神王の塔は未だかつてない大混乱に陥っていた。マクシムスの件とミカエルとのマスコンバットの件でせわしない状態にあるところに大量のモンスターの群れが襲いかかってきたのである。そしてモンスター達は宿命の子を探しているのだという。それを知って人々は大騒ぎになり、神王教団の信者達は宿命の子を半狂乱になって探し出した。アビスの魔物達は宿命の子を一目見ればわかるらしい。このままではサラと少年が宿命の子であり、今回は宿命の子が二人いるのだということも公になってしまう。サラと少年は青ざめた。
その時、レオニードが二人を先導した。

「二人共、こっちへ来い!」

レオニードは神王の塔の内部でわかりにくい部屋の一つにサラと少年をかくまった。

「おまえ達、騒ぎがおさまるまでここから絶対に出るな!いいな!」
「は、はい!」



モンスターの襲来により、神王教団の残兵とミカエルの軍は人々を守る為に戦うことになった。その中でカタリナ・トーマスパーティーも応戦する。エレンも戦っていたが、妹のサラが見当たらない。少年もいない。レオニードもいない。この戦いの最中ではぐれてしまったのだろう。仕方なしにトーマスの元へ行って加勢する。

(きっとどこかに隠れているのよ。きっとそうよ)

エレンは仲間として少年が宿命の子だということは知っている。サラのことはまだ知らないままだ。宿命の子である少年がモンスター達に発見されたらまずいことになるのはわかっていたので、まずはトーマス達と協力してこのモンスター軍団を追い払うことにした。



ハリードがグゥエインの背に乗って神王の塔へ着いた時には、塔の周辺はまさに混戦の真っ最中だった。

「これは…」
「どうやらモンスターの襲撃を受けているようだな。丁度いい。このまま教団もろとも滅ぼしてしまうか?」

グゥエインは凶暴な竜である。人を助けるなどという発想はない。ハリードが上空から見下ろすと、エレンを見つけた。敵の攻撃を受けて傷を負っている。

「エレン!」

ハリードはグゥエインを降下させ、エレンを襲っていたモンスター達を蹴散らした。グゥエインに乗って現れたハリードを見てエレンは驚く。

「ハ、ハリード!?」

ハリードはグゥエインの背から一旦降り、エレンの無事を確かめた。エレンはモンスターの目的が宿命の子だということ、サラと少年とレオニードとはぐれてしまったこと、少年はおそらくどこかに隠れているのではないかということを話した。近くにいたトーマスもやってくる。

「ハリード、このままでは人々が大勢殺されてしまう。おまえも一緒に戦ってくれ!」
「……………」
「ハリード?」

ハリードがここへ来たのは神王教団へ復讐する為である。察しのいいトーマスは慌てた。

「ハリード!ここには教団の信者ではない普通の人々もたくさんいるんだ!頼む!」

ハリードの様子はいつもと違った。エレンもトーマスも不安そうに見守った。罪もない人々がどんどん殺されていく。祖国が滅びた光景が思い浮かぶ。

「……………クソッ!……………グゥエイン!まずはモンスター共を蹴散らすぞ!」

グゥエインは黙ってハリードを背に乗せ、舞い上がった。

ハリードとグゥエインが参戦したことにより戦況は一変。グゥエインのブレスとハリードの剣技の前に、モンスター達はどんどん倒れていった。ミカエルは軍を率いてモンスターと戦っていたが、上空のハリードとグゥエインの戦いぶりには圧倒された。

「あの黒き竜グゥエインと共に凄まじい戦いぶりだな。まさに渾名『トルネード』そのものだ」

戦況不利と見て、モンスターの群れはようやく去っていった。ティベリウスは教団の指導者としてひとまず安堵する。

「皆の者、死者は手厚く葬ってやれ。怪我人は直ちに手当てをしろ」

共に戦ってくれたということでティベリウスはミカエルに丁寧に礼を言った。そして戦況報告としてハリードのことを知る。『トルネード』の渾名を持つ元ゲッシア朝の王族。そう、ティベリウスが滅ぼした国の王族なのだ。彼がいなかったらもっと被害は甚大なものとなっていた。本来なら神王教団の長として感謝の意を示すべきなのだが、亡国の王子がここへやってきた目的を考えると、対応に悩んだ。おそらくは何か教団に復讐をするつもりで来たのではないか。こんな事態の最中に。ティベリウスは更に頭を抱えることになった。



死者の弔いと怪我人の手当てが続く中、神王教団の信者達は宿命の子を探し始めた。

「どこだ。どこだ。神王様はどこにおられるか?」

三度目の死食から十五年。宿命の子は現在十五歳だということ以外、何もわかっていない。信者達は十五歳前後と思われる少年少女を片っ端から捕らえた。

「神王様!」
「違う!僕は十六歳だよ!」
「神王様!」
「私は十四歳よ!」
「ええい!これでは埒があかない!十五歳前後の少年少女を全て塔に集めるのだ!」

エレンは慌ててサラと少年を探した。だがどこにも見つからない。そんな中、信者達は少年少女を狂ったように探し、捕らえて塔に連れて行った。
仕方なしにエレンはハリードを探す。ハリードはグゥエインの背から降りて地上にいた。エレンは神王教団の信者達が宿命の子を探していることを話した。サラと少年がまだ見つからないことも。ハリードは鋭い目つきで神王の塔を見た。十五歳前後と思われる少年少女が次々と連れ去られていく。今まで黙って状況を見ていたグゥエインは翼をはためかせた。

「ハリード、我はいつでもおまえに加勢するぞ。我を呼びたければいつでも呼ぶがいい」

そう言うとグゥエインは飛び立ち、塔から少し離れたところに飛んで行った。

「エレン、ついて来い」

ハリードはエレンを連れて神王の塔の内部へ侵入した。エレンはハリードのまとう雰囲気が未だに殺気立っているのに不安を感じていた。



ハリードとエレンは神王の塔の内部へ侵入し、十五歳前後の少年少女が集められている場所を見つけた。遠くから様子を窺う。サラと少年の姿はない。

「ハリード、どうする気?」
「あいつらがサラと少年を連れてきたら………信者共を斬る!」
「そ、そんな!」

しかしいつまで経ってもサラと少年は現れなかった。信者達が必死に探しても見つからないところまで逃げているのだろうか。
そして、誰が宿命の子かと半狂乱になっている信者達のところへティベリウスが現れた。

「これ、おまえ達、落ち着くのだ。乱暴はいかん。この中に神王様がいらっしゃるというのなら、丁重に扱わねばならんぞ」

神王教団の指導者ティベリウス。ハリードの祖国ゲッシア朝ナジュ王国を滅ぼした張本人。ハリードの中で復讐の念が膨れ上がる。気が高ぶり血が沸き上がった。

ハリードはカムシーンを抜き、ティベリウスに斬りかかった。





私の完全なオリジナルの話ですが、ハリードとティベリウス、ゲーム中でも何かイベントが欲しかったですね。



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