ここはウィルミントン。ユリアンパーティーはフルブライトの計らいでこの町に滞在していた。神王の塔で騒動が起きている一方、こちらは穏やかな日々が過ぎていく。フルブライト商会の本拠地であるウィルミントンは、さすがにアビスリーグの魔の手も寄ってこない。フルブライトが全て手を打っていたのもある。

ユリアンパーティーはユリアン、モニカ、詩人、タチアナ、雪だるま、ポールの六人。

彼らはウィルミントンでのんびりと過ごしていた。今日はモニカがハーブティーを買い、みんなでティータイムにしようとお茶の準備をしていた。おやつはタチアナが美味しいお菓子の店を見つけて買ってきた。暖かい昼下がりの穏やかな時間。ユリアン達は和気藹々とティータイムを楽しんだ。

「皆さん、一曲いかがです?」

詩人はいつも持ち歩いている詩人のフィドルを奏で、歌い出した。人との争いとは無縁の、平和で穏やかなひと時。皆で他愛もない話をして楽しむ。タチアナは、ふとモニカのことが気になった。
モニカは元ロアーヌ候女で、ユリアンと共に駆け落ちをしている。一緒に旅をしている中で、モニカはタチアナよりずっと世間に疎かった。城の中で大切に守られて育ったモニカは世間の箱入り娘よりもずっと世の中のことを知らない。しかしモニカは身分の差など気にせず、人を見下すことも、何かに不満を言うこともなく、いつも淑やかでおっとりしている。極めて人の良いお姫様。タチアナは思った。モニカでも負の感情を抱いたりすることはあるのだろうかと。

「ねえ、モニカ」
「何ですか?タチアナ」
「モニカでも誰かを嫌いになったりすることってあるの?」

和やかな雰囲気が流れていたのが一旦途切れた。

「だって~、今までモニカが怒ったの見たことないし、誰かの悪口を言ってるのも見たことないし」
「何を言っているのです?タチアナ。人間誰しも好きなものと嫌いなものがあります。私だってもちろん嫌いな人間はいますよ」
「へえ~、それは誰?」
「それはもちろん、お兄様を狙う者です!!!!!」
「え…」

日頃穏やかな雰囲気のモニカは急に力説し出した。

「お兄様はロアーヌ侯爵ですから、何かと敵が多いのです。爵位を継ぐ前から命を狙われることも珍しくなかった。でもお兄様は私にとってたった一人の大切な兄!そのお兄様に危害を加えるような人間は大っっっ嫌いです!!!!!」
「…あ…そ…そう…」

タチアナが思っていたのとは違う答えが返ってきた。

「ああ…お兄様は今頃どうしているのでしょう…二度と会うことはできなくても心配ですわ…」
「モニカ…」
「ユリアン、いいのですよ、私はロアーヌに戻るわけにはいかないのです」
「だけど、この間トーマスに聞いただろ?」

トーマスはロアーヌがビューネイの襲撃を受けた際、ミカエルの元へ行き、ミカエルに同行してビューネイと戦った。結果は敗北だったがなんとか生還することに成功し、ビューネイはグゥエインの協力を得たハリードが倒した。その後、トーマスはロアーヌを去る時にミカエルに伝言を授かっていた。

『トーマスよ、もし今後モニカに会うことがあったら伝えてくれ。もう政略結婚を強いることはせぬし、ユリアンを罰することもせぬ。いつでもロアーヌへ戻ってくるがよいと』

「モニカ、君さえよければ――」
「いえ、やはり私は帰りませんわ。だって、政略結婚を断った手前もあります。ロアーヌに戻っても、私、どうしていいかわかりませんもの」

ユリアンは黙った。このまま駆け落ちを続けた方がいいのか、ミカエルの元に戻った方がいいのか、どちらがモニカの為になるだろう。モニカにも考える時間が必要であり、ユリアンにも必要だった。

ユリアン達がこうしてティータイムを過ごしていると、空に黒い影が現れた。ユリアン達は思わず注目する。
それは黒き竜、グゥエインであった。大きな翼をはためかせ、どこかへ飛んでいくようだ。

「あれはグゥエイン……どこへ行くんだろう。あっちは南東の方角だけど……」

グゥエインはその背に戦友ハリードを乗せ、神王の塔へ向かっているところだった。そんなことはユリアン達は知る由も無かった。



ここはナジュ砂漠。ミカエルはマスコンバットの第二次遠征、最後の敵と戦うところだった。

「殿、この砂漠では水・食料が続きません。敵味方ともモラルが低下しています」
「そうだな、引き上げ時だろう。だが、神王教団がやすやすと帰してくれるかな」

砂漠での戦い。軍のモラルはもうあてにならない。

「神王教団っ!全軍出撃!!」

敵は神王教団。教団兵を全軍出撃させたようである。ミカエルは疾風陣で戦った。ある程度時間が経つと敵兵の様子が変わった。

「信じる者達…」
「速攻後退!」

ミカエルは急いで後退を命じた。敵は爆裂部隊を使ってきた。後退せずにあのままいたら被害は甚大だっただろう。爆裂部隊を避けられた敵軍は兵力もモラルも減っている。ミカエルは一気に突撃を仕掛け、勝負をつけた。



マスコンバットの戦いで勝利したミカエルは今回の戦の話をつける為、神王の塔へ向かった。ロアーヌ侯爵として神王教団長ティベリウスと国家間の話し合いをする。ティベリウスは頭を抱えた。自分のあずかり知らぬところで配下のシャルルが勝手な行動を起こし、ミカエルの軍に戦を仕掛けたようなのである。マクシムスの件もある。教団の長として、この不始末をどうすべきか。
ミカエルの方はティベリウスとの話し合いを進める中、家臣からカタリナがこの神王の塔にいることを知る。マスカレイドを取り戻したことも。ミカエルはカタリナを呼び寄せた。

「カタリナ」
「ミカエル様、お久しぶりでございます」
「マスカレイドを取り戻したようだな」
「はい」

カタリナはこれまでのことを簡単に話した。マスカレイドを長い間探し続け、やっと神王教団のマクシムスがマスカレイドを奪った人物だと突き止めた。そしてマクシムスを追ってこの神王の塔までやってきた。マクシムスは戦いにより討ち取り、とうとうマスカレイドを取り戻すことに成功したのだ。ミカエルはカタリナの話を黙って聞いていた。

「見事だ。カタリナ、マスカレイドはそのままお前が持っておけ。そして神王教団と話がついたら私と共にロアーヌへ帰ろう」
「はい、ミカエル様」



トーマスは神王の塔でトレードをやっていた。ここの物件はアビスリーグに加盟しており、尚且つ厄介なものが多かった。トーマスは手こずりながらも物件買収を続けていく。
マスカレイドを取り戻したカタリナはミカエルと共にロアーヌへ帰ることになり、トーマスは着実にトレードを進めていた。ティベリウスは教団の指導者として多忙な状態である。そんな矢先だった。

「大変だ!モンスターの群れがこの神王の塔にやってくるぞ!」

砂漠の過酷な暑さをものともせず、様々な形態のモンスター達が大量に神王の塔に押し寄せてきた。今は教団軍の残兵とミカエルのロアーヌ軍がいるとはいえ、人々は恐怖に包まれた。モンスター達は何かを探しているようだった。

「宿命の子…宿命の子…」
「ここにいるはずだ…探せ!」

これを聞いて人々は大騒ぎになった。三度目の死食の生き残りである宿命の子がここにいるというのである。そしてここは神王教団の本拠地。教団の信者達は狂ったように宿命の子を探し出した。

「神王様が…神王様が現れたぞ!」
「神王様が我らの前にお姿を現わして下さった!」
「神王様を探せ!そしてこの塔に迎え入れるのだ!」

神王の塔は未だかつてない大混乱に陥った。少年はこれを見て真っ青になった。人間達には誰が宿命の子かどうか見分けることはできない。だが、アビスの魔物達には一目でわかるそうなのだ。そして今、そのアビスの魔物の群れがこの塔に押し寄せている。このままでは少年が宿命の子だということが皆に知られてしまう。少年だけではない、サラも実は宿命の子であり、このたびの死食による宿命の子は二人いるのだということも。人々がこれを知ったら――更に神王教団に知れたら――少年もサラも真っ青になった。

神王教団は現在マクシムスの後始末に追われ、ミカエルとのマスコンバットにおける国家間の話し合いの最中である。商人の世界ではアビスリーグが物件をどんどん加盟させている。そこへやってきたモンスターの群れ。宿命の子を探してアビスの魔物達が神王の塔に襲いかかる。
そして、このような事態になっているとは何も知らないハリードはグゥエインの背に乗って神王の塔へ向かっているのだった。





練磨の書によるとモニカはハーブティーが好きで、嫌いなものは兄を狙う者だそうです。それを元にエピソードを考えてみました。
さて、のんびりしているのはユリアンパーティーだけで、ストーリー展開は大変なことに。私の完全なオリジナルの話ですが、また続きを楽しみにして頂けたら幸いです。




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