トーマスパーティーは船でピドナからミュルスに渡り、ロアーヌへ向かった。ロアーヌの被害は思ったよりたいしたことはなく、トーマスはほっとした。ミカエルは現在ビューネイの巣へ突入する勇士を集めている。トーマスはロアーヌ宮殿へ向かった。
以前ゴドウィン男爵の反乱の時の活躍もあり、ミカエルはトーマスの来訪を喜んだ。と、その時二人のロビンがその場に居合わせる形になった。本物ロビン、ライムはトーマスと共に行動している。一方、偽ロビン、トラックスは旅に出ると言って別れたばかりだ。体格は違うが同じ服装の二人を見てミカエルは怪訝な顔をする。トーマスは簡単に事情を話した。

「いやあ、ロアーヌにでも行ってみようかと思ったらちょうどビューネイの襲撃に出くわすなんて思ってもみませんでしたよ」

トラックスは襲撃の際に大活躍をしたことを誇らしげに話す。そして今はミカエルのパーティーに加わっているのだ。その後、トーマスはミカエルから直にロアーヌ襲撃の話を聞く。

「トーマスよ、私は勇士を集め、自らビューネイの巣へ突入しようと思っている」
「ミカエル様!四魔貴族と戦うおつもりですか!」
「我がロアーヌを守る為だ」

トーマスは慌ててハリードのことを話した。ハリードは四魔貴族と戦う旅をしている。既に魔戦士公アラケスを倒し、今はビューネイと戦う為、ルーブ山地へ向かっている。巨竜グゥエインの協力を得てビューネイに空中戦を挑むつもりなのだ。しかしそれを聞いてもミカエルの決意は揺らぐことは無かった。

「そうか。あのトルネードなら四魔貴族を倒すことも可能であろう。しかし私は私でビューネイと戦おうと思う。ロアーヌを脅かす存在を放置しておくわけにはいかぬ。我が国を守る為、勇士を集め、ビューネイを討つ!」

ミカエルの決意を聞いてトーマスは勇士として名乗り出ることにした。敬愛する君主に万一のことがあってはならない。トーマスパーティーはミカエルパーティーと共にビューネイの巣へ向かうことになった。ミューズを除いて――



「ねえ、シャール」
「いけません」
「まだ何も言ってないわ」
「今度の目的地は四魔貴族の本拠地です。危険過ぎます。ミューズ様はこのロアーヌで待っていて下さい」
「私だって、あれからこっそりカタリナに剣を教えてもらったのよ。ほんの少しだけど」

こんなことを言っても効果がないことはわかっていたが、ミューズは言わずにはいられなかった。夢魔を倒してから病気が全快したミューズは外に出て身体を動かすことも多くなった。徐々に体力はついてきている。しかし病人から健康な人間になったばかりのミューズを戦闘に参加させるなどということはシャールが決して許さなかった。シャールにとってミューズを守ることは何よりも第一なのである。

「…ねえ、シャール、あなたは私を守ることが第一だと言っていわたね。それなのに私を置いていくの?一緒にいた方が私を守ることができるでしょう?」
「ミューズ様、いけません!」
「じゃあ、何故あなたは私を置いて四魔貴族との戦いへ行くの?私を守ることよりビューネイとの戦いを優先するの?」
「…先日ピドナでハリードという男に会いましたね。四魔貴族と戦う旅をしており、聖王遺物の一つ『銀の手』を所持する私を仲間に加えたいと。しかし私は断りました。ミューズ様、あなたのことがありましたから。あれから考えるのです。不思議な経緯で手に入ったとはいえ、『銀の手』が私のものになったのは偶然なのか?これは私に魔貴族と戦えという啓示なのではないかと。ミューズ様、私はミカエル候にお供してビューネイの巣へ向かいます。あなたが平和な世界で生きていく為に私は戦います」
「シャール………」

ミューズは俯いてしばらく黙っていた。そしてシャールに抱きついた。

「!!ミューズ様!」
「シャール、お父様が亡くなってから私のそばにいてくれたのはあなただけ。あなたは私にとってただの侍従なんかじゃないのよ」
「ミューズ様………必ず戻って参ります。ですから、あなたは安全な場所で待っていて下さい」

シャールはそっとミューズを抱きしめ、そして離した。



ミカエル、ウォード、トーマス、シャール、ロビン親子はタフターン山へ向かった。途中の霧の向こうにビューネイの巣があった。禍々しい雰囲気の洞窟である。中にはライフトラップというモンスターがおり、近くに行くと穴に引きずり込まれる。ミカエル達はモンスターを駆逐しながら進んで行った。最深部にビューネイの手下、ビューネイ三魔がいた。ビューネイドッグ、ビューネイバード、ビューネイベビーの三体で、いずれも強力な攻撃を仕掛けてきた。ミカエル達は相当苦戦したが、かろうじて倒すことに成功した。そしてビューネイに戦いを挑む。

「あわれな虫ケラども」

ビューネイは強敵だった。アースライザーで前列にダメージを与え、トリニティブラスターで三連続で攻撃してくる。そして超高速ナブラで大ダメージを与えてくる。立て続けに強力な攻撃を使ってくるビューネイにミカエル達はどんどんやられていった。

ミカエル達は全滅した………



ミカエル達は死を覚悟していたが、気がつくとタフターン山の麓にいた。

「ここは……麓……ビューネイは強い……まだ勝てない……」

傷を負いながら、ミカエル達はロアーヌに戻った。



一方、ハリードパーティーとユリアンパーティーは共に船でバンガードへ来た。ユリアンパーティーはしばらくバンガードでゆっくりするつもりだ。ハリードパーティーは船旅の疲れを取る為に一旦宿に泊まる。
翌朝、エレンは早く起き、宿の外に出た。朝の爽やかな空気が身を包む。心地よいそよ風が吹く。エレンはしばらくその場に佇んでいた。

「エレン、早起きだな」
「ハリード、あんたもこっちへ来なさいよ。風がとても気持ちいいわ」

ハリードは言われるままにエレンの隣へ立つ。

「私ね、風を感じるのが好きなの。こうやって日の光を浴びて、森の中や草原を、風に吹かれながら力いっぱい走り続けたい。そんな衝動に駆られるの」

ハリードは黙って聞いていた。そしてそよ風の吹く中を、しばらく二人は佇んでいた。こういう時に特別な言葉はいらない。そこにあるのは二人と大自然だけだ。

いつまでそうしていただろうか。やがてハリードはエレンの肩に手を置いた。

「そろそろ宿に戻るぞ。朝飯を食ったら出発だ」



バンガードでユリアン達に別れを告げると、ハリード達はルーブ山地へ向かった。山道は途中から険しくなり、エレンは珍しく怯えた表情をした。

「どうした、エレン?」
「私、高い場所は苦手なの」

エレンはなるべく下をみないように気をつけながら、怖々と山道を進む。ハリードは不思議そうな顔をした。

「おまえ、今朝は風が好きだと言ってなかったか?」
「そうよ」
「風が好きなのに高い所が苦手なのか?」
「そうよ!何か変?」
「高い所の方が風を感じることができるのにな」
「私は地上の普通の場所で風を感じるのが好きなのよ!高い場所は苦手だわ」

しばらく進むと狭い道に出た。エレンは恐る恐る進んでいたが、足を踏み外してしまった。

「きゃあっ!」

ガシッ!

見るとハリードの力強い手がエレンの腕をしっかりとつかんでいた。エレンは思わず赤面する。

「気をつけろよ」
「あ、ありがとう…」

そして、途中で一旦休憩することにした。ハリード達は山から景色を見下ろした。ふもとの小さな村が見える。そこにはいい眺めの風景が広がっていた。山の上の空気は澄んでいて、風が木々の葉を揺らす。地上よりは強い風だが心地いい。ハリードは一際高い場所に行くと、エレンを誘った。

「エレン、こっちへ来てみろ。今朝よりも気持ちのいい風が吹いているぞ」
「ちょ、ちょっと、そんな足場の悪いところ、危ないわよ。それにさっき言ったでしょ。私は高いところが苦手なの」
「俺につかまっていれば大丈夫だろう」

そう言うとハリードは強引にエレンを引き寄せた。足場が悪いのでエレンは思わずハリードに抱きつく。ハリードの逞しい胸板に触れるとエレンは真っ赤になってしまった。逞しく鍛えられた肉体と力強い腕。確かに気持ちのよい風が吹いていて景色もいいのだが、エレンの胸中はそれどころではなかった。ハリードの方は今朝と同じようにしばらく風を感じながら佇んでいた。エレンをしっかりと支えながら。エレンの方はドキドキして真っ赤になったままだった。

(もう!人の気も知らないで!)

休憩が終わると、山道を登り、グゥエインの巣へ入った。奥には巨竜グゥエインがいる。ハリード達はグゥエインの協力を得ることができるのだろうか。





ちょっとだけシャール×ミューズ。ビューネイの巣に行ってビューネイ三魔と戦う役はミカエルとトーマス達にやってもらうことにしました。
そういえば四魔貴族戦で全滅してもゲームオーバーにならないのは何でなんでしょうね。他にも一度LP0になったキャラもアビスゲートを閉じれば復活するのも何でなんでしょう?リマスターでその辺の謎も明らかになるといいですね。

このオリジナル小説ではグゥエインとの共闘でビューネイを倒します。ハリードパーティーの方はちょっとハリエレ。
練磨の書によるとエレンは風を感じることが好きなのだそうです。で、高いところは苦手なのだそうで。それでちょっとハリエレのエピソードを考えてみました。



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