ユリアン達はヤーマスに来ていた。現在はハリード達がバンガードを動かすのに協力している。ヤーマスに売り飛ばされたというイルカ像を探してやってきたのだ。
ユリアンパーティーはユリアン、モニカ、詩人、タチアナ、雪だるま、ポールの六人。
彼らは手分けして情報を集めた。情報収集となると一番得意なのは詩人で、ここ最近ヤーマスに起こった出来事をすぐに調べてきた。怪傑ロビンの話、ドフォーレ商会の不祥事の話、現在ヤーマスの物件はほとんどトーマスカンパニーの傘下にあることなど。以前はドフォーレ商会がこの町であくどい商売をしていたが、今はすっかりなりをひそめていることなど。トーマスの活躍を聞いてユリアンは感心した。
「トーマスってすごいなあ。俺と二歳しか違わないのに社長やって成功してるなんて」
ユリアンには会社経営のことはよくわからなかったが、とにかく普通の人にはできないすごいことをやっているのだけはわかった。
そして肝心のイルカ像を買い取った店、それはどこにあるのか。このヤーマスのドフォーレ商会には盗品でも買ってくれるルートがあるらしい。そんな後ろ暗い裏のルートをどうやって探るか。ユリアンが困っているとポールが話しかけてきた。
「ユリアン、俺が調べてくるよ。おまえも知っての通り、俺は今まで野盗の一味だった。このヤーマスも野盗の活動範囲内だったんだ。盗品ルートとか、俺の心当たりを探してくる」
しばらくしてポールは戻ってきた。そしてユリアン達をある店に案内した。見たところ他の武具屋と特に変わった様子はない。店員にイルカ像のことを聞いてみる。
「イルカ?まずは何か買って下さい」
ユリアンは仕方なしに商品を一つ買った。
「あれは海賊ブラックに奪われてしまいましたよ」
店員は盗品も買い取る店だということを特に隠しもせずに平然と答えた。
「な~んだ。あくどい商売をしていたドフォーレ商会も今は大人しくしてるって言ってたけど、ちゃんと盗品を買う店が残ってるんじゃん。いくらトーマスが頑張って悪行やめさせたって闇取引するやつらはいるんだね」
「厳しいなあ、タチアナ」
「あ、あたしはタルトだよ!」
「もう本名バレてるって」
ピドナでトーマスと再会したことにより素性がバレてしまったタチアナ。それ以来仲間からは本名で呼ばれることになった。いくらタルトだと言っても取り合ってもらえない。
「それにしても海賊ブラックって誰だろう?俺はずっと東のシノンに住んでたから知らないな」
「私もロアーヌでは海賊の噂など聞いたことがありませんわ」
「雪の町に住んでたボクも知らないのだー」
「キドラントでも野盗として活動していた北方地域でも聞いたことないな」
「リブロフでもピドナでも聞かないね」
ユリアンもモニカも雪だるまもポールもタチアナも知らない。しかし世界を旅する詩人は聞き覚えがあった。
「おや、皆さん、海賊ブラックについては全くご存じないようですね。私の知っている情報によればグレートアーチで活動していた海賊ですよ」
「グレートアーチか……行ったことないな。よし、みんなバンガードへ戻ってハリードに教えよう」
その日はヤーマスの宿に泊まり、翌日バンガードへ戻ることにしたユリアン。見ると、モニカが焦って荷物を探っている。何か探しているようだが見つからないようだ。モニカの表情はだんだん真っ青になっていった。
「モニカ、どうしたんだ?」
「お母様のペンダントが………無いんです!」
モニカは昔、母親にもらったペンダントを大切に持っていた。いつも肌身離さず身に着けている。モニカの母親は既に亡くなっている。今となってはペンダントは母の形見である。そのペンダントをなくしてしまったというのだ。
「そんな!そんな…お母様からもらった大切なペンダントが…!!」
「落ち着くんだ、モニカ。いつからなくなったのか、思い出せるか?このヤーマスに来る前はあったかい?」
「ええ。きっとこの町のどこかで落としてしまったんだわ!」
「よし、みんな探すんだ!」
ユリアン達はモニカのペンダントを手分けして探し始めた。仲間達の手を煩わせてしまうことに、モニカは申し訳なく思った。
「みんな、ごめんなさい…」
「ここは盗品を買い取るような店がある町だ。誰か他の人間にとられたら売られちまうかもしれない」
ポールがそう言うとユリアンは更に懸命になってペンダントを探し始めた。特にモニカが持っていたものは高価な品である。
「ペンダント、ペンダント、どこなのだー?」雪だるまも一緒になって探す。
モニカは仲間に悪いと思っていたが、仲間達の方は特に気にせずペンダント探しを手伝ってくれた。そして――
ペンダントは町の外の目立たない場所に落ちていた。それをユリアンが一生懸命探して発見したのである。ユリアンの服は埃だらけですっかり汚れていた。そんなことは気にせずペンダントが見つかったことを喜び、モニカのところへ持っていくユリアン。それを見てモニカは胸がいっぱいになった。
「鎖が切れてる。修理しないといけないな」
「これは特に高価なペンダントだからな、下手に素人がいじらない方がいいぞ」
ユリアンパーティーは集まって考えた。
器用な人と言えば……?
「ノーラだ!」
「あの人は鍛冶屋だろ?鍛冶屋って言えば武器をカーン、カーンって打って作る職人だろ。アクセサリを作るのとはちょっと違うんじゃないのか?」
「ノーラの工房は武器と防具両方開発やってるよ。防具の一つとしてアクセサリも開発してる」
「ノーラは今カタリナさんと一緒にいる。よし!それじゃバンガードに戻ったらノーラにペンダントを直してもらおう!」
仲間達は純粋に喜んだ。モニカは感謝の気持ちでいっぱいである。
「ユリアン」
「モニカ、ペンダントが見つかってよかったな!」
「はい。本当に何とお礼を言っていいか……特にユリアン、あなたはあんなに一生懸命探してくれて……」
「モニカの大切なものなんだ、当たり前だろう?」
ユリアンは笑顔でモニカの手を握った。
「……!!ユリアン、ありがとう」
自分がなくしたアクセサリを懸命に探してくれるユリアン。探して見つけて笑顔で喜んでくれるユリアン。モニカは今まで以上にユリアンのことが好きになった。
ユリアンパーティーはバンガードへ戻りハリードパーティー、カタリナパーティーと合流した。ユリアン達は早速ノーラにペンダントの修理を頼んだ。ノーラは快く引き受ける。
「ほら、直ったよ。これからも失くさないように気をつけるんだね」
「ノーラさん、ありがとうございます」
モニカのペンダントは元通り綺麗に直った。職人であるノーラが丁寧に手入れをし直したおかげでペンダントは以前より輝きを増していた。モニカは丁寧にお礼を言った。
そして再び集まった一行は今までの出来事を報告し合う。
「バンガードを動かす為に必要な玄武術士は集まった。問題はイルカ像だな。グレートアーチへ行くか」
パブにはいろんな人がいる。パブは情報を集めるのに最適な場所である。
「あんた達グレートアーチへ行くのかい?あそこは世界最大のリゾート地だ。海賊ブラックの残した財宝探しも楽しめるらしいぞ」
「そうか……海賊ブラックが残した財宝の一つにイルカ像があるに違いない」
そして、パブのマスターからは赤サンゴについて情報を得た。
「赤サンゴは温海の特産品です」
これを聞いてノーラは顔色を変えた。ノーラは聖王の槍を探している。手がかりは赤サンゴのピアスとジャッカルという言葉。今まで何の情報を得られなかったが、ようやく前に進めそうだ。赤サンゴが温海の特産品。ならばグレートアーチまで行けば更に手がかりが得られるかもしれない。温海というのはグレートアーチ東側の海のことである。
ハリードパーティー、ユリアンパーティー、カタリナパーティーはグレートアーチへ向かうことにした。
実はこのオリジナル小説、書きながら考えて書いていたので、初めから計画的にユリアンパーティーにヤーマスでイルカ像の情報を手に入れさせるなんて全く考えてなかったんですよ。それが思ったより上手く書けたので自分でも驚きです。ポールのこととか。
練磨の書によると、モニカの大切なものは母親にもらったペンダントだそうです。なので、この設定を使ったエピソードを考えてみました。自分でもここまでユリモニネタが思い浮かぶとは思わなかった…
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