ハリードの一件はひとまず解決した。ミカエルは神王の塔へ来た本来の目的を果たすことにした。マスコンバット第二次遠征、国家間の話し合いをティベリウスと始めた。今回は教団軍を任せていたシャルル将軍が勝手な行動を起こしたこと、先日のモンスター襲来でロアーヌ軍が人々を守る為に戦ってくれたこと、ハリードの起こした騒動を取りまとめたことなどの謝罪と謝礼として、ミカエルは神王教団から50万オーラム手に入れた。教団と話をつけたミカエルはカタリナを連れてロアーヌへ帰っていった。

マスカレイドを取り戻したカタリナはミカエルと共にロアーヌ帰還の途中であった。マスカレイドを奪われた時は自害して詫びようかと思うくらい思いつめていたカタリナ。取り戻す機会を与えてもらい、マクシムスを倒し、雪辱を果たした。ミカエルからは今まで通りマスカレイドを所持することを認めてもらい、名誉回復。あれからロアーヌの状況は少々変わっている。モニカがユリアンと駆け落ちしている。今までモニカの侍女兼ボディガードとしてモニカに仕えていたが、彼女はもういない。モニカはユリアンと共に現在ウィルミントンにいる。それはカタリナも知っていたが、ミカエルに言うべきかどうか迷っていた。とにかくは一旦ロアーヌへ戻って落ち着こう。そして今まで通り敬愛する君主ミカエルに仕えよう。

ロアーヌ軍と共に帰還している最中も、カタリナはミカエルの方ばかり見ていた。気がつくとミカエルを目で追っているのである。久しぶりに会ったカタリナの想い人。相変わらず冷静沈着で完璧な美貌である。恋心をつかれてマスカレイドを奪われたことを考えると胸が疼く。憧れの人のそばに仕えることができるだけでいい。それ以上のことは望むまい。
そのうちに進軍の途中休憩に入った。カタリナパーティーは皆、カタリナと共にロアーヌへ帰ることになっていた。休憩の最中、カタリナの元へノーラがやってきた。

「カタリナ、思えば長い道のりだったね。二人でマスカレイドと聖王の槍の手がかりを探してさ。いつまで経っても見つからないと思ったら、手がかりを得たら後はあっという間だった。マクシムスは倒したし、これで親方も浮かばれるよ」
「そうね。私達の旅は終わったのだわ」
「…ねえ、カタリナはあのミカエル侯爵が好きなの?」
「な、何よ急に」
「見てればわかるわよ」

カタリナは急に慌てた。端から見てわかるほどミカエルばかり見ていたのだとしたら今後気をつけなければならない。

「ミカエル侯爵かあ…クールな感じの美男だね。カタリナはああいう人が好きなんだ」
「え、ええ」
「カタリナはマスカレイドを取り戻してちゃんと名誉挽回した。ミカエル侯爵はまだ独身だし、カタリナはロアーヌ貴族だし、ひょっとしたらひょっとするかもよ」
「私はおそばに仕えることができるだけでいいのよ」
「カタリナもまだ若い女なんだから、夢見たっていいのよ。いつか、きっと、幸せになれるといいね」
「ノーラ……ありがとう」

その時、カタリナとノーラの元にウンディーネとボストン、ブラックがやってきた。ブラックはティベリウスを抱えている。

「その人はティベリウスさんじゃないの。一体どうしたの?」
「ボストンが見つけたんだ」
「いやあ、びっくりしましたよ。砂漠の中に光ってるものがあったから何だろうと思って近づいてみたら、ティベリウスさんの頭だったんですよ」

砂漠の暑い日差しの中、ティベリウスのハゲ頭は眩しく光り輝いていた。

「熱中症で倒れてたのよ。玄武術で応急処置はしたわ。早くテントの中に連れて行きましょう」

ティベリウスが倒れているのをボストンが見つけ、ウンディーネが術で回復し、ブラックがここまで抱えてきたらしい。カタリナ達はロアーヌ軍の陣営のテントへティベリウスを連れて行った。



しばらく休ませると、ティベリウスは目を覚ました。カタリナ達はどうして砂漠の中、一人で倒れていたのか事情を尋ねる。

「わしの知らないところでマクシムスとシャルルが勝手な行動を起こしていた。これはわしの失態じゃ。責任を取って教団長の座を降りることにしたのだよ。今、神王教団はわしの腹心達に任せてある。わしは責任を取って教団長の座を降り、尚且つ神王様を探すことにした。神王様を見つけ出すまで塔には帰らん。この間の騒動でわかったのだよ。神王様はただ待っているだけでは現れない。こちらから探して神王の塔にお迎えしなければ。そういうわけで、わしは一人で神王様を探す旅に出ることにしたのじゃ」

カタリナ達は顔を見合わせた。

「でも一人で砂漠を旅するのは危険よ」
「危ないところを助けてもらい、かたじけない。申し訳ないが、わしもロアーヌまで一緒に連れて行ってくれんか?」

カタリナ達は困ったが、このままティベリウスを一人放っておくわけにもいかない。

こうして、カタリナパーティーにティベリウスが加わった。

カタリナはミカエルに事情を話した。ミカエルは内心驚いたものの、ティベリウスの同行を許可し、共にロアーヌへ帰還することにした。



再び神王の塔。トーマスは神王の塔のトレード物件を全て買収することに成功した。これでここはアビスリーグに加盟することはないだろう。もちろん買収工作をしかけられて物件を奪われないように気をつけなければならない。油断は禁物である。神王の塔における一騒動も全て解決した。ミカエルとカタリナもロアーヌへ帰っていった。トーマスはピドナに帰ることにした。エレンとサラに別れの挨拶に行く。

「エレン、ハリードはどうしてる?」
「塔から少し離れたところでグゥエインと一緒にいるわ…」
「そうか……ティベリウス殿は神王の塔から旅立たれたよ」
「えっ?」
「今回の一連の出来事について責任を取るんだそうだ。一つはマクシムスやシャルル将軍の不始末の責任を取って教団長の座を降りること。もう一つは責任を持って神王を探し出すことだ。それで一人塔から旅立たれたのさ」
「そう…」

サラと少年は二人して俯いてしまった。ティベリウスは二人が宿命の子であることを知らない。一方レオニードはいつでも落ち着いている。

「ならばもう流血沙汰にはならないな。ハリードが狙っていたのはティベリウス一人。信者達をいくら斬っても仕方がない。あとはハリードが落ち着くのを待つだけだ」
「そうですね、レオニード伯。それでは僕はそろそろピドナへ帰ることにします」
「トム、帰っちゃうの?」
「そうだよ、サラ。まだアビスリーグとの戦いは終わっていないからね」

トーマスはしばらくサラを見つめた。

「サラ、俺はピドナにいる。辛くなったらいつでも俺のところへおいで」
「うん、ありがとう、トム」

トーマスは優しい目でサラを見つめる。サラは顔が熱くほてるのを感じた。今でもトーマスのことは好きである。だがサラは宿命の子。四魔貴族との戦いを途中で投げ出すわけにはいかない。アビスの魔貴族との戦い全てに決着をつけたら、その時こそトーマスの元へ行こう。そして想いを告げるのだ。

「少年君、俺の代わりにサラを守ってやってくれ」
「は、はい…」
「それじゃあエレン、サラ、またな。ハリードを頼んだよ」

別れを告げると、トーマスはピドナへ帰っていった。



そして問題はハリードである。エレンもサラも少年も、心配そうに遠くのハリードを見る。

「ハリードの方から戻ってくるまで待つのだ」

レオニードがそう言うと、エレン達も頷いた。



ハリードは神王の塔から少し離れたところにグゥエインと共にいた。

「……人間社会とは面倒なものだな」

事情を聞いたグゥエインはそれだけ言った。そして大きく羽ばたいた。

「乗れ。こんなところで塞いだ気分でいても仕方あるまい。この砂漠一帯を飛んで回るぞ」

グゥエインはハリードを乗せると、大きな翼をはためかせ、大空に舞い上がった。黒き竜は広大なナジュ砂漠を飛び回る。砂漠とリブロフを隔てるエルブール山脈まで飛行を続けた。
グゥエインの背に乗り、上空の風に吹かれながら、ハリードは亡国に思いを馳せていた。ハリードの目的は生き別れのファティーマ姫を探し出し、王国を再建すること。しかし、未だに姫は見つからない。王国の再建も現実には難しい。一度滅びた国はそう簡単に復興させることはできない。単に王族の生き残りがいればいいわけではない。他にも亡国の生き残りの実情、砂漠地域の実態を考えると、王国の再建は非常に難しかった。それがわかっているだけに、ハリードはやるせない気持ちだった。過去のゲッシア朝の思い出。もう二度と戻れない昔の日々。せめてファティーマ姫だけでも見つかれば……
ハリードはリブロフで得た情報を思い出した。諸王の都にファティーマ姫がいるという噂。



やがて、グゥエインに乗ったハリードはエレン達の元へ戻ってきた。

「もういいのか?」
「グゥエイン、礼を言う。ありがとう。これからは仲間達と旅を続ける」
「そうか。我が必要な時はいつでも呼べ。我が友よ」

グゥエインは今回の出来事に関してどう思ったのか、多くを語らなかった。また大きな漆黒の翼を広げ、舞い上がり、ルーブ山地へ戻って行った。
ハリードは仲間達を見渡した。エレン、サラ、少年、レオニード。

「すまないがおまえ達に頼みがある」

ハリードは諸王の都のことを話した。

「ハリードはそこへ行きたいのね。わかったわ」

エレン達の承諾を得て、ハリードは諸王の都へ向かうことにした。果たしてファティーマ姫はそこにいるのか?





神王教団関連のイベントが一通り終了し、ミカエルとカタリナはロアーヌへ帰ることに。
ティベリウスが仲間になる時のネタがハゲしか思いつかなかった…
トーマスもピドナへ帰ることに。
荒れるハリード。

次回は諸王の都です。



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