんだ後、再びユーステルムへ戻ってきていた。ミカエルはウォードに会いに行き、遠縁であるということで密かに身分を明かした。モニカが駆け落ちしたことを知っているウォードは黙って話を聞いた。

「私の妹がこの町へ来たはずだ。知らないか?」
「……事情はわかったけどよー、妹さんを見つけ出してどうするつもりだ?嫌がるのを無理やり連れ戻して政略結婚させるつもりか?」

ミカエルは困った顔をした。

「……私にとってモニカは大切な妹だ。このような事態になった以上、ロアーヌ候女としての務めを強制はすまい。見つけたら、まずはゆっくり話し合いたい。先のことはそれから決めたいのだ。モニカにとって最も良いようにしてやりたいと思っている」



その頃、ハリード達は初の四魔貴族との戦いに備えて準備をしていた。今までの旅の疲れを取り、武器の手入れをする。そんな中、少年はハリードのところへやってきた。

「ハリードさん、お話があります」

少年の真剣な表情を見て、ハリードは場所を移した。

「どうした?」
「…明日はとうとう四魔貴族アラケスとの戦いですね」
「ああ」
「……僕達の旅の目的は三つありますね。一つはアビスゲートを閉じること。二つ目は四魔貴族と戦う為に聖王遺物を集めること。そして三つめは………宿命の子を探すこと」
「そうだな。だがどれも手がかりが少ない。フォルネウスのアビスゲートは海の中だというし、どうやって行けばいいのやら。聖王遺物もどこに何があるのかさっぱりだ。宿命の子も十五歳の子供だということ以外、手がかりがない。何をどうやって探せばいいのか」
「あの………ハリードさん………」

少年はひどく緊張していた。手をぎゅっと握りしめ、拳を震わせる。ハリードは黙って少年の言葉を待った。

「……もし僕が宿命の子だったら………どうしますか………?」
「………どうしてわかった。初めから知っていたのか?」
「いいえ。でもアビスの魔物達がそう言っていました。ランスでの襲撃は宿命の子である僕を狙ったものです。今まで僕に関わった人はみんな死んでしまった。いい人も悪い人も。それは宿命の子の特徴なんだそうです。かつての魔王も聖王様もそうだったと。死食の年に生まれた者は通常の宿星の他に死の宿星を持つのだそうです。そしてアビスの者達には死の宿星を持つ者は一目でわかるそうなのです」
「………そうか………おまえが………宿命の子は俺のそばにいたのか」
「今まで黙っていてごめんなさい……明日はとうとう四魔貴族との戦いだし、ハリードさんにだけでも言わないと」
「……サラはそのことを知っているのか?」

少年はぎくりとした。サラのことはまだ黙っているつもりだったのだ。誰も宿命の子が二人いるなどとは思っていないし、皆に知れ渡るなら自分だけでいいと思ったのだ。

「…はい…サラと、レオニード伯爵様も知っています」
「そうか。なら知らないのはエレンだけだな。………来い。共に戦う仲間だ。おまえが宿命の子であることは仲間全員が知っておく必要がある。エレンにも話すぞ」
「は、はい…」

その後、ハリード、エレン、サラ、少年、レオニードの五人は集まった。そして改めて少年が宿命の子であることを明かす。エレンは驚いたものの、少年からは普通の人間とはどこか違う雰囲気を感じていた。しばらくして納得した。

「僕は魔王になるつもりはありません。聖王様のように立派な人間にもなれるとは思っていませんが、このままハリードさんについて行って四魔貴族と戦いたいんです。宿命の子としてアビスとの戦いに身を投じたいんです!」
「宿命の子は俺達とずっと一緒にいた。こいつは共に四魔貴族と戦うという。明日はとうとう魔戦士公アラケスとの戦いだ。みんな覚悟はいいか!」
「もちろんよ!」とエレン。
「はい!」とサラ。
「全ては運命のなすがままに…」とレオニード。

五人は改めて気合いを入れた。宿命の子が少年だと明らかになり、ランスの襲撃も少年を狙ったものだとわかった。サラと少年の様子がおかしかったのもそのせいだと思い、ハリードもエレンも納得した。だがまだサラのことは話していない。それについてはサラも黙っていた。



明日は魔王殿の地下へ向かい、とうとう四魔貴族の一人、魔戦士公アラケスを倒しに行く。初の四魔貴族戦、果たしてハリード達はアビスゲートを閉じることができるのであろうか。





アビスゲートを一つ閉じたらアビスリーグのイベントが発生するので、このストーリーではフルブライトを一時仲間から外してウィルミントンへ帰ってもらうことに。
それとロビン親子も一旦離れ離れに。
ミカエルはモニカを探して旅をして、遠縁ということでウォードに会いに行ったことにしました。
これでやっと今まで登場したキャラのストーリーとしてのまとめが一通り終わったので、次回はやっっっとアラケス戦です。

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