ハリードはティベリウスに斬りかかった。間に信者達が立ちはだかる。信者達はティベリウスをかばい、次々と斬られていく。その場は大騒ぎになった。そして信者達を押しのけ、とうとうハリードはティベリウスに斬りかかる。ローブが裂け、血が滲み出た。そこにミカエルが現れた。

「皆の者、ハリードを取り押さえろ!」

ミカエルの兵士達がその場をおさめる。ハリードをティベリウスから引き離す。ハリードは暴れたが、ミカエルが、カタリナが、トーマスが、そしてエレンがハリードをしっかりと抑え込んだ。

「クソッ!離せ!離せ!」



騒ぎの後、この事態を収める為、社会的地位の一番高いミカエルが代表として、その場にいた者を取りまとめることになった。

「現在神王教団が抱えている問題は幾つかあるが、まずはハリードのことを解決するのが先決だ」

ミカエル達はハリードの方を見やる。

「ティベリウスの身柄を俺に引き渡せ!首をはねてやる!」

一同は困り果てて顔を見合わせた。ハリードがティベリウスを憎むのはもっともなことである。祖国を滅ぼされた復讐をするのなら、信者達を斬るのではなく、教団のトップであるティベリウスの首を要求するのが妥当だろう。しかし………

「今、この大混乱の中、ティベリウスが殺されたらどうなる?」

神王教団は今となっては大国に匹敵するほどの一大勢力である。その教団の長が殺害されるなどということがあればとんでもない大混乱に陥るだろう。信者達が暴動を起こすことは十分に考えられる。国の主が殺されるより教団のトップが殺される方が厄介だ。大国に匹敵するほどの一大勢力。政界へも経済界へもかなりの影響が出る。ゲッシア朝と神王教団の確執はそう簡単に解決する問題ではない。国を滅ぼされた王族としての恨みはミカエル達にはわからない。推測はできてもハリードの憎しみを完全に理解することはできない。

ミカエルは内心苦渋を抱えながら、ロアーヌ侯爵としてハリードに矛を収めるように説得し始めた。トーマスもフルブライトと共に経済界のトップとしてハリードの説得を始めた。ティベリウスが死んだら大混乱になり、教団以外の人々の生活まで脅かされることになると。エレンも説得に加わりたかったが、ミカエルやトーマスが政治や経済の観点から話をしているのを聞くと、自分の出る幕ではないと思い、不安そうに見守っていた。



一方、サラと少年はレオニードの機転によって、神王の塔内部のわかりにくい部屋の一つに隠れていた。レオニードは密かにこれまでの騒動を見ていた。モンスター襲来と信者達の宿命の子探し、そしてハリードの起こした騒ぎ。現在ミカエル達が政治経済の観点から説得に当たっていること。一部始終をサラと少年に話す。

「ティベリウスさん、ハリードに殺されちゃうの…?」
「そんな…」
「ゲッシア朝を滅ぼしたのは神王教団。指揮をとっていたのは指導者のティベリウス。ハリードがティベリウスの命を狙うのは当然のことだ」

レオニードは淡々と述べる。

しばらくすると、レオニードはまた外部の様子を見に出て行った。サラと少年は怯えて顔を見合わせた。

「サラ、どうしようか…」
「うん…」

二人は宿命の子である。宿命の子が魔王聖王を超えた神王になると信じて疑わない宗教団体、神王教団。宿命の子として二人は神王教団に対してどのようにしたらよいのだろう。このままではティベリウスがハリードに殺されてしまうらしい。自分達が神王になると信じて一国すら滅ぼしてしまった教団。滅びた国は今まで共に旅をしてきた仲間のハリードの祖国。サラも少年も、元々内気で引っ込み思案な性格である。こんな事態にはただおろおろするばかりでどうしたらいいのかわからない。だが、まだ年若い二人の少年少女はなんとか自分達にできることはないかと考えた。

「…冷たい考え方をすれば、僕達がティベリウスさんを助けなければならない義理はないよ…」
「でも…」

サラは納得できなかった。

「確かに昔のティベリウスさんは過激なことをやる人だったわ。でも今は違う。それに砂漠の神様の怒りに触れたんでしょう?もう罰は受けてるわ。ハリードの気持ちはわかるけど、ううん、完全にはわからないけど、私はティベリウスさんが殺されることには反対だわ」
「うん、そうだね…レオニードさんの話だと他にも何か難しいことを言っていたね。政治経済の観点からどうとか…」

一大勢力となった神王教団のトップが殺害されるなどということになったら世の中にどんな影響が出るか。サラも少年も施政者ではないし、まだ子供なので難しいことはわからなかったが、漠然とどのようなことになるかは想像できた。

「やっぱりティベリウスさんが殺されることには反対だよ」
「でも、どうしたらいいの?私達にできることは何?」

サラと少年は健気に考えた。宿命の子として生まれた自分達が今、ここでできることは何なのかを。



「ハリード、そなたの気持ちを考えると非常に心苦しいのだが、神王教団の指導者であるティベリウス殿が暗殺されるなどということになったらどうなるか、教団による砂漠一帯の統治が崩れればどういうことになるか、今一度考えて欲しい」
「ハリード、ここには教団以外の人々もたくさんいる。教団の統治が崩れたら人々の生活もメチャクチャになってしまう。頼む!ハリード、ここは手をひいてくれ!」
「ハリード、ロアーヌ候として頼む」
「トーマスカンパニーの社長として頼む!ハリード!」

ミカエルとトーマスにそれぞれ説得されるハリード。そこへサラと少年がやってきた。

「ハリード!」

サラと少年はハリードの元へ駆け寄ると、それぞれ両側からハリードの手を握った。

「ハリードさん、………もし神王が現れたら、きっとこの教団を良い方向へ導こうとすると思うんです。平和の為の宗教団体になってもらおうとすると思います。…僕には世界のことも宗教のこともよくわからない。…でも、神王ならきっと、何より人々の平和を望みます!」
「ハリード、もし神王が現れたら教団だって昔とは変わっていくわ。それにハリードが来る前に私、ティベリウスさんに聞いたの。ティベリウスさんはもう罰を受けてるわ。お願い、ティベリウスさんが殺されてしまったら、人々の生活がメチャクチャになってしまうんでしょう?ねえ、ハリード、私達はアビスゲートを閉じる旅をしているのよね?それはアビスの魔物を追い払って世界を平和にする為よね?人々の生活をメチャクチャにする為じゃないわよね?」
「ハリードさん、お願いです!ティベリウスさんを殺すのはやめて下さい!」
「ハリードお願い!」
「おまえ達…」

サラと少年は自分なりに考えた言葉で必死にハリードを説得した。そこへ傷の手当てをしたティベリウスがやってくる。

「ティベリウス…俺が斬りかかった時、逃げなかったな」
「……………」

ティベリウスは黙ったまま、こうべを垂れている。

「既に覚悟は決めていたのか…」
「ハリードと言ったな、神王様が現れたらこの命、おまえにやろう。わしの首一つでおまえの気が済むのなら。だが神王様が現れるまでは待って欲しい。神王様が現れたら、この教団のあり方も一から見直し、おまえ達ゲッシア朝の人間のことも、ゆくゆくは考えて行こう。この砂漠一帯も、世界中の教団信者達にとっても、最も良い方法を考えていきたい。わしの望みは世界の平和と繁栄なのだからな」

ハリードはしばらく黙っていた。サラと少年はそれぞれハリードの片手を握って見守った。
ハリードは今まで神王教団へ復讐する機会をうかがっていた。教団への憎しみと周りの人々の思いで葛藤する。特にサラと少年の真っ直ぐな目、ひたむきな思い。


「畜生っ!」


一言、大声で悪態をつくと、ハリードは外へ出て行った。

「ハリード…」
「しばらくそっとしておこう。一人にしてやるんだ」





引き続き私の完全なオリジナルの話ですが、ストーリー展開については本当に頭を悩ませました。
基本的に、私の二次創作はなるべく原作重視ですし、ティベリウスは仲間にできるキャラクターの一人。この時点でハリードに殺させるわけにはいきません。
グゥエインに神王の塔を破壊させてもよかったですが、ゲームのエンディングでは普通に塔建ってますし。
どうしようかなあと。かなり悩んだ結果、こういうストーリーに。



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