死者の井戸から外に出たハリード達を待っていたのはウンディーネとボルカノだった。

「よくもだましてくれたな!」
「その盾を渡しなさい!」
「何を言う!俺に渡せ!」
「そんなことを言ってる場合じゃないでしょう。まずは協力してこいつから盾を奪うのよ」
「わかった!!」

二人の術士は怒りに燃え、魔王の盾を奪おうと襲いかかってきた。強力な術も使ってきたが、四魔貴族との戦いにも勝ち抜いてきたハリード達の方が上手だった。

「負けたわ……」
「好きなようにしろ!」
「そうか。じゃあ好きなようにさせてもらう。二人共あんまり町の人を困らせるなよ。魔王の盾は俺がもらう」
「くそっ!」

ボルカノは悔しがりながら去っていった。ハリードはウンディーネの方へ向き直る。

「だましてすまなかったな」

ハリードはくずおれているウンディーネを支えて立ち上がらせた。ウンディーネは先程の戦いで傷を負い、術で回復したものの、弱っていた。ハリード達はウンディーネを館へ送っていくことにした。
ウンディーネの館に入ると、弟子の男達が集まってきた。そしてウンディーネを支えているハリードを見て血相を変える。

「そっ…そんな!ウンディーネ様!俺達を差し置いて新しい愛人を作るなんて!」
「いつも年下で可愛い俺達が好きだって言ってくれたじゃないですか!好みが変わったんですか!」
「よりにもよってこんなおっさんにー!」

何やら誤解を招いているようだ。ハリードはウンディーネを部屋まで連れていき、休ませた。すっかり取り乱している弟子達も殺気立ってついてくる。

「ウンディーネ、おまえは玄武術士だろう?バンガードを動かすのに協力してくれ」
「ハリードとか言ったな、貴様!よくもそんな口がきけるものだ!よくも、よくもウンディーネ様をだましたな!」
「ボルカノを倒すとか言ってウンディーネ様からもらった2000オーラム返せー!」
「あれは館へ入るなりいきなり襲いかかってきたおまえ達が悪い」

ハリードがウンディーネをだましたことについて弟子達ともめる。順序を遡ると、まず、ハリード達がウンディーネの館へ入るなり弟子達がいきなり襲いかかってきた。その後ウンディーネが止めに入り、ボルカノを倒すことを依頼した。

『それじゃあ先程のお詫びと合わせて2000オーラム払うわ。頼むわよ』

あの時、確かにウンディーネはそう言った。

「つまりあの時の2000オーラムはおまえ達のことのお詫びってことでもらっとくぜ」
「な、何だと―!」

騒ぐ弟子達をウンディーネは落ち着かせた。

「もういいわ。だまされる私も悪いのよ。思えば盾を巡って町の人には相当迷惑をかけたわね」

ウンディーネはしばらくうなだれていた。ハリードはバンガードを動かすのに協力してくれるように根気よく頼んだ。しばらく沈んだ表情のウンディーネはハリードを見上げ、じっと見つめ始めた。

「ハリードと言ったわね。………あなた、歳はいくつ?」
「は?」

ウンディーネはハリードをじっと見つめたままである。

「?33だが」
「…………………………いいでしょう。協力するわ。早速、弟子の中から選りすぐってバンガードへ送るわ」

今のウンディーネはすっかり落ち着いていた。弟子達をなだめ、バンガードへ送る者を選んでいる。

「で?何で俺の歳を聞いたんだ?バンガードを動かすのと何の関係が?」

ウンディーネは答えない。ハリードも他の仲間達も不可解な表情をしていた。とにかく玄武術士の協力を得ることができたのだ。今晩は宿に泊まって、明日にはバンガードへ戻ろう。ユリアン達はヤーマスでイルカ像を入手できただろうか。
パブでは争いごとを解決してくれたということで、町の人々から感謝された。マスターも『モウゼスワイン』をおごってくれた。そんな中、ボルカノが入ってくる。

「おまえ達にはしてやられたな。仕方がない。盾はあきらめるさ、それにしても思えばウンディーネと長いこと争っていたものだ。いがみ合う相手とはいえ、結構付き合いが長くなってしまったな。おかげであいつのことはよく知っている」
「ほう?じゃあおまえが知っているウンディーネとはどんな人物なのか教えてくれ」
「ウンディーネは天才的な術士だ。四歳の時、初めて術法を覚えたらしい。それ以来、玄武術を次々と会得して玄武術開発の第一人者となった。連係術も編み出している。普段は柔和で温厚だが、術のことになると途端に厳しい性格になる。芯のしっかりした女だ。ま、そこまでは別にいいんだがな……」
「何かあるのか?」
「あいつは年下の男が好みなんだ。優男ばかり弟子に集めやがって。あいつ、あれでも見かけよりずっと年なんだぜ」

ボルカノの話を聞いてウンディーネのことは一通りわかったが、それで何故ハリードの年齢を聞いたのだろう。

「ハリードとか言ったな、あんたはきっとウンディーネより年下だったんだろう。あいつはどんないい男でも年上は相手にしないんだ」
「……………」

この話を聞いて当然エレンは警戒する。

「ちょ、ちょっとハリード…」
「さて、今日はもう寝るか」

ハリードは深く追求するのはやめて寝ることにした。



その頃、カタリナとノーラはウンディーネを訪ねていた。

「あなたは確かハリードと一緒にいたわね。私に何の御用?」
「ウンディーネ、あなたは魔王の遺物である魔王の盾を手に入れようとしていたでしょう。私とノーラは聖王遺物のマスカレイドと聖王の槍を探しているの。何か知らない?」

カタリナはカタリナでなんとかマスカレイドの情報を手に入れようと必死だった。ウンディーネに事情を説明する。

「私が魔王の盾を手に入れようとしていたのは、術増幅効果があるからよ。…そうね、過去の文献を調べている時に聖王遺物についても見たけれど、いくつかは元々あった場所から無くなっているわ。栄光の杖や七星剣だったかしら。紛失したのはごく最近。おそらく何者かが盗んだのよ。同じ人物かどうかはわからないけど」
「ハリード以外にも誰か聖王遺物を集めている者がいるということ?」
「多分ね。その人物があなたのマスカレイドを奪った可能性はあるわ」

具体的な手がかりは未だに得られないが、少しは前に進めたような気がした。

「ねえ、ウンディーネ、私達に協力してくれないかしら?あなたは過去の文献を調べて聖王遺物に詳しいのでしょう?」
「そうねえ…私は今まで魔王の盾欲しさに醜い争いをしてきたわ。一度旅に出て自分を見つめ直すのも悪くないわ。いいでしょう。カタリナ、ノーラ、あなた達に協力します。共に旅をして奪われた聖王遺物を取り返しましょう」

こうして、カタリナパーティーにウンディーネが加わった。

――翌朝。

「おい、カタリナ、バンガードへ戻るぞ――ウンディーネ!?」
「ハリード、ウンディーネは私のマスカレイド探しに協力してくれることになったの」
「そ、そうか」

昨晩の話を思い出すと、エレンは思わずウンディーネを警戒してしまったが、ウンディーネの方は少年を見つめていた。

「まあ、坊や、可愛いわねえ………私の弟子にならない?」
「あ、あの、僕は剣が得意なので」
「術の心得もあった方がいいわよ。私が手取り足取り教えてあげるわ」

少年は思わず後ずさるがウンディーネはどんどん距離をつめて弟子に誘ってくる。少年も昨晩のボルカノの話を聞いていたし、ウンディーネがただ単に弟子に誘っているだけではないのにも気づいていた。ウンディーネの自分に対する興味が何を意味するのかがわかった少年は――

「ぼ、僕には心に決めた人がいるんです!」

そう言って走り出した。

「おいおい、ウンディーネ、俺の仲間にちょっかい出さないでくれ」

新たに仲間が加わり、旅を続ける一行。



一方、こちらはここはロアーヌ。ミカエルは施政を行っていた。ウォードと偽ロビンのトラックスはロアーヌ候宮殿に客として滞在していた。ミカエルは現在外交に力を入れていた。まずは勢力の小さい町から始めて交渉し、国威を高めていくのである。今回はユーステルムとの外交だ。

「よー、ミカエル。ユーステルムと外交を結ぶなら俺が口をきいてやってもいいぜ」
「ウォード、そなたはユーステルムの人間だったな」
「ああ。こう見えても俺は『ウォード隊』の隊長なんだ」

ミカエルとウォードが話をしている傍ら、トラックスは酒を作っていた。いろんなカクテルが出来上がる。

「二人共いかがです?ここの『ロアーヌワイン』もいいですが、私が作った酒もなかなかのものですよ」

ミカエルは施政が終わるとトラックスの作った酒を味わった。さすがパブのマスター、どのカクテルも美味である。ユーステルムとの外交はウォードの仲介もあって順調に進んだ。そしてロアーヌの国威は高まっていった。

ハリード、カタリナ、ユリアンはバンガードを動かす為に行動している。ミカエルはロアーヌで施政を行っている。トーマスはアビスリーグ壊滅の為に世界中を奔走している。彼らはそれぞれの目的で行動していた。





ウンディーネが仲間に加わる経緯を独自のエピソードで考えてみました。当時のゲーム攻略雑誌で確か年下の男が好みと書いてあったような…モウゼスの住人のセリフでもそれらしき情報があります。
ウンディーネをカタリナパーティーに入れることに決めたのはいいんですが、ストーリー上、仲間になるきっかけをどうしようかと頭を悩ませた結果、今回の話のようになりました。
ウンディーネが年下の男が好みなら少年はピンチかな、とかちょっとしたエピソードも入れてしまいました(笑)。

ミカエルは今のところどのイベントをやってもらうか困った挙句、施政イベントの外交をやらせることに。それに時々は登場させないと。



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